48話 ダークドワーフ
一週間ほど、畑に掛かりきりだったのである。
その間に、ナオは建材の乾燥を終え、オーガ一家の家を建てた。
ついでに用意したのは、より拡大された厩舎である。
オーガ一家が連れてきた荷馬が増えたものな。
そうそう、ゴンドワナとローラシアは発情期に入ったようで、無事に二頭は結ばれたようだ。
始めの頃は、ゴンドワナが遠ざけられていてどうなるかと思ったが、時期が来れば上手くいくものだ。
今頃、ローラシアのお腹の中には赤ちゃんがいることであろう。
身重になった彼女は働けなくなるから、そのかわりにオーガ一家が連れてきた馬がいるのはありがたいことだ。
「新しいお馬さんは、ユーラメリカって名前にしたんですよ!」
とはナオの談。
オーガ一家も、名前は勝手につけてもらって構わないようだった。
「さて、今日も仕事に励むとしよう」
私は農具を揃えると、いそいそ畑へと向かっていった。
「ローラシアも散歩させないとですね!」
隣を元気よくナオが歩く。
「兄貴さ、あたしが来てから毎日毎日畑で土いじりばっかりやってるけど」
アマーリアが当たり前のような顔をして隣を歩いている。
この一週間で、すっかり我々に溶け込んでいるな。
エルフにドワーフ、ハーフエルフに、青い肌のオーガがいる開拓地だ。
黒い肌のシャドウがいてもおかしくもなんともない。
「でさ……ずっとあたしのこと、エルフが見てるんだけど」
「ワイルドエルフは警戒心が強いからな」
「そうなの? なんか敵意を感じるんだけど」
悪く思うなアマーリア。
君は怪しまれているのだ。
初対面の男を兄だと言う女性を、すぐに信用せよという方が難しい。
しかもシャドウ族で、度重なるクレイグによる嫌がらせがあった後である。
監視担当のシーアが、粘り強さを発揮して常にアマーリアの近くにいる。
一応、彼女も夜になると、別の女性エルフと役割を交替している。
監視役を女性だけにしているのは、私なりのフェアプレー精神とでも言おうか。
「では、二人とも、馬を連れてきてくれ。ユーラメリカだったかね? 彼にも開拓地を慣れさせておかねばならないからね。ゴンドワナは仲がいいのかい?」
「歯をむき出しにして警戒してますね!」
「ローラシアを取られると思ってるんだな」
せっかく手に入れたお嫁さんだ。
ゴンドワナの気持ちはよく分かるな。
「そうですねえ。ゴンドワナも苦労しましたもんねえ……。じゃあ、連れてきますね! アマーリアさん!」
「へいへーい」
すっかり打ち解けた風の二人が、厩舎に向かっていくところである。
「いや、待った」
私は二人を制止した。
どうも、開拓地の様子がおかしい。
あちこちに立っているワイルドエルフたちが、森を凝視している。
鬼気迫る様子だ。
「あれ、なんか変ですねえ? へんてこです」
立ち止まったナオが首をかしげる。
「なんていうか、この緊張した感じ、知ってます」
「ああ。知ってるも何も、我々が昨今、連続して体感している空気だ」
曰く、ワイルドエルフの里が魔狼を恐れている時。
あるいは、シャドウストーカーに狙われている時。
そして、神がやってくる時。
「おかしいな。まだ、それらの脅威がやってくるという前触れはなかったはずだが」
「先輩、前触れ無く何か来たりとかすることはあるんじゃないですか?」
「それもそうか」
備えもできない状態で、脅威がやってきてしまったならそれはそれで仕方がない。
人間、できることとできないことがあるのだ。
「それにほら。こういうときって、トーガさんが来るでしょ」
「それもそうだ」
私はその場にとどまり、のんびりと彼を待つことにした。
私とナオがあまりにも落ち着いているので、アマーリアが不審そうにこちらを見てくる。
「ジーン、一大事だ!!」
突然、なにもないところからトーガが現れた。
まるで空気中から溶け出すようだった。
これはつまり、彼は精霊魔法を使って開拓地を巡回したりしているということだろう。
「う、う、うわああああ!」
アマーリアが驚き、へたりこんだ。
「やあ、やはり来たな、トーガ。今度はなんだい?」
「お前はもう……腹が立つほど落ち着いているな!! まあ、いつものことか」
トーガは私を見て落ち着いたらしい。
「ジーン、いいか。侵入者だ。奴らめ、不可侵の約定を破って侵入してきやがった……! くそ、また戦争を引き起こすつもりか!」
「大変そうだな。具体的にはどのようなことが?」
「……ダークドワーフがやってきたんだ!」
ダークドワーフ。
ああ、スピーシ大森林の奥地に住んでいるというドワーフのことだったはずだ。
「どちらに出たんだい?」
「そこだ。森の入口だ!」
「大群かね?」
「一人だ!」
「なら問題なかろう。私が話をしよう」
「お供します先輩!」
「ちょっ、あんたじゃない、兄貴! ナオ! なんでお前ら躊躇せずに!」
慌てた様子のアマーリア。
何を焦っているのか。
「行ってみなければ分からないだろう」
「そりゃ、そうだけど……」
「では行くとしよう」
歩みを進め、森の入口までやってくる。
いつも、エルフ達が通り道を作ってくれる場所である。
そこに今は、大勢のワイルドエルフが立っていた。
誰かを警戒して囲んでいるような状態だ。
「あー、諸君。警戒を解いてくれ。そこにいるのはダークドワーフだろう? 私が相手をしよう」
「おお!! 神を倒した者!!」
「神を倒した者ジーンが相手をしてくれるのか!」
むずがゆい称号の連呼だ。
勘弁してほしい。
だが、私の名前が証となり、この状況を任せてくれるようになるのなら使わぬ手は無い。
果たして、ワイルドエルフ達の中心にいたのは、ずんぐりとした体格でひげもじゃの男だった。
なるほど、我が開拓地にいるドワーフ、ボルボに似ている。
似ているが……。
「おう……。エルフ共ばかりと思って閉口しておったが、話が分かりそうなのが出てきたのう。魔族か」
「半魔族だがね。ダークドワーフ君」
ダークドワーフ。
その名前とは裏腹に、真っ白な肌に白い髪をしている。
目元には、真っ黒なメガネを付けているではないか。
ナオと同じようなアーティファクトかも知れない。
「この土地の主は私だ。ジーン。セントロー王国の騎士爵にして、辺境賢者の称号を得ている」
「ジーン! お主が、神殺しか! おうおう!!」
ダークドワーフは両手を広げた。
「わしはオブ! 神殺しよ! お主の噂を聞いて、崩れ穴の裂け目に潜るつもりでやってきたのだ!!」
駆け寄ってくるダークドワーフのオブ。
警戒するワイルドエルフたち。
私は背後に手をかざし、彼らを制止した。
「その言い回し、細い望みに縋る、という意味合いだね? なるほど。記録だ。そして、私に託したい望みとは?」
「頼む! わしらの里を救ってくれい!! ダークドワーフの里が、無くなってしまいそうなんじゃ……!」




