52話 ダークドワーフの里
原因が分かれば、次は解決策の究明である。
私は女子たちの力を借り、みんなで根の表面を削り取った。
かなりの量のサンプルが集まる。
しかし、どれだけ削っても、まだまだ根の表面。
耳を押し当てても、中を流れる水の音などは聞こえない。
「表皮が厚すぎて、音を遮断しているのだろうか。だとすれば、もっと大きな器具を用いて表面を削り取っていくべきでは……?」
オブは、呆れた顔で我々の作業を見ている。
「お前ら、よく怖がりもせずにやってられるなあ。そいつ、わしらの魔法の工具で傷をつけると、たちまちのうちに塞がってしまうんじゃ。それで、何人も根の中に取り込まれたわい……。リザードマン連中の武器は槍じゃ。それじゃあ、根を傷つけることはできん。奴らは火も吐くが、火は根を焼くどころか、太くするばかりじゃった。ましてや、奴らの親玉であるドラゴンの炎の吐息でもなあ……」
「今ドラゴンと言ったか」
聞き捨てならぬ言葉を耳にした。
私は振り返ると、オブまで駆け寄り、彼の肩をしっかりと掴んだ。
「ドラゴンがいるのかね。この地下世界に!」
「お、おう! いるぞ。なんじゃお主。リザードマンと言ったら、その主はドラゴンに決まっておるじゃろうが」
「そんな常識は地上の世界には無いな。リザードマンは火も吐かず、直立したトカゲ型の人類に過ぎない」
「なんじゃと? リザードマンが火を吐かないとは何事じゃ! あやつらは、火の精霊力に最も親しい種族じゃぞ!」
うーむ。
これは、私とオブとの間で、リザードマンという種族に対する認識が決定的にすれ違ってしまっているようだ。
地下のリザードマンは、私が知るものとは違う存在なのか?
王都にも、リザードマンの王国から使者や旅行者がやってくることはあった。
冒険者だっている。
王都は差別意識旺盛な所だが、あまりにも人間とかけ離れた姿のリザードマンに対しては、差別どころか、区別する感覚になってしまうらしい。
彼らは人間に比べて異質過ぎるのだ。
そんなリザードマンが、この世界ではドラゴンを主に据え、しかも口から火を吐くだと?
なんということだろう。
「地下世界レイアス、恐るべし……。本当に来て良かった……」
「先輩が涙目になって感激してます!」
「なんで涙目になるの!?」
「わかんねえー」
カレラとアマーリアには、私の感激が分からないようだった。
なに、すぐに分かるようになるさ。
□□□
いつまでも根の周りにいると、リザードマンがやってくるらしい。
オブが脅すように言うので、とりあえず我々はダークドワーフの里を目指すことになった。
一見して広大な地下世界レイアス。
だが、やはりここは閉鎖空間なのだ。
数時間歩いたかと思うと、石造りの家並みが見えてきた。
「あれじゃ。おーい、みんなー!」
オブが走っていく。
里からは、ばらばらとダークドワーフが姿を現した。
数が多いな。
オブと姿が変わらない、真っ白ひげもじゃが男性。
丸々とした、真っ白な髪と肌のひげなしが女性。
彼らは集まり、なんだかよくわからない言葉で会話をし始めた。
ダークドワーフ語であろうか。
「そういえば、オブさんの言葉、エルフ語でしたね!」
「確かに。敵対する種族の言葉だが、自分たちの一族を助けるために必死に学んだのかも知れないな」
「だけどさ、兄貴。言葉が分かんなきゃどうしようもなくね?」
「あ、私、ちょっとだけ分かるかも。ボルボの国の言葉に近い」
「本当かね!」
カレラからの意外な助け舟が。
ボルボが話す言葉はドワーフ語であろう。
それに近い言語ならば、ダークドワーフは地上世界のドワーフと、どこかで道を違えて地に潜ったのかも知れない。
これは文化人類学の系統に足を突っ込むな。
生物学で読み解けないこともないか。
「ではカレラ。可能な限り、通訳を頼んでも良いかね?」
「ああ、構わない。せっかくついてきたんだから」
「ありがとうございます、カレラさん!」
ナオが感激して、カレラの服の袖をぎゅっと握りしめた。
カレラの表情がゆるむ。
「いいのよ、ナオのためだもん」
仲良しである。
ナオには、同性とすぐに仲良くなってしまう才能があるのかも知れない。
母性本能をくすぐるのだろうか?
気がつくと、ダークドワーフたちは我々の周りに輪を作り、わあわあと話しかけてくる。
アマーリアは少々引き気味だが、あれは歓迎の仕草であろう。
彼らの口角が上がっており、目尻は下がっている。
ダークドワーフの感情表現が、人間と同じならば、の話だが。
それでも、ワイルドエルフですら人間と同様の感情を示していたのだ。
ここまで同行してきたオブも同様。
ならば、私は、招かれただけの価値があることを彼らに示すべきであろう。
「カレラ。簡単に通訳を頼む」
「ええ。何を言うの?」
「諸君! 私は地上世界ゼフィロシアにて、魔狼を手懐け、神を倒した男だ!」
突然私が朗々と話し始めたので、カレラは目を見開いた。
慌てて、私の言葉をドワーフ語に翻訳し始める。
本来ならこれはオブの仕事なのだが、彼は群衆の中に混じって、未だに何か喋っているではないか。
「諸君らダークドワーフが陥った苦境は、そこにいるオブから聞いた。地下世界は今、未曾有の危機にあるのだろう! 私は、持てる限りの知識と、そして真実を探るこの目と頭を使い、諸君らが直面している苦境を打破する手伝いをする!」
カレラによって通訳された宣言を聞き、ダークドワーフ諸氏は大いに盛り上がる。
うわーっと歓声が上がり、小柄な彼らは飛び上がり、転がり、駆け寄ってきて私の腕や足を親しげに叩いていく。
「ひえーっ」
ついでにナオとアマーリア、カレラも、ダークドワーフの人波に巻き込まれ、悲鳴を上げている。
どうやら、彼らダークドワーフは、思った以上に友好的な種族であるらしい。
少なくとも、ワイルドエルフの方が偏屈だ。
オブも、実に話の分かる人物だったものな。
「ありがたいぞ! ジーン、感謝する! わしにできることがあればなんでも言ってくれい!」
オブも駆けつけてきて、私の両手を握りしめてぶんぶんと振る。
「なんでも協力してくれるか、ありがたい。ではまず、ダークドワーフ諸君の生活や習俗について研究したい。案内してもらえるかね?」
「……は?」
オブが唖然とした。
先程、なんでも協力すると言ったばかりではないか。
強力な現地のスタッフを得た。
これから、思う存分調査に励むとしよう。




