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37話 神像増産計画?

「これとこれとこれを頼む。形は自由でいい。この形の印を刻むように。ああ、魔力は込めないように言ってほしい」


 大量の木材ブロックを、ワイルドエルフたちに手渡す。

 我が開拓地の監視としてやってきている彼らは、面食らったようだった。


「こ……これで何をしろというのだ?」


「置物を作ってほしい。それで、めいめい保管しておいてくれれば。手間を掛けさせて済まないが、暇な時にでもお願いできないかね」


「別に構わんが……。魔狼を手懐けた者は、妙な頼み事をしてくる……」


 訝しげではあるが、私の頼みを拒否することはないようだ。

 あらかじめトーガに確認し、エルフの手先が器用であること、余暇を使って細工や道具を作ったりしていることは聞いている。

 私がマルコシアスと契約し、かの悪魔の脅威を森から取り除いた、その報酬代わりとして今回の頼み事を行なった。


「先輩、あんなにたくさんのブロックを持たせて、どうするんですか?」


「ああ。我が開拓地にも、名物があればいいかと思ってね。あれが役に立たないなら、それに越したことはない。だが、もしも私が危惧していることが起これば、あれはとても役に立つことだろう」


 私とナオの会話を聞いて、神官のサニーが青ざめている。


「し、神像がいっぱいできちゃいます……!! 作り方を教えるんじゃなかったあー!」


「落ち着きたまえサニー。神像ではない。よく似た印が刻まれているだけの、置き物が増えるのだよ。この置き物が効果を発揮したとすれば、君が描いた独創的な印が世界を救うことになる」


「意味がわかりませんけれども!!」


「周囲の魔力を無制限に吸い上げる、あの出来損ないの印は、使いようによっては有用だということだよ」


「で、出来損ない!!」


 大変なショックを受けるサニーである。

 何故だ。

 私は褒めたはずなのに。


「また先輩が人の心を理解してないー。カレラさーん。サニーさんを連れていってくださーい」


 カレラがやってきて、ショックを受けた様子のサニーと共に去っていった。

 あの賢者は物の言い方を知らないだけだから気にするな、などと言っている。

 おかしい。

 私は正確に情報を伝えるようにしているのに。


「先輩、首を傾げてても多分わかんないと思うので! 仕事しましょう、仕事!」


 私はナオに引っ張られ、開拓地の運営業務に戻るのだった。



□□□



 翌日。

 マスタングとボルボが帰ってきた。

 思ったよりも早い帰還である。

 しかも、帰ってきたのが明け方ときた。

 これは何かがあったのではないか?


 偶然早起きし、作物の生育具合をチェックしていた私が、彼らを出迎えることになった。


「お帰り、二人とも。夜通しでの帰還とは、いったい何があったのかね?」


 マスタングもボルボも、疲れた顔をしている。

 目の下にクマすらあるではないか。


「聞いてくれよジーンさん。こりゃあ、やばいぜ」


「ああ、聞こう。ゴンドワナとローラシアを厩舎に連れていく道すがらでいいかね?」


「構わないぜ。いや、参った。こうして五体無事でいられるのが、ただただ幸運だったと思うよ」


「ふむ。それほどの危険がロネス男爵領で? ふむ……」


 ゴンドワナたちを連れながら、私の脳が思考を巡らせる。

 ロネス男爵は、我がビブリオス騎士爵領と友好関係にある。

 そのため、かの領地にいる民や兵士は、あからさまに敵対してはこないだろう。

 ということは、男爵領外の人間がいたことになる。


「我が騎士爵領への悪意、もしくは君たちへの悪意を以って、危害を加えてくる者がいるとすると……。ロネス男爵領に、バウスフィールド伯爵の手の者が紛れ込んでいたわけかな?」


「そう、その通りじゃ! 話が早いのう!!」


 ボルボが激しく頷いた。


「あやつらめ、わしらが男爵領にいるのを見つけるや否や、いきなり襲いかかってきおった。男爵の部下が駆けつけてなんとか助かったのじゃが、それでもずっとわしらを見張っておってな!」


「ああ。生きた心地がしなかったぜ。俺らも、伯爵から受けた仕事を途中で投げ出したわけだし、恨まれるのは分かるんだが、まさかいきなり命を狙われるとは思わねえよ。だが、幸い、ナオちゃんに持たされた焼き物の人形が役に立ってな」


 焼き物人形とは、クレイゴーレムのことであろう。

 ナオはいつの間に、そんなものを持たせていたのだ。

 素晴らしい判断である。


「男爵の部下がいないところで襲われたんだが、人形がでっかくなって俺たちを逃してくれたんだ。それで、夜を徹して逃げてきたってわけさ」


「ドワーフは夜目が利くからのう。向こうは火でも用意せにゃ、追ってこれまいよ。亜人を嫌ってか、あやつら人間しかおらんかったわ」


 亜人を排するという考えは、王国では一般的なものである。

 特に、由緒正しい貴族の家柄であれば、そういった考えは徹底される。

 彼らにとって、セントロー王国は人間の国家であり、亜人はよそ者、あるいは人よりも劣った者なのだ。


「では、クレイグの手の者で間違い無いだろう。亜人を使わないのは、私に対するあてつけだろうな。しかし二人共、よく無事で戻ってきてくれた」


 私は二人を労い、二頭の馬を厩舎に繋げた。

 ゴンドワナもローラシアも、喉が渇いていたようだ。

 水を与えると、がぶがぶと飲んだ。


「それで、追っ手はどのような人数構成だったかね? 私が予想するに、直接戦闘を仕掛けてきた人数は、あまり多くはなかっただろう」


「……そ、その通りだ。どうしてそれを?」


「君たちが二人きりで、速度も出ない荷馬を使って逃げ切れたからだ。クレイゴーレムで足止めできる程度なら、直接に手を下すのは二人か三人というところだろう。クレイゴーレムが複数であればもっと多くの人数を足止めできるが、私が、君たちにクレイゴーレムが手渡されたことを確認していない以上、そう目立つ数では無いはずだ」


 マスタングもボルボも、目を見開いて頷いている。

 ゴーレムの数は一体で合っていたようだ。


「そして、伯爵の手の者の多くは、恐らくは魔法使い……ないしはそれに準ずる、何か特殊な技術に長けた者だ。君たちに攻撃の魔法を行わなかったということは、そういう手段を用意してきていないのだろう。それは、君たちの出現が想定外だったからでもあろう。そして、その人員本来の目的は、魔法使いたちの手で何か大きな作戦行動を行ない、この開拓地に危害を加えることだ」


 確たる証拠があるわけではない。

 そう思わせる状況証拠のようなものが、積み上がっていっているだけだ。

 一つや二つならば、偶然である。

 だが、それが三つ、四つ、五つと積み重なっていっているならば……これは必然である。


 私は、不安げな顔をする二人に向けて、こう伝えた。


「大丈夫だ。こんなこともあろうかと、備えてある」

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