47話 土壌改良
神を構成した土を、私は『神土』と命名した。
これの効果を確認すると共に、増産できないかを試しているところである。
「ジーンさん、やっぱりこの土すごいぜ。あっという間に麦の芽が生えてくる……! この成長速度なら、ちょっとくらい種蒔きが遅くても収穫時期には間に合いそうだ」
「ふむ、最初はゴーレム用と考えていたが、どうやら畑用に使ったほうが良さそうだね」
毎日、作物の生育具合を記録する。
神土を使っている畑と、使っていない畑。
比較していると、その状況が驚くほど異なっていることに気づくのだ。
スピーシ大森林の土地は、エルフ麦や芋類などが育つのに向いている。
反面、通常の麦や野菜といった作物は、芽吹くことさえ無い。
これは恐らく、土の質と通常の作物の相性が悪いためだろう。
「それが、魔力を加えてやればこれだけ、通常の作物を育ててくれるのだ」
ここ数日間、手乗り図書館に記録した生育状況を確認する。
うむ、あまりにも違う。
魔法かと思うほど違う。
「魔法なのだったな」
「ああ、完全に魔法だぜこれ。ビートルは、この土と普通の土を混ぜて使ってるみたいだ。あいつが言うには、うっすらと普通の土にも、神土の効果が移るんだそうだぜ」
「なんと!?」
それは新たな事実である。
私は、魔術師ビートルの担当する畑へ急いだ。
すると、そこでは作業着姿のビートルのほか、監視役だったはずのワイルドエルフが数名、せっせと畑の世話をしているではないか。
畑作とは、人とエルフの心をも繋げるものなのかも知れない。
「やあ、ジーンさん!」
「おお、魔狼を手懐けた者!」
「神を打倒した者!」
ビートルは振り返って手を振るだけだが、ワイルドエルフたちは笑顔になって駆け寄ってきた。
「なんだ、お前たちの締まらない顔は」
いつの間にか横にいたトーガが、鼻を鳴らす。
「トーガがおかしいんだ」
「その男は、生きながらにして伝説になったのだぞ」
「魔狼を手懐け、伝承にあった神を誰の命も失うこと無く退けた!」
「お、おう」
仲間のエルフたちにまくしたてられ、引き気味のトーガ。
私に助けを求めるような視線を投げてきた。
「まあまあ諸君。そのことは今は重要ではない」
「重要ではない!?」
ワイルドエルフたちが、愕然とした顔を向ける。
私は深く頷いた。
「今、最も大事なことは土壌を改良することだ。ビートルが行なった、神土と土のブレンドが上手くいっていると聞いてね。状況を教えてほしい」
エルフたちの間を抜けて、ビートルのもとに歩いていく。
「ビートル」
「ええ、これです」
みなまで言う必要はない。
私とどこか同類である彼は、見せるべきものをあらかじめ用意してあったのである。
「こちらの容器に入れたのが普通の土。そしてこちらが、神土と大森林の土をブレンドしたものです」
私は魔力感知を使い、それぞれを見比べてみた。
ほう、なるほど……。
大森林のただの土は、土でしかない。
ナオが見れば、微弱な魔力を感知はできるのだろうが、私にはさっぱり分からない。
対して、ブレンドした土は……私にもはっきりと魔力が見える。
濃い部分と薄い部分がまだらになっている。
だが、それはつまり、神土ではない部分にも、私が視認できる程度には強い魔力が移っていることでもある。
「これは素晴らしい……」
土を指に取り、舐めてみる。
ふむ、大森林の土のみと比べ、苦味がある。
舌先に刺激を感じるのは、魔力の味だろうか?
私が考え込んでいると、土がもぞもぞと動いた。
ブレンドされた土から、ピンク色の細長いものが顔を出す。
ミミズである。
「ほう、魔力が溢れる土の中でも、ミミズは生きていられるか。いや、これは……」
手乗り図書館を展開し、記録にあるミミズの記録と見比べていく。
「体内で魔力が循環している……! これは、まさか……神土を食べ、それを通常の土と混ぜ合わせて吐き出しているのか? つまり、この土は……」
「恐らくそうだと思います。神土に触れることでミミズが変化して、二種類の土のブレンドを手助けするようになったのではないかと」
「これは……これは大きな発見だぞ。なるほど、なるほど……!!」
私の気持ちが大いに盛り上がる。
これは細かく調べてみたいところだが……ミミズの数が少ないならば、無駄にするわけにはいかないだろう。
私は彼をそっとつまみ上げ、畑の上に戻してやった。
「素晴らしい成果だ、ビートル。今後も状況をチェックして、私に報告してほしい。育てた麦の育成状況、そして調理してみての結果など、調べることは山積みだ。これは忙しくなってくるぞ!」
私はエルフの一人から、農具を受け取った。
「ジーンさん、今日はもしかして」
「ああ。この畑で働くとしよう! むううっ、私は今、畑作の歴史を変えるかも知れない一瞬に立ち会っているのだ!」
豊かな栄養を蓄えているらしき、神土ブレンド。
作物もよく育つが、その分だけ外部から入り込んでくる植物も育つ。
「雑草が増えてますからね」
「うむ、これはスピーシーアワダチソウの芽だろう。こちらは、スピーシートゲベラで……」
「もしや、既にこれらの草に名前を……!?」
「発見する端から命名している。夜はこれらのサンプルを研究しているのだがね。いや……時間が幾らあっても足りない! 嬉しい悲鳴だよ」
そのまま、調査がてら雑草取りに精を出し、それらのサンプルも大量に採集した。
程よいところで日が傾きだす。
「せんぱーい!」
森からナオが戻ってきた。
元寺院である岩窟からの帰りであろう。
彼女の後に、ぐったり疲れた様子のシーアとアマーリアが続いている。
「やあ、お帰り。どうだったね?」
「順調ですよ! ちょっと最初の木を切り倒すのに、ゴーレムの素を使い切っちゃってて」
「まさか、あんな大木を切ることになるとは思わなかったわよ……」
それでアマーリアがぐったりしているのか。
シーアはシーアで、色々と魔法を使ったのだろう。
ナオが元気なのは、好きなことをやっている時、彼女が驚くべき体力を発揮するからである。
「そういうことで、色々報告したいんですけどいいですか、先輩!」
「ああ。夕食がてら、今日の話をするとしよう」
入植者に、神土の効能、そして新種のミミズ。
ナオはナオで、新しい発見があったのかも知れない。
全く、この開拓地は退屈するということが無いのだ。




