表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/171

46話 暫定妹

「ええーっ!! 先輩の妹さんですか!!」


 この話に飛びついてきたのは、やはりと言うかなんと言うか、ナオだった。


「そう、あたしがこの人の妹よ。多分ね。あんた誰?」


「わたしはナオです! 先輩の後輩なんですよー。よろしくお願いしますね!」


 アマーリアの手を取って、ぶんぶんと振る。

 大変な人懐こさだ。

 ちょっと斜に構えた風のアマーリアも、これには面食らってしまったようだった。


「ちょっと兄貴。この子、あっという間にあたしの間合いに入り込んできたんだけど」


「ナオは距離感が大体いつもそうだ。さあ、入植者諸君。こちらへどうぞ。開拓地へと案内しよう」


 オーガの一家と、私の妹を名乗る女性、アマーリア。

 後者の身上については、真偽は定かではない。

 分からないもの、まだ情報が揃っていないものを、憶測でどうこう言うものではない。

 私が取るべき態度は、アマーリアもまた、入植者の一人として平等に扱うことだった。


「全然動じてないし」


「先輩はよく、人の心が分からないって言われますからねー」


「マジで? 研究者としてそれどうなのよ」


 ぺちゃくちゃとお喋りしながら、ナオとアマーリアがついてくる。

 ワイルドエルフの兄妹は、アマーリアを警戒したままだ。

 基本的に、ワイルドエルフは初対面の相手を警戒する傾向にある。

 早速、トーガが眉を逆立たせて寄ってきた。


「ジーン、本気か? お前の妹などと名乗る女を信用するつもりか?」


「証拠は無いがね。魔族の、しかもシャドウ族ともなれば、数は相当少ない。私の血縁である可能性も、少なくはないと思うよ。無論、彼女の言い分を信用しているわけではない」


「だったら、どうしてあの女を受け入れた。どう見ても怪しいだろうが」


「確かに、私の妹を名乗って得することがあるかと言われると怪しいな」


「ジーンってそういうところ、気づいてるくせに気にしないよねえ」


 シーアが呆れてため息をついた。


「実害があるようならば対処するがね。今のところ、私の肉親であることで得られるアドバンテージは思いつかないんだ。それであるのに、これを自称するということは、本当の肉親であるか……」


 私は視線で、背後の彼女を追った。


「クレイグの手先であるかだ」


 そこには、ナオにぺちぺちハイタッチを繰り返すアマーリアの姿がある。

 うむ、人を疑うのは良くないな。

 彼女のことは、暫定的に妹としておこう。


 到着した開拓地で、新たな入植者を紹介することにする。

 オーガの一家には、新しい家を用意してやらねばなるまい。

 彼らは全体的に体格が大きいため、我々とは生活環境のサイズが違う。


「任せてください!」


 ぐっと力こぶを作ってみせるナオ。

 相変わらず筋肉がついていない。


「およ? ナオ、家を建てんの? そういうのできるように見えないんだけど」


「わたしの専門は建築なんですよ! そうだ、アマーリアさんも手伝ってください!」


「お、おおおっ!?」


 早速、ナオに腕を掴まれて連れていかれるアマーリア。

 ナオは途中で、カレラとサニーと合流。

 さらに、心配そうに後をつけていったシーアを加えて、女子五名で作業に取り掛かることになった。

 賑やかになったものだ。


「さて、ナオの作業で、女性陣はここ一週間ばかり立て込むことになるだろう。来たばかりのアマーリアには悪いが、ナオとは相性が良い女性のようだ。ここは共にいてもらおう」


「お前たちがやっていた作業を任せるというわけか」


「オーガ一家の家だから、大きさは小さくていいのだけれどね。さて、畑に行こうじゃないか」


「ふん、まあ、俺としてはシーアがあの女を見ているのだから、自由にさせておく分には構わんが……ああ、そうだ! 人間は森に入れんからな! あ、待て! 我ら試練の民の制約通りなら、あの女は森に入れるのか! くっ、これは制約の思わぬ穴だ!!」


「君は独り言が多いな」


「お前だって、よく独り言を口にしているではないか」


「これはお互い様だね」


 笑いながら、畑の作業に戻ることにする。

 神を構成していた土を、どの畑に優先的に使い、作物を増産するかという計画を立てねばならないのだ。

 残る男性陣を集め、オーガたちとともに作業開始だ。


「おう、力仕事なら任せてくれ! うちのかみさんも、人間の男よりは腕っぷしが強いからよ」


 バルガドとポルトナが、農具を持って作業に取り掛かる。

 子供は見学かと思いきや。


「おおきいわんこいるー!!」


 地べたで昼寝をしているマルコシアスに気づき、駆け寄っていった。

 狼の姿をした悪魔が、薄目を開ける。

 バル・ポルは物怖じもせず、マルコシアスの脇腹に顔を突っ込んだ。


「もふもふー」


「うおっ!! なんてでかい狼だ!! 危ねえぞバル・ポル!」


 慌てて、バルガドが駆け寄ろうとする。


「大丈夫だ。彼はマルコシアスと言ってね。大変、穏やかな性格をしている悪魔なのだよ」


「悪魔!?」


 ポルトナの顔色が青ざめた。

 無口な女性だが、表情は豊かである。


「知の側面として顕現した悪魔だ。扱いさえ間違えなければ、怖いことは何もないさ。おーい、バル・ポル!」


「なーにー!」


「彼は昼寝をしているんだ。あまり邪魔をしないようにね。君も、昼寝を邪魔されたらいやだろう?」


「うんー! わかったー!」


 話の分かる、賢い子供だ。

 バル・ポルは、マルコシアスに優しくタッチし始めた。

 ゆったりと、翼を動かす魔狼。

 ちょうど、子供が収まるくらいのスペースを空けたらしい。


「驚いた……。あの悪魔は、あんたの言うことを聞くのかい」


「上下関係があるわけでは無い。私と彼は対等さ。あくまで契約関係として、彼は私からの頼みを聞いてくれるわけだ」


「へえ……相変わらず言ってることは難しいが、大したもんだぜ。男爵領で聞いてた噂以上だな……」


「噂だって?」


「たった二人で魔境、スピーシ大森林に挑んで開拓を成功させた、とんでもねえ男だって噂だよ」


「街ではそんな話になってるのか!?」


 それは初耳である。

 あまり有名になることを望んではいないのだが。

 そんな我々の会話に首を突っ込んできたのは、元冒険者のマスタング。


「もう一つ、でかい噂がそこに加わることになるぜ。ビブリオス騎士爵領へようこそ、バルガド。マスタングだ」


「おう! よろしくなマスタング。で、そのでかい噂ってのはなんだ」


「神殺しさ! ここの領主様は、エルフたちにとっても伝説でしか無かった神を、人とエルフの力だけで殺しちまったんだ。こいつはとんでもない話だぜ。なあ、トーガさん」


「う……うむ」


 渋々頷くトーガ。

 彼も、冒険者たちとは打ち解けてきているようだ。

 良いことである。

 そして、私に向けられるバルガドの視線が、尊敬の混じったものに変わっていく気がする。

 やめるんだ。

 私はそんなに大した男ではないぞ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