46話 暫定妹
「ええーっ!! 先輩の妹さんですか!!」
この話に飛びついてきたのは、やはりと言うかなんと言うか、ナオだった。
「そう、あたしがこの人の妹よ。多分ね。あんた誰?」
「わたしはナオです! 先輩の後輩なんですよー。よろしくお願いしますね!」
アマーリアの手を取って、ぶんぶんと振る。
大変な人懐こさだ。
ちょっと斜に構えた風のアマーリアも、これには面食らってしまったようだった。
「ちょっと兄貴。この子、あっという間にあたしの間合いに入り込んできたんだけど」
「ナオは距離感が大体いつもそうだ。さあ、入植者諸君。こちらへどうぞ。開拓地へと案内しよう」
オーガの一家と、私の妹を名乗る女性、アマーリア。
後者の身上については、真偽は定かではない。
分からないもの、まだ情報が揃っていないものを、憶測でどうこう言うものではない。
私が取るべき態度は、アマーリアもまた、入植者の一人として平等に扱うことだった。
「全然動じてないし」
「先輩はよく、人の心が分からないって言われますからねー」
「マジで? 研究者としてそれどうなのよ」
ぺちゃくちゃとお喋りしながら、ナオとアマーリアがついてくる。
ワイルドエルフの兄妹は、アマーリアを警戒したままだ。
基本的に、ワイルドエルフは初対面の相手を警戒する傾向にある。
早速、トーガが眉を逆立たせて寄ってきた。
「ジーン、本気か? お前の妹などと名乗る女を信用するつもりか?」
「証拠は無いがね。魔族の、しかもシャドウ族ともなれば、数は相当少ない。私の血縁である可能性も、少なくはないと思うよ。無論、彼女の言い分を信用しているわけではない」
「だったら、どうしてあの女を受け入れた。どう見ても怪しいだろうが」
「確かに、私の妹を名乗って得することがあるかと言われると怪しいな」
「ジーンってそういうところ、気づいてるくせに気にしないよねえ」
シーアが呆れてため息をついた。
「実害があるようならば対処するがね。今のところ、私の肉親であることで得られるアドバンテージは思いつかないんだ。それであるのに、これを自称するということは、本当の肉親であるか……」
私は視線で、背後の彼女を追った。
「クレイグの手先であるかだ」
そこには、ナオにぺちぺちハイタッチを繰り返すアマーリアの姿がある。
うむ、人を疑うのは良くないな。
彼女のことは、暫定的に妹としておこう。
到着した開拓地で、新たな入植者を紹介することにする。
オーガの一家には、新しい家を用意してやらねばなるまい。
彼らは全体的に体格が大きいため、我々とは生活環境のサイズが違う。
「任せてください!」
ぐっと力こぶを作ってみせるナオ。
相変わらず筋肉がついていない。
「およ? ナオ、家を建てんの? そういうのできるように見えないんだけど」
「わたしの専門は建築なんですよ! そうだ、アマーリアさんも手伝ってください!」
「お、おおおっ!?」
早速、ナオに腕を掴まれて連れていかれるアマーリア。
ナオは途中で、カレラとサニーと合流。
さらに、心配そうに後をつけていったシーアを加えて、女子五名で作業に取り掛かることになった。
賑やかになったものだ。
「さて、ナオの作業で、女性陣はここ一週間ばかり立て込むことになるだろう。来たばかりのアマーリアには悪いが、ナオとは相性が良い女性のようだ。ここは共にいてもらおう」
「お前たちがやっていた作業を任せるというわけか」
「オーガ一家の家だから、大きさは小さくていいのだけれどね。さて、畑に行こうじゃないか」
「ふん、まあ、俺としてはシーアがあの女を見ているのだから、自由にさせておく分には構わんが……ああ、そうだ! 人間は森に入れんからな! あ、待て! 我ら試練の民の制約通りなら、あの女は森に入れるのか! くっ、これは制約の思わぬ穴だ!!」
「君は独り言が多いな」
「お前だって、よく独り言を口にしているではないか」
「これはお互い様だね」
笑いながら、畑の作業に戻ることにする。
神を構成していた土を、どの畑に優先的に使い、作物を増産するかという計画を立てねばならないのだ。
残る男性陣を集め、オーガたちとともに作業開始だ。
「おう、力仕事なら任せてくれ! うちのかみさんも、人間の男よりは腕っぷしが強いからよ」
バルガドとポルトナが、農具を持って作業に取り掛かる。
子供は見学かと思いきや。
「おおきいわんこいるー!!」
地べたで昼寝をしているマルコシアスに気づき、駆け寄っていった。
狼の姿をした悪魔が、薄目を開ける。
バル・ポルは物怖じもせず、マルコシアスの脇腹に顔を突っ込んだ。
「もふもふー」
「うおっ!! なんてでかい狼だ!! 危ねえぞバル・ポル!」
慌てて、バルガドが駆け寄ろうとする。
「大丈夫だ。彼はマルコシアスと言ってね。大変、穏やかな性格をしている悪魔なのだよ」
「悪魔!?」
ポルトナの顔色が青ざめた。
無口な女性だが、表情は豊かである。
「知の側面として顕現した悪魔だ。扱いさえ間違えなければ、怖いことは何もないさ。おーい、バル・ポル!」
「なーにー!」
「彼は昼寝をしているんだ。あまり邪魔をしないようにね。君も、昼寝を邪魔されたらいやだろう?」
「うんー! わかったー!」
話の分かる、賢い子供だ。
バル・ポルは、マルコシアスに優しくタッチし始めた。
ゆったりと、翼を動かす魔狼。
ちょうど、子供が収まるくらいのスペースを空けたらしい。
「驚いた……。あの悪魔は、あんたの言うことを聞くのかい」
「上下関係があるわけでは無い。私と彼は対等さ。あくまで契約関係として、彼は私からの頼みを聞いてくれるわけだ」
「へえ……相変わらず言ってることは難しいが、大したもんだぜ。男爵領で聞いてた噂以上だな……」
「噂だって?」
「たった二人で魔境、スピーシ大森林に挑んで開拓を成功させた、とんでもねえ男だって噂だよ」
「街ではそんな話になってるのか!?」
それは初耳である。
あまり有名になることを望んではいないのだが。
そんな我々の会話に首を突っ込んできたのは、元冒険者のマスタング。
「もう一つ、でかい噂がそこに加わることになるぜ。ビブリオス騎士爵領へようこそ、バルガド。マスタングだ」
「おう! よろしくなマスタング。で、そのでかい噂ってのはなんだ」
「神殺しさ! ここの領主様は、エルフたちにとっても伝説でしか無かった神を、人とエルフの力だけで殺しちまったんだ。こいつはとんでもない話だぜ。なあ、トーガさん」
「う……うむ」
渋々頷くトーガ。
彼も、冒険者たちとは打ち解けてきているようだ。
良いことである。
そして、私に向けられるバルガドの視線が、尊敬の混じったものに変わっていく気がする。
やめるんだ。
私はそんなに大した男ではないぞ?




