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63話 投入、ワイルドエルフ

「オブ、岩の道を作ってくれ。一度地上に出て、私の信頼できる仲間に同行を依頼する」


「? 構わんぞ。一日に一度しか作れぬ道じゃから、手早く済ませるのじゃぞ」


 オブにドワーフの通り道を作ってもらい、開拓地へ戻ることにした。

 今後の地下世界における行動のためには、彼の力が必要なのである。

 岩の道が出来上がり、私はナオ、カレラ、アマーリア、オブ、そしてクロクロを連れて地上へやってきた。


「眩しイ!」


 差し込んできた日差しに、クロクロが呻いた。

 そうか、産まれて初めて見る太陽というわけか。

 外に出て、太陽の高さを測る。昼過ぎといったところか。

 地下世界にいると、時間感覚が狂う。


「ドワーフの魔法か!」


「また突然現れた!」


 周囲には、ワイルドエルフたちがいる。

 臨戦態勢である。

 そして彼らの中心に、あの男がいた。

 彼は険しい表情で岩の道を見つめていたが、そこから私が姿を現すと、目を丸くして、次いで口をぽかんと開いた。


「ジーン、お前か」


「そうとも、トーガ。君の力を借りに来たのだ」


「ドワーフどもを助けろと? ことわ」


「ドワーフに恩を売れるぞ」


「むっ」


 トーガが目を見開いた。

 そして、仲間たちと視線を交わす。

 オブの表情が苦しげに歪んだ。

 ワイルドエルフたちの口角が吊り上がる。


「いいだろう。俺が手を貸しに行こう。気に食わんダークドワーフどもだが、見捨てたとあってはエルフ全体の沽券に関わる。俺が、全エルフと試練の民を代表し、ダークドワーフを救いに行こう」


 ワイルドエルフの諸君が、うんうん、と何度も頷く。

 オブは何か奇声を上げながら、地団駄を踏んでいる。

 種族的には悔しかろうが、君の種族を救うためにはこれしか無いのだよ。

 ちなみにクロクロは冷静なものだ。


「感謝すル。風の民ヨ」


 舌を出し入れして、トーガの言葉に嘘がないことを確認したようだ。

 彼は身を屈めて、ワイルドエルフと視線を合わせる。


「なに、気にするな、炎の民よ。精霊界を故郷とする同胞の苦境は見過ごしておけん」


 トーガとクロクロは仲良くなれそうな気がするな。


「えっ、兄さんが行くの? じゃあ私も行くー! ナオとカレラがいるんでしょ?」


 一人増えた。

 シーアとナオが手を取り合って、「久しぶりー」とはしゃいでいる。

 まだ、せいぜい三日ぶりくらいだと思うが。


「すっかりシーアが、人間の時間感覚に染まってしまった……。まあ、たかが数十年の寄り道くらいはいいか」


 ため息をつくトーガである。

 そして我々はこのまま地下へと戻る……というわけにはいかなかった。


「ジーンさんが来てるって? おーい、ジーンさん! あんたにお客さんだよ!」


 マスタングが走ってくる。

 その後ろには、王国の正装に身を固めた男性が、ふうふう言いながら続いている。

 あの姿では、この開拓地はさぞ暑かろう。

 正装の男性は私の前まで来ると、しばらく息を整えた。


「わっ、わ、わた、しは」


「王都からの使者だね? ロネス男爵が、先日の神を巡る騒ぎを報告したのだと思うが」


 私の言葉に、使者は頷いた。

 ようやく落ち着いてきたようだ。

 顔をあげると、のっぺりとした顔立ちで、ひょろりとしており首が長い。

 ウナギのような男だ。


「その洞察力、皆が語るとおりです。さすがですな。今はお取り込み中と聞きます。私は騎士、イールス。ビブリオス騎士爵をお連れする任務を受けている故、こちらで待たせてもらいます」


「ああ、構わない。待っていてくれるなら好都合。むしろ、我々と同行したいなどと言われては困るところだった」


「ビブリオス卿は、いつもとんでもない状況に好んで踏み入っていかれると聞き及んでおります。私は平和主義者でして」


「賢明だ」


 地下世界を救った後は、どうやらまた王都に行かねばならないようだ。

 そこでまた、クレイグと相見えることになるであろうし、恐らく私は正式な貴族としての爵位を授かることになろう。

 今後もイベントは山積みである。


「ではイールス卿、また。そうお待たせすることは無いかと思う」


「ごゆっくり。私はのんびりするのも好きなのです」


 我々は新たな仲間を二名加え、再び地下世界へと向かうのである。




 地下に戻ってすぐ、現れたクークーに、シーアが飛びついた。


「かわいい! 綺麗! リザードマンってステキな鱗の色艶してるのね! お目々ぱっちりー」


 抱きしめられたクークー嬢が、困って手を小さくばたつかせている。

 これを見て、クロクロが目を細めた。

 さて、大人数になった我々である。

 私、ナオ、トーガ、シーア、アマーリア、カレラ、オブ、クロクロ、クークー嬢。そしてダークドワーフとリザードマンの有志が十名ずつ。

 これだけを伴い、根の検分に向かう。

 マルコシアスは、化石の里で昼寝を始めてしまったので置いてきた。


「なるほど、これがレイアスを分断した根というやつか。植物の精霊力を感じるが……それはむしろ微弱だな。土の精霊力が、大きく蓄えられている」


 トーガの目が、根を分析していく。

 ダークドワーフも多少は精霊力を見ることができるが、ワイルドエルフには及ばない。


「トーガ。この根は、どこにも繋がってはいない。だが、根としての本分を果たすため、恐らくこの世界の魔力を吸い上げているんだ。溜め込まれた魔力は、この巨大な根の中に溜め込まれていることだろう。私が探してほしいポイントは……植物の精霊力が、一番薄くなっているところだ」


 これを聞いて、トーガがにやりと笑った。


「話は読めたぞ。お前、根の壁が最も薄くなっている部分を破壊するつもりだな?」


「そういうことだ。よく分かったね」


「それなりにお前とは付き合いがあるからな。だんだん分かりもする」


 笑いながら、トーガは根に手を触れ、ゆっくりとそれを移動させた。

 背後で暴れる牙の叫び声が聞こえる。

 リザードマンとドワーフが臨戦態勢になったようだ。

 だが、これは、地上から山ほど瓶を持ってきたシーアが食い止める。

 風の精霊魔法で瓶を飛ばし、中に詰まったアロマが暴れる牙を倒すのだ。


「暴れる牙ガ、あんなにあっさりト……」


「相性だと思うよ。ジーンがこいつの弱点を探ってくれてなかったら、こんなでかい怪物、どうしようもなかったもん」


 クロクロとシーアの会話に、クークー嬢が何か肯定的な感情を込めた声を掛けている。

 シーアのみならず、カレラがポーションシューターで、アマーリアは即席のスリングを使って、アロマの瓶を暴れる牙に叩きつけている。

 後ろの守りは彼らに任せ、我々は根の攻略と行こう。

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