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61話 現地人発見

 辺りに、甘い香りが漂うようになって来た。


『くさい』


 マルコシアスが呟く。

 魔狼である彼が、快く思わないにおい。

 つまり、獣よけのアロマを採取できる場所であると言えるのではなかろうか。


 岩場であり、あちこちに青い苔が生えている。

 近づいてみると、香りが強くなった。

 これだ。


「大型の獣が嫌がる香りを放ち、身を守っているのか。なるほど……」


 苔の一部を削り取り、瓶に入れておく。

 暴れる牙と退治した時に、二つほど瓶を使用してしまったから、残りは大切に使わねばならない。


「ジーンさん」


 私の肩を、カレラが叩く。


「ドワーフがいるわ」


「現地人ということかね?」


「だと思う」


 彼女は、物陰からこちらを伺うダークドワーフを見たのだと言う。

 ダークドワーフもリザードマンも、地下世界のあちこちに散らばって暮らしていたのだそうだ。

 それが根で分断され、生死が分からなくなっていた。

 だが、暴れる牙が闊歩するこの場所で、ドワーフは生きていたのだ。


「オブ、ドワーフがいたぞ。呼びかけてみてくれ。我々は味方だとな」


「おう、分かったぞい!」


 オブが、ドワーフ語で叫ぶ。

 他のドワーフやリザードマンたちもそれに倣い、声を張り上げた。


「何を話してるんだね?」


「我々は味方だーって言ってるの」


「むむむ、わたし、ちょっとだけドワーフ語が分かってきました」


「ま、言葉っつーのは習うより慣れろ、だよね」


 我々四人はそんな会話をしつつ、状況が動くのを待つ。

 やがて、呼びかけに応えて現地人は姿を現した。

 数人のダークドワーフと、驚くことにリザードマンである。

 彼らは、骨と金属を組み合わせた武器を手にして、恐る恐るやって来たのだ。


 こちらとあちらは、お互いに味方であることを確認する。

 実に十年の時を経て、彼らは再会したのだ。


「喜んでますね! 良かったです!」


 ナオがニコニコする。


「でも、ドワーフとリザードマンは仲が悪いんだと思ってたんですけど」


「それは、オブの里に限った話だろう。こちら側では、二つの種族は力を合わせ、生き延びてきていたのだね。これがオブとクロクロが仲直りするきっかけになればいいが」


 しばらく眺めていると、再会を喜びあう行為が終わった。

 現地の彼らは、こちらを住居に招いてくれるようだ。


「あちら側とは、また違った文化を見られそうだ……」


 実に楽しみである。





 ドワーフとリザードマンが同居するのは、大きな岩をくり抜いた住居だった。

 すぐ近くに湧き水があり、そのせいか空気が湿っている。

 辺り中に、香りを放つ青い苔が生えていた。


「やはり、彼らは苔を使って暴れる牙を遠ざけていたね。そして、青い苔は水場を好んで生える。自然、この苔に寄り添えば、生活に必要な水を確保できるというわけだ」


 この苔は、我々が降り立った側の地下世界には生えていなかった。

 恐らく、生育条件があるのだろう。

 私はその調査を開始する。


「ジーンさんが熱中し始めた。これはもうだめね……」


「カレラ、あっち行こうよ。この人がこっちに戻ってくるまで、あたしらで調べられる事調べておこ?」


「そうねえ……。ナオ、ジーンさん見てて」


「はーい! 先輩はわたしにお任せです!」


 女子の間でそんなやり取りがあり、足音が遠ざかっていった。

 私は苔を削り、その土台になっている岩に触れたり、砕いたものを舐めたりして記録する。

 そんな私の横で、ナオは鼻歌を歌いながらのんびりしているのだ。

 マルコシアスが昼寝を始めた。

 時間がゆっくりと流れていく。


 ここ最近、忙しかったからな。

 時間を気にせずに調査に没頭できるのは、久々のことだ。

 大変幸福な時間である。


「ああ、やはり……。この岩質が苔を生育するために必要なのか。ほんのりと、苔と同じ匂いがする……。もしや、これ自体は岩ではなく、例えば巨大な獣の化石であったりするのではないか?」


 私は少し距離をとって、岩場を見渡してみる。

 ドワーフとリザードマンの住居であるこの岩場。

 離れて見ると、歪な形をしていることが分かる。

 基本的には幾つかの小山が点在し、その中は空洞になっている。

 この空洞を利用して、住居としているのだ。

 そして、小山の他に、点々と苔を生やす細長い岩が転がっている。


「恐らく……化石だ。しかも巨大な生物のものだな。暴れる牙と同サイズはあるだろう」


 手乗り図書館に記録する私に、ナオが駆け寄ってきた。


「化石なんですか? じゃあ、ここは暴れる牙の墓場だったのかもしれないですね」


「かも知れない。まだ、何とも言えないけれどね。しかし、だとすると、暴れる牙がこの土地に近寄らない理由は、アロマが嫌いだからだけではないかも知れない」


「そうなんですか?」


「これが暴れる牙の墓場なら、彼らにとってこの香りは、死を想起させる香りなのでは無いかな? 用もないのに、好んで墓地に近づく者は少なかろう。ましてや、それが死者を弔うという概念を持たないかも知れない、大型の肉食動物ならば」


「なるほどー! 確かにそうかもですね! へえー。上手く出来てますねえ」


「あくまで推測に過ぎないがね。情報が揃わない内に、推測に頼ってしまうことは危険だ。だが、全ての情報が揃うまで、推測すらしないのは怠慢だよ」


 遠景での、辺り一帯を記録しておく。

 そうだな、この地域は、化石の里と名付けよう。

 

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