44話 新たな芽吹き
神が崩れ去った後に残った、土塊の山。
これを調べていたところ、意外なことが分かった。
魔力を豊富に含むが故に、ゴーレムを作るのにとても向いていたのだ。
「さらにさらに、ですよ先輩っ!」
ナオが興奮した様子で伝えてくる。
彼女の手には、一つの鉢植えがあった。
土の中からは、この森では見たことがない植物が芽吹いている。
「さらに、どうしたんだい? それに、この植物は?」
「これはですね、麦の芽です! なんと、植えてからほんの一日で、普通の麦が発芽したんです!」
「なんと……!?」
麦を育てるには、土を中和させなければならない。
さらに、堆肥などを使って土壌を改良する必要もあるのだが。
「この土が魔力を含んでいるので、それで麦を活性化させてるみたいなんです。神を動かすには全然足りない魔力でも、麦を育てるには十分なんですねえ」
「なるほど。では、この神であった土の山を用い、麦畑が作れるということだな?」
「はい! 魔力を使っちゃったあとは色々考えなきゃですけど、でも、スピーシ大森林の土は、魔力を与えると作物を育ててくれる! それだけは確かですね!」
「素晴らしい! これで開拓地における作物の問題は、大方解決したと言っていいのではないかな」
「あっ、そこなんですけど、やっぱりわたしたち、畑をやっていくのは素人じゃないですか。なのでここから先に進むには……」
「専門家が必要ということか!」
なるほど、道理である。
どうやらナオは、新たな専門家を招いてほしいと上申に来たようだ。
正しい判断だ。
私はそれを、一も二もなく承認した。
△△△
開拓地は、徐々に賑やかになってきた。
住民が増えたから……というわけではない。
これまで、我々の監視を行なっていたエルフたちが、手を貸してくれるようになったからだ。
冒険者たちと談笑しつつ、畑を耕し、作物を世話し、あるいは馬に乗って森の回りを駆けるエルフがいる。
彼らと人間との距離は、少しは縮まったのかもしれない。
だとすれば、先日の神退治は、この森の歴史的に少しは意義があったと言えよう。
少し先で、ナオが鉢植えを土に埋めていた。
「これ、鉢植え型のゴーレムだから、埋めておけば土と一緒になるんですよ」
さらりと、革新的な技術の話をしてくる。
それは凄いことなのではないだろうか?
「まだ、芽が出たのは一本だけですけど、これをしっかり育てていけば、いつかはこの辺り全部が、緑の麦畑になりますよ!」
「うむ。この一本は、我々に大いなる知識を与えてくれるだろう。伸び、育ち、やがて花を咲かせて麦穂を実らせる。故に、枯らさないように細心の注意を払わねばな……!」
「が、がんばります!」
ぐっと胸元で両拳を構えるナオ。
この麦を育てる間にも、やることは山積みである。
まずは、農業の専門家を受け入れねばならない。
畑は作ったものの、エルフ麦と芋ばかりでは意味がない。
これらは畑が無くとも育つ作物だからだ。
まずは食生活。
食を豊かにすればこそ、そこに住む人の心も豊かになる。
次いで住。
これはナオに任せればいいだろう。
そろそろ、新たな家が必要になってくるかもしれない。
そして衣。
研究を始めるところである。
しばらくは、男爵領から買い付けをした衣類を使う他あるまい。
「さて、どこから始めたものか……」
ナオを従え、開拓地を巡る。
広く、畑が広がり、大型ログハウスと厩舎が点在している。
まだまだ、我がビブリオス騎士爵領は始まったばかりなのだ。
考えを巡らせる私の肩を、ナオが突いた。
「先輩」
「うん?」
「ここを、いいところにしましょうね!」
メガネの奥で、彼女の赤い瞳がキラキラと輝いている。
私は頷いた。
「もちろんだとも」
この二人から始まった開拓が、今はたくさんの人々を受け入れている。
開拓地には、さらに多くの住民が集まることだろう。
「見ていろクレイグ。この土地を、お前の伯爵領よりも、ずっと栄えた土地にしてみせるぞ」
決意を込めて、口にした。
その時である。
「おーい、ジーン! 大変だ! ちょっとこっちに来い!」
今や、私を名前呼びし、ぞんざいな口調で話しかける者は一人しかいない。
ワイルドエルフのトーガだ。
彼がシーアと共に、大慌てで走ってくる。
「どうしたというのだ? また一大事でも起こったのかね?」
「一大事に決まっているだろう! いいかジーン、落ち着いて聞け」
到着したトーガは、息を荒げながら私の肩を叩いた。
「移住希望者だ。男爵領からやってきたそうだぞ。それも、人間ではない。お前と同じ、魔族だ」
「なんと……!?」
どうやら、再びこの開拓地は賑やかなことになりそうである。
これにて、第一部終了です。
ご愛読ありがとうございました。
もしお気に入りいただけたのなら、最新話最下部に、評価フォームがございます。
ジーンの物語が、面白い、続きを読みたいと思っていただけたなら、こちらから評価ポイントを送信していただけますと執筆の大いなる原動力となります。
お気が向きましたら、どうぞよろしくお願いいたします。




