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59話 暴れる牙

 根の頂上に到着すると、これは大変見晴らしがいい。

 ちょっとした丘ほどの高さがあるが、それでも天井は遥か遠く。

 根の向こう側には、さらに広い地下世界が存在していた。


「なるほど、あちこちから根が張り出して、この世界を分断しているのだな」


「あわわ……」


 後ろから登ってきたナオが、ふらついて私にしがみついてくる。


「先輩、なんだかこの根の上、力が入らないんですけどぉ」


「なにっ、どういうことかね?」


「多分、この根が魔力を吸ってるんだと思います。この間の神様みたいにですね……」


「なるほど……。この大きさの根が何を栄養として存在しているのか不思議だったが、水ではなく魔力だったか。いや、まだ決めつけるには早いな。だが、ナオの体感は重要な情報として記録しておこう……」


 手乗り図書館を展開して、ナオの体調を記録する。

 その他、クロクロとダークドワーフの一部にも体調不良があることが分かった。

 誰もが、強く魔力を帯びた者ばかりである。

 根が近くのものの魔力を吸い上げている可能性は、とても高い。


「なんちゅうか、ここに来ると冷静じゃいられなくなってのう。で、下を観察もせずに降りて行って、暴れる牙に」


 オブが、拳と手のひらを打ち合わせるジェスチャーをする。

 なるほどな。

 私は根の下方を眺めてみる。

 そこには、大きな生き物が大股で歩き回っている姿が見えた。


「あれか……!」


 私は目を細める。

 詠唱を行い、魔力感知を発動してみる。


「魔力は無い。通常の巨大生物か。どれ……」


「兄貴、兄貴! 一人で降りるつもり!? ロープだってまだ張ってないのに!」


 踏み出した所を、慌てたアマーリアに止められた。


「おっと済まない」


「あんた、冷静な風に見えるけど、そういう顔しているだけでいつも冷静じゃないだろう」


「分かってしまったか。その洞察力、君は本当に私の肉親かも知れないな」


「そういうジョークは今はいいから。カレラ! さっさとロープ張るぞー!」


「はいはい。アマーリア、その人は放っておくと勝手に動き出すからしっかり止めておいてね」


 私を何だと思っているのだ。


「皆さんが先輩の扱い方をマスターしていきますね!」


「私はちっとも嬉しくないぞ」


 ナオはいつも喜怒哀楽の喜と楽以外は薄いから、常にニコニコしているのだ。

 いや、今は本心からニコニコしているな?


「よし、準備ができたよ」


「人間、侮れなイ。準備が早イ」


 クロクロが感心している。褒められたカレラは、少し笑った。


「道具が揃ってるだけ。こんなこともあろうかと、ってジーンさんの口癖じゃないけどね」


「こんなこともあろうかト、カ」


「この男、まるで人の心を読んでいるように対処してくるからのう……。全部先読みして備えてあるのか」


 クロクロとオブの会話が被って、二人は顔を見合わせた。

 そして、気まずそうに視線を外す。

 過去のわだかまりがあるのだろうな。


「よし、行くぞ。少しずつ下っていこう」


 私は率先してロープを下っていく。


「気をつけるんじゃジーン! 奴は鼻がきくぞ!」


「貴重な情報をありがとう。なるほど……上から見ると頭でっかちの巨大なトカゲだ。鼻が動いているぞ。流れてくる我々の臭いに反応しているのだろう。よし、もっと近づいてみよう」


「お、おいジーン!!」


「気をつけロ。あれは少しの距離であれバ、あの二本足で登ってくル」


「それも貴重な情報だ」


 私はロープを伝い、少しずつ下っていく。

 暴れる牙は、とうとう私に気付いたようだ。

 巨大な頭が上を向く。あれは、トカゲというよりは鼻面の短いワニだろうか?

 なるほど、鼻孔が大きい。

 あれで私の臭いを嗅いだのだろう。


『────!』


 叫び声が響く。

 体にビリビリ来るな。


「ワニは鳴かない。あれは喉と鼻孔をフルに活用して上げる咆哮だ」


 暴れる牙は、私を見上げて目を細める。

 視力はあまり良くないようだな。

 嗅覚に頼っている。

 彼は根に爪を突き立て、跳び上がってきた。

 大きく口を開き、牙で私の足を食い千切るつもりなのだろう。


「ジーン!」


 オブとクロクロが悲鳴をあげる。


「落ち着きたまえ。野生動物にとって、重要な感覚器は嗅覚である場合が多い。こんなこともあろうかと備えておいてよかったよ」


 私は、背負っていた弩弓を取り出した。

 そこには、既に中身を満たした瓶がセットされている。


「お前、それは出来損ないの弩弓……」


「道具はそれ単体の性能ではない。使い方さ」


 私はすぐ近くに迫った、暴れる牙の鼻先に向けて、弩弓を放った。

 瓶が放たれ、そこそこの速度で彼の顔に叩きつけられた。

 瓶が砕け散る。


 効果は劇的だった。


『──!?』


 暴れる牙は一瞬、その動きを止めた。

 目を剥き、鼻孔を動かす。

 そして、


『────!!』


 絶叫した。

 首を振り回しながら、のたうち回る。

 根の壁面をキャッチしていた爪が解けた。巨体が束縛を失い、地面へ向かって落下していった。


「よし。この弩弓、さながらポーションシューターとでも呼ぶべきかもしれないな」


「な、なんダこの臭いハ」


 クロクロの鼻詰まり声がした。

 お分かりいただけたようだ。


「アロマだよ。獣避けに使うものを、凝縮して瓶に詰めた。これを鼻先に炸裂させられたんだ。嗅覚に頼る動物ならばひとたまりも無いさ」


 大地の上に横たわった暴れる牙は、全身を痙攣させている。

 二本足しかない彼では、顔に付着したアロマを取ることはできまい。


「さて、珍しい生き物を手に掛けるのは私の主義ではないのだが……」


 頭上に向けて手を振る。


「諸君! 後は任せた!」


「了解ダ!!」


「お、おう! やるぞい、お前ら!」


 何本ものロープが垂らされる。

 ドワーフたちが、カレラの真似をしたらしい。

 これを伝って、ダークドワーフとリザードマンたちが駆け下りていく。

 落下の勢いを使い、槍が、ドワーフの武器が、暴れる牙へと叩きつけられる。


 この原始的狩りの光景を見下ろしていた私だが、突然肩に衝撃が走った。

 ふんわりとしたものが私の上に乗っている。


「ナオ? 無茶をしたね」


「先輩がいるから大丈夫だと思いました! やりましたねー! いざという時はアロマが決め手ですね!」


「ああ。野生動物は大抵、嗅覚が重要な感覚器官なんだ。場合によっては聴覚、あるいは視覚である場合もあるが……。見たまえナオ。足元で行われている光景は、まるで原始を思い起こさせる狩りのようじゃないか」


 やがて、暴れる牙は我が仲間たちによって狩られ、私に巨大な資料を差し出すことになった。

 ぜひとも解剖してみたいのだが……。

 しばらく先になってしまうのだろうな。


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