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その5 ナオ、おみやげをもらって帰る

これにて番外編終わり。

そして第四部突入です。

 三日間をワイルドエルフの集落で過ごしました。

 わたしはシーアについて回り、ワイルドエルフの生活を学びます。


 基本、一日二食。

 朝食と、早めの夕食だけです。ただ、保存食みたいなもので気が向いた時におやつを食べます。

 この保存食、食べられる葉っぱを乾かして、それに甘みをつけたものでした。

 カサカサしてるのですが、口に入れるとだんだんふやけてきて……。


「あまーい!」


「でしょー。これ、エルフ麦の葉なの。これを絞って汁を乾かすと粉が残って、それだけをまとめてお団子を作ったりするのね。だからこれは、お団子のもと。私たちはお団子の赤ちゃんって呼んでるの」


「葉っぱなのにお団子の赤ちゃん! 不思議ですねえ。それに、葉っぱなのにお腹にたまるような……。お団子になるくらいの粉が詰まっている葉っぱということは、これ自体が穀物として食べられるのかも」


 もぐもぐやりながら、わたしは考えます。

 これは先輩に報告必須案件です!

 あの人、生物学の権威ですから。

 きっと、嬉々としてエルフ麦の葉っぱの利用を研究し始めるでしょう。

 開拓地の運営そっちのけで。


「むふふ」


「ナオがなんだかにやにやしてる! 何か嬉しいことかんがえたの?」


「すごく嬉しいことです!」


 集落で見聞きすることは、何もかもこんな感じです。

 新しい発見に満ちています。

 ワイルドエルフは、千年もの間、人間との接触を絶ってきました。

 だから、彼らの生活は謎に包まれているのです。

 今回も、先輩とわたしが特別だから招かれたに過ぎないわけで、まだワイルドエルフたちの間には、人間への怒りや隔意が根強いです。


「よー、ピンクの髪! もうすぐ帰っちゃうのか?」


「やだー! ピンク、もう少しいなよー」


 わたしのお世話係である子供たちが、袖を引っ張ってきました。


「大丈夫ですよー。もう少しいますから! あと、みんながこっちに遊びに来てもいいんですよ」


 そう言うと、子供たちはむつかしい顔をしました。

 赤毛くんが彼らを代表して口を開きます。


「おれたち、まだこどもだから、外に出たらだめなんだ。百歳くらいになって、大人になんないといけないんだ」


 そして、ちらっとシーアを見ます。

 シーアが頷きました。


「私がね、だいたい、ちょうど百歳くらいなの。あなたたちと会ったのは、実は始めて森の外に出る任務を与えられた時だったんだよ。なので、私が初めて見たエルフ以外の人は、あなたとジーンが初めてなんでした」


「そうだったんですか!」


「そうだったのー」


 意外な事実!

 わたしにとっても、シーアは初めて出会ったワイルドエルフです。

 お互い、特別な存在なのかもですね。

 ちなみにシーアの口から、先輩の名前が語られてましたけど、わたしの本名だけは避けていました。

 これ、先輩は特別なんだからだそうです。

 幾つもの二つ名を持つ者は特別だから、本当の名前で呼ぶことがある。

 その時、誰もがその名を持つ者に敬意を持っている、とか。


「ピンク、服が苦しそうー」


 緑の瞳ちゃんが、わたしの服の裾を掴んで言います。

 これはですね、実はシーアから借りた服なんです。

 ワイルドエルフの衣装は、植物の繊維を編んだ下着と、動物の皮で作った上着に分かれます。

 植物の方は締め付けも緩くて、紐を調整すれば大丈夫なんですけど……。

 皮の上着はむつかしいですよねえ。


「むむっ、ピンクの髪の胸元は特別なの。今朝、採寸して今作ってるところなんだから仕方ないの」


 ちょっとむくれて、シーアが答えます。

 そう、胸元がちょっときついんですよね。

 なので、皮の上着は胸の上に乗っかっているみたいになっています。


 集落の人たちは、一昨日狩った鹿を使って、わたしの上着を作ってくれるそうです。

 わたしの採寸をしていたエルフの女性は、


「森の外に住んでる人って凄いのねえ。みんなこうなの?」


 と興味津々で聞いてきました。

 どうなんでしょう?

 とりあえず、アマーリアとカレラさんはけっこう大きいような……?


