41話 神を解析せよ
心なしか、神が小さくなっているように見える。
いや、確かに縮小しているのだろう。
我々が用意した神像が、魔力を吸い上げる効果を発揮しているからだ。
「さあ諸君! 反撃と行くぞ!」
私が宣言すると、エルフたちが、冒険者たちが気勢を上げた。
のたうち回る神に向かって、気が早いエルフが精霊魔法を飛ばす。
「あっ、いかん」
私は慌てた。
その場から急いで下がる。
精霊魔法を打ち込まれた神は、急に活性化し、神像ゴーレムを押しのけて立ち上がり始める。
「諸君! 魔法は禁止だ! あれは精霊力を吸い上げて動く怪物だぞ。魔法を放つだけ、あれの力に変えられてしまう!」
これを聞いて、トーガが顔をしかめた。
「だとしたら、どうしろと言うのだ!」
「君たちエルフには、魔法を使いながら魔法ではない攻撃方法があるだろう? そう、必中の矢だ」
エルフたちが一斉に、納得した顔をした。
めいめい、暴れ始めた神から逃れつつ、その四方で攻撃の準備を始める。
「先輩、わたしたちはどうしましょう? 先輩もわたしも、調べる方中心で攻撃とか全然だめじゃないですか」
「ああ。直接手を下すのは我々の流儀ではあるまい。ナオ、ゴーレムを護衛にして、神の回りを巡ってみよう」
「はい! ゴーレムよ、汝に命を与えるー」
ナオが放り出したのは、陶器のかけらだ。
そこから生まれるはクレイゴーレムである。
「強度的にどうかな……?」
「これしか持ち合わせがないんですけど」
仕方あるまい。
クレイゴーレムを護衛として進もうではないか。
「待って! 二人とも不用心過ぎ! ジーンもナオも、自分たちがここでどれだけ重要か分かってないでしょ!」
そこへ走ってきたのは、シーアである。
彼女は我々の横に並ぶと、
「私が護衛してあげる。また何か考えてるんでしょ? あのでかいやつをやっつける手! 何かあっても守るから、じっくり考えて!」
これはありがたい。
シーアとクレイゴーレムに守られて、我々二人は神の後方へと回り込んでいく。
おっと、瓦礫が降ってきた。
これは、シーアが放った風の魔法が軌道を変える。
「直接、あいつに精霊魔法をぶつけなきゃいいんでしょ?」
「そういうことだ。近くで使用しても、若干量の精霊力は吸収されるだろうが、それは周囲に配置された神像がさらに吸い上げるから誤差に過ぎない」
「つまり、そうだよ大丈夫! っていうことです!」
シーアが、難しいこと分からない、という顔になったので、ナオがフォローを入れる。
そのフォロー、要約になっていないような?
神は暴れながら、足元に群がるエルフを薙ぎ払おうとする。
万全の神であればできたのだろうが、今の彼は動きが鈍っている。
俊敏なワイルドエルフは、この攻撃を見切って、回避しながら攻撃を続けるのだ。
放たれた矢が、神の体に突き刺さる。
あまりにも標的が巨大で、刺さってもさしたるダメージは与えていないように見える。
神の体を構成する成分が、ばらばらと落ちてきた。
「ほう、これは……」
私はそれを拾い上げた。
一見して、黒い土塊のように見える。
指先で削って、舐めてみた。
すると、女子二人が突然吹き出すではないか。
「ぶふっ」
「ぷぷーっ!」
「何がおかしい」
「いや、あの、思い出しちゃって!」
何を思い出すと言うのか。
さて、舐めてみたところ、これは土の味だ。
つまり、あの神を構成するのは土ということになるのではないだろうか。
『────!!』
何か叫びながら、神が地面を強く踏みしめる。
震動が我々を襲った。
「きゃっ!」
転びかけたナオを受け止める。
そうしながら、私は神を観察した。
彼の体は、自らが起こした震動にも反応し、肉体を構成する欠片をこぼしている。
「ナオ」
「あ、はい先輩! わたし、重かったですか!?」
「いや、そうではない。神の体が、動く度に欠片をこぼしている。全身を構成する素材が土なのだとしたら、何がそれを神の形に繋ぎ止めていると思う?」
「あー」
なぜか、ナオが安堵したような顔を見せた。
シーアが難しい顔をする。
なんだ、何だというのだ?
「あ、えっとですね。あの崩れ方ですよね。見た感じ、こぼれる土には魔力が無いんで、神が纏っている魔力はあれの内側から湧いているんだと思います」
「核が内部にあるか。なるほど……」
「それと、さっき先輩が舐めてた土なんですけど」
ナオが私の手を握った。
自分の顔のところまで持ち上げてきて、そして彼女も私の指を舐める。
「あっ」
シーアが目を丸くした。
エルフの反応をよそに、ナオが目を閉じて何かを考える。
「これ……岩窟のところにある土ですね。同じ香りがします」
そうか。
ナオは、岩窟で木を乾燥させる時、周囲の土をマッドゴーレムにして使役し、岩窟の蓋にしていた。
彼女にとって、この土は覚えがあるものだということだ。
「舐める必要あったの……」
シーアが何か呟いているが、それは今は重要ではない。
「ということは、あれは特殊なゴーレムということか……!」
「はい、そうなります! ただ、核の部分に魔力を集めて、回りから吸い上げる魔力と合わせて体を維持してるみたいなので、お決まりのキーワードで自壊はさせられないと思います」
ゴーレムよ、汝の命を奪う……というのがお決まりのキーワード。
これで自壊するからこそ、ゴーレムは誰にでも使えて、誰にでも停止させることができる便利な労働力として存在しているのだ。
だが、これは我々の時代のゴーレムだからこそ持っている、安全装置のようなもの。
「だろうな。あれは恐らく、神代のゴーレムだ。だが、人が作り出したものに違いはない。必ず、あれを停止させる方法がある」
「はい。わたしもそう思います! でも、だとしたらどういう方法なんでしょうか」
「ゴーレムを停止させる時、我々は外から声を掛けて停止させる。直接触れることはしない。それは起動する時も同様だ。では、この神を模したゴーレムはどうだ?」
「停止方法は分かりませんけど」
「停止は分からなくても、起動方法は分かるはずだ。我々はそれを目の当たりにした。特に、君がだ、ナオ」
「はい! あの儀式ですよね。ずっと見てました!」
ナオの目が輝く。
「なんでわたしを置いていったのかなーって、ちょっと凹んでたんですけど納得しました!」
「そう。こんなこともあろうかと、魔力の解析に長けたナオに頼んでおいたのだよ。そして、どうだったかね?」
「えっと」
ナオは、神を起動させるために使われた儀式を、目撃し、メモを取っていた。
彼女のベルトポーチから取り出されたメモ群が、私に手渡される。
「八つの印が魔力を吸い上げ、やがて破裂したか。だが、魔力は飛散せずに一方向へと放たれた……!」
「そうです! それは、あっちです!」
ナオが指差すのは、スピーシ大森林だ。
これを見て、シーアが息を呑んだ。
「岩窟が……寺院がある方向だ。そこに直接精霊力を送り込んで、怪物を目覚めさせたんだ……!」
「そう、その通りだ! 神を覚醒させた印は失われた。だが、その場となった寺院は残っている。ならば、神を止めるための鍵は寺院にある! シーア、エルフの通り道を開けてくれ。寺院に戻るぞ!」




