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53話 民俗調査

 リザードマンが動きを見せるまで、調査を行うこととした。

 まず、一日目である今日。

 我々はダークドワーフの里に宿を作ってもらった。

 岩の精霊に呼びかけて、石造りの家を召喚するのである。


「一瞬だね。しかも、周囲の家と同じ作りをしている。これは、家を作る精霊魔法として完全に体系化されているのでは?」


「ジーンさん、難しい言葉使わないで! 通訳しづらいから!」


 質問を訳してもらおうとしたら、通訳者のカレラに叱られてしまった。

 オブがいない時、我々とダークドワーフの通訳は、ドワーフ語に堪能なカレラにお願いしているのだ。

 彼女はボルボから習ったと言っていたが、大変流暢にドワーフ語を話す。


「ダークドワーフの言葉って、訛りがきついドワーフ語なのよ。だから大体、意味が通じるの。独自の単語はちょっとわからないものが混じってるけど」


「大変心強い。後でドワーフ語を教えてくれないだろうか?」


「わたしもわたしも!」


「ええっ……カレラが通訳してくれてんじゃん。なんでわざわざ言葉を覚えるわけ……?」


 アマーリアは理解できない、という顔をする。

 現地の言葉をマスターするということの意味が分からないらしい。

 通訳者は私ではない。

 故に、私が現地人に聞きたいことを、十全にニュアンスを汲み取って通訳することは不可能である。

 私がドワーフ語をマスターすれば、どの言葉を用い、どのように質問するかを試行錯誤することが可能になるのだ。


「……ということだ」


「へえ……。考えたことも無かった。そっか、あたしが伝えたいこととか、あいつらの言葉を覚えればちゃんと伝えられるってことなんだねえ。確かにその方が色々助かることが多そう」


「じゃあ、アマーリアさんも一緒に勉強しましょう!!」


 ナオがアマーリアの手を握って、目を輝かせた。

 だが、言語の学習は夜に行うのである。

 この世界のアカリゴケは、朝、昼、夕方、夜とその明度を変える。

 明るい時間帯は調査に回したい。

 私は夜目が利くが、十分な光の下でなければ調査する対象の色は分からないし、闇の中では凹凸の見え方も変わる。


「では、カレラ。これから里を歩き回るが、同行を頼めるかね?」


「ええ、もちろんよジーンさん」


 初めて会った時は、敵味方に近い関係だった彼女である。

 だが、我が開拓地の領民となった今では、良い関係を築けているという自負がある。

 ナオは当然の顔をして私の後をついてくる。

 その後ろにはアマーリア。


 我々四人は、ぞろぞろと連れ立ってダークドワーフの里を歩く。


「これは何かね?」


 見かけた、一際大きな家を指差す。

 よく見れば、幾つもの家が積み重なっている。

 家の壁が階段のようになっていて、これを昇ってより上の家に入れるようだ。

 集合住宅だろうか?


「ふんふん。えっと、これは倉庫だよ、だって」


 カレラの通訳を聞いて、感心する私。


「では、同じ家でも積み重ねることで倉庫、並べれば住宅、と形状によって使い分けていると?」


「えっと、そうだって。高い所にある家だと、寝起きで出てきたら転がり落ちて危ないから、だって」


「なるほど、合理的だ」


 その後、あえて壁を取り払い、柱に見立てた石筍のみによって天井を支えられた家を見た。

 ダークドワーフの女性たちが賑やかにお喋りをしつつ、その中で料理を作ったりしている。


「ここはなんだろう」


「えっと、共同の台所? だって」


「なるほど! ダークドワーフは家庭単位で料理をするのではなく、部族単位で料理を一度に作るのか。そうすれば、皆の生活リズムが一体になるし、ここで女性たちが情報交換をする……よくできている」


「ジーンさん、私そこまで話してないけど……」


「先輩が色々推測するモードになったみたいですねえ」


「兄貴めんどくせー」


 失礼な。

 私は思いつきで物を言っているのではなく、カレラの説明を受けながら、ドワーフの女性たちの仕草などを見て分析しているのだ。

 種族は違えど、知的生物であることは人間と変わらない。

 言葉を使い、衣服を纏い、道具を用いて暮らす以上、生き方は似てくるものだ。

 ここは言わば、ダークドワーフにとっての井戸端会議をする場所、ということだ。


「料理しているものを見せてもらっていいかね?」


 私が彼女たちの中に入り込んでいくと、慌てて彼らが追いかけてきた。

 ダークドワーフの女性陣は始め驚いていたようだが、すぐにニコニコして受け入れてくれた。


「えっと、神様を倒した男って聞いて、ちょっと怖かったけど、変わってるけど人の良さそうな感じなのね、だって」


「そうとも。私は知識の力で神を退けはしたが、あれは正しい知識とやり方が分かれば誰でもできることだ。私は特別ではない。それはそうと、この食材はいったい……?」


 さて、ここで私が調査した、ダークドワーフの本日の食材だ。

 食用の苔。これは里で栽培されている。

 地底世界に生息する、トカゲらしきものの肉。

 キノコ。

 驚くべきことに、魚。

 これらを使って食事を作っている。


「このパンのようなものは? ほう、そこの苔を乾燥させて? 水とキノコの菌糸を繋ぎに使って焼成すると。なに、この焼き窯は煙が出ないのかね!? 火種はいったい……」


「あっ、ついにジーンさんが通訳なしで現地の奥さんたちと意思疎通し始めた……!」


「先輩、こういうときは表情豊かですし、身振りが大きくなりますからね。割とどこに行ってもこうらしいですよ!」


「思ってた以上に変人だ、この人……」


 女子たちの感想を背後に、たっぷりと調査を行なった私だった。

 ダークドワーフの食生活についての知識を得た。

 これを手乗り図書館に記録しておく。

 そして、ダークドワーフの女性陣から言葉を習った。

 食材の名前、料理の名前、そして挨拶である。


 彼女たちと仲良くなった我々は、ダークドワーフの食事に招待され、そこでまた、多くの知見を得ることになるのだった。

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