 そして、わたしの体型に合わせた衣装は手間がかかるんだそうで、後日開拓地に送ってくれることになりました。

 今日は、シーアや子供たちと、最後に集落の中を見て回って……。

 いよいよお別れです。


「ぜったいまたこいよ!」


「おれたち大人になったら、ピンクの髪のところ行くから!」


「えー、その頃にはピンクの髪はもうおばあちゃんじゃない?」


「あ、そっか……。エルフと他の人でとしのとりかたちがうんだった」


 しょんぼりするのはつんつん頭くんです。

 そっか、お互いに流れる時間が違うのって、こういうこともあるんですね。

 新しい気づきです。

 街で暮らしてる普通のエルフは、せいぜい、普通の人間の二倍くらいの寿命です。

 ですけど、ワイルドエルフは十倍も生きるし、その分だけ成長も老化もゆっくりなんです。

 この話については、エルフ研究の権威だっていう賢者ウニスさんが今度遊びに来るそうなので、詳しく聞いてみましょう。


「つんつんくん。またきっと、ここに遊びに来ますから」


 わたしが彼と目線を合わせると、つんつんくんはじーっと私を見てきました。


「ほ、ほんとだな。まってるからな」


「ほんとです。約束です」


「よーし、じゃあ、ゼフィロスに誓うか」


「ゼフィロスって、風の凄い精霊さんですよね。はい、誓いますよー」


 わたしがそう口にしたら、びゅうっとすごい風が吹きました。

 風が、わたしたちを巻くように流れて、つむじを巻いて空に上っていきます。

 なんでしょう、これ……!


「ゼフィロスが聞いた! 約束はぜったい果たされる!」


 つんつんくんがにっこり笑いました。

 なるほど、ワイルドエルフにとって、約束っていうのは特別なものみたいです。

 しかも、ゼフィロスに誓った約束は、さらに特別みたいな……。


「ナオ……じゃなくてピンク。あのね、ゼフィロスの名のもとに約束するのは、軽々しくやっちゃだめよー。ま、ゼフィロスの方でも分かってて、ダメな約束は却下してくれるけど」


 シーアが忠告してくれました。

 やっぱり、これって特別な儀式だったのでは?


 集落の方からは、ゼフィロスの風が吹いたことに気付いた大人のエルフが慌てて走ってきます。

 子供たちは、しまった! っていう顔をしました。


「じゃあなピンク!」


「またね!」


「ぜったいに来いよ! ゼフィロスの名のもとの約束だからな!」


 大人に追いかけられて、子供たちは逃げていってしまいます。

 わたしは彼らに向けて手を振って……お別れです。





 エルフの通り道を、今度はサッと抜けました。

 緑の回廊が終わると、二日ぶりなのに、ずいぶん懐かしく感じる光景が広がっています。


「うーん、なんか落ち着くなあ……」


 シーアがしみじみ言いました。

 わたしも同じ気持ちです。

 ここは、わたしたちの家ですもんね。


「じゃあ、さっそく先輩に会いに行かなくちゃ」


 わたしは、この三日間で書き溜めたメモを用意し、鼻息を荒くしました。


「はいはい。付き合うよ。ジーンも絶対喜ぶよね」


「ですよね!」


 そして向かったログハウス。

 ですけど、わたしのメモは、すぐ先輩に読んでもらう……というわけにはいかなかったのです。

 なぜなら、ログハウスの前には立派な馬車が止まっていて……。


「ここが、あの男の家ですの!? 大きいだけの掘っ立て小屋ではありませんか!!」


 初めて聞く女の人の声がしたのです。

 誰でしょう?


 馬車からは、武装した騎士に守られて、ドレスを着た女の人が降りてきました。

 まだ年は若い感じの、黒い髪の女性です。


「せっかく、サッカイサモン公爵家の娘、アスタキシアがこんな田舎者のもとに嫁ぎに来たのですわよ? 出迎えもないとは何事ですの!!」


 うわあー!

 なんだか大変なことになる予感がします!!

騒動の予感漂う第四部は、近日更新開始です。

サッカイサモン公爵家からやって来た刺客……もとい、嫁と名乗る女子アスタキシア!

ジーンの、そしてナオの運命やいかに!?

的な感じで、さほどお待たせすることなく再開します。


第四部は、押しかけ婚約者騒動と、本格的な開拓事業のお話。


並びに、感想やブクマ、評価などもありがとうございます。とても励みになっています。




最新話最下部に、評価フォームがございます。


ジーンの物語が、面白い、続きを読みたいと思っていただけたなら、こちらから評価ポイントを送信していただけますと執筆の大いなる原動力となります。


お気が向きましたら、どうぞよろしくお願いいたします。

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[一言] ゼフィロスの名にかけて交わされた約束が実現しますように。
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