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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第一部 開拓の始まり

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35話 調査

 すぐに開拓地へ戻ることはせず、しばらくワイルドエルフの里を歩き回ることにする。

 私とナオ、マルコシアスの後を、一応の監視役としてトーガがついてくる。

 だが、この監視役は大変やる気がない。


「きゃー、魔狼だ!」


 マルコシアスを見て、悲鳴をあげるエルフの子供。

 だが、トーガはそれをフォローする様子など全く無いのだ。


「君、見ているだけでいいのかね?」


「構わないさ。だって魔狼は安全なのだろう? 真面目に仕事をするだけばかばかしいというものだ」


 彼は鼻を鳴らして答えた。

 やる気がないというよりは、信頼されていると言うべきか。

 魔狼はナオに連れられ、堂々と里の中を闊歩している。

 当然のように、他のワイルドエルフは我々を警戒している。

 だが、トーガはこれを説得するでもなく、妙にのんびりしているのだ。


「だ、誰かー! 里の中に魔狼がー!」


「いや、だが後ろにトーガがついてきているじゃないか。なんで彼は何もしないんだ」


「まさか魔狼に操られて……!?」


「トーガを助けなくちゃ」


 ワイルドエルフ達が集まり、おかしな雲行きになってきた。


「よろしいかな、諸君」


 私は彼らに向かって声を張り上げた。

 ここは、彼らに付けられた私のあだ名を使うべき時だろう。


「私は、魔狼を手懐けた者。ジーンだ」


 あだ名とともに名乗ると、不安げにこちらを見ていたエルフたちが、一斉に目を見開いた。


「あんたが魔狼を手懐けた者か!」


「魔族の血が混じってるっていう……」


「道理で、さっきから魔狼が大人しい……」


 それがあだ名であったとしても、名という物が持つ意味は大きい。

 エルフの世界ではなおさらである。

 そして、注目されながら、大あくびをしてみせるマルコシアス。

 何も気にしていないようだ。

 基本的に彼は、大人しい悪魔なのだ。


「その通り。マルコシアスは、完全に私の管理下にある」


 とりあえずそう言っておくことにした。

 人々の安心を得るためである。


「そして、私が彼を連れてやってきたのは他でもない。私は現在、エルフに伝わる伝承を調査していてね。その協力を願いたいのだ。彼は、私が何者であるかの証明と言えよう」


 魔狼を手懐けた者であることを示すため、私はマルコシアスの首周りをもふもふと撫でた。

 目を細める魔狼。

 気持ち良いらしい。


「魔狼をあんなに撫でて……!」


「抵抗してない! 本当に魔狼を手懐けているんだ」


 よし、信頼は得られたぞ。

 ちなみに、ナオが私と一緒にマルコシアスをもふもふしている。

 魔狼を手懐けた者ではない彼女がどうして、とエルフたちから困惑の視線が注がれる。

 私も疑問を感じたので、当の魔狼に聞いてみた。 


「マルコシアス、さっきから思っていたのだが、ナオは契約者ではなくても、君に色々やっている。これは別に構わないのか?」


『その質問に答えよう。契約者にとっての被保護者は、我にとって子狼のようなものである』


 ああ、やはり子犬扱いされていたか。

 彼にとっては、ナオだけが保護の範疇にあるようだ。


「先輩、子狼ですって。わたしが可愛いっていうことでしょうか」


 キラキラと目を輝かせるナオ。


「全体的な意味ではそれに近い」


「どうりで最近、マルコシアスがわたしの髪を、舐めて毛繕いしてくれようとするんですよね」


 完全に子犬扱いであったか。



□□□



 ワイルドエルフの信頼を得た私は、長に次ぐ年齢だというエルフから話を聞くことができた。


「何を聞きたいのかしら」


 彼女は、御年九百歳を超える、エルフのおばあちゃんである。

 エルフの見た目は人間ほどに年を取らない。

 ただ、動きはゆったりとなり、纏う雰囲気が老成したものになっている。


「長から、人間が呼び出した神の話を聞いたのだが、これに出てくる、エルフの偉大な精霊使いと、彼が呼び出した妖精の話を聞きたい」


「おやおや。最近の若い者は、伝承になんて興味を示さないと思っていたのだけど」


 老婆はちらりとトーガを見た。

 余所見をしていて気付かないトーガ。

 本当に興味が無いようだ。


「わたしは興味あります! お話ししてください!」


「おやおや。なんだか子犬のような娘さんね。試練の民とも人間とも違うわ」


「ホムンクルスです!」


「人間が生み出した、受肉した妖精のことだ」


 私が説明すると、老婆は納得した顔をした。


「生まれたばかりで、なんでも珍しいんだねえ。よし、私が一つ、昔話をしてあげよう」


 どうやら、無邪気なナオのことが気に入ったようである。

 老婆は話し始めた。


「妖精はね、ゼフィロスという風の王さ。森全体を流れる風の精霊を束ねて、そうして命がけで名付けたの。偉大なる精霊使いは、その代り、永遠に自分の名前を失ったのさ。ゼフィロスは人間の神と戦った。ゼフィロスは生きた竜巻さ。神は口から炎を吐き、触れるものを皆なぎ倒し、押しつぶす。だけど、実体を持たない竜巻にそれは通じない」


 炎を吐く。

 マルコシアスとの共通点である。

 ちらりと魔狼を見ると、彼も見つめ返してきた。


『質問か』


「いや、そうではない」


「十日の間、ゼフィロスは神と戦った。その間、森全体の風は淀み、皆息もできなくなり、生死の境をさまよった。森を流れる全ての風を束ねて、ゼフィロスは戦ったのさ。神は十日かけて、だんだん弱っていった。神は森から精霊を吸い上げていたけれど、その分をゼフィロスに吸われたのさね」


「ほう……。つまりそれは、神が魔力を得られず、飢餓状態に陥ったということか。そうなれば、倒せる存在になると」


「難しい言葉を使うね。でも、おおむねその通りじゃないかい」


 大妖精ゼフィロスは、森全体の風を吸ったと言う。

 つまり、風の精霊力……魔力を吸い上げていたということだ。

 神もまた、魔力を吸い上げて力を行使する。

 ならば、大妖精も神も、存在的には近いのではないだろうか?

 人とエルフに、ともに神を降臨させるための魔法が存在しているのだ。


「私が知るのはここまでだね。人が神を呼び出したのは、森の中だ。森に飲まれて朽ちていなければ、まだ寺院があるはずだよ。岩山を使ったものだから、消えてなくなりはしてないと思うけれどね」


 彼女の話を聞いて、私が思い浮かべたのは、あの岩窟だった。

 建材を乾燥させるために使った、苔むした岩山。

 あれには、人とエルフが見上げる巨大な存在の壁画が描かれていたではないか。


「ありがとう。大変参考になった」


 私は彼女に礼を言うと、握手を交わした。

 そして、謝礼として魔狼粉を置いていく。


「おやまあ、精霊が反応したよ。これは、精霊の働きを強める薬なんだね?」


「そうだ」


「先輩、それってマルコシアスのうん」


 ナオの口を手で塞いだ。


「では行くとしよう。トーガ、例の岩窟まで頼めるかね?」


「もが、もがー!」


「構わないぞ。しかし、お前は夢中になると、本当に一直線になるな。開拓はいいのか」


「開拓と、私の知的好奇心、どちらもしっかりやって、しっかり満たすべきだろう」


「お前の趣味か?」


「私の趣味だ」


 すると、トーガが笑った。


「分かった。最後まで付き合ってやる」


「もがー!」


 口を押さえられたまま、ナオも賛成の声を上げたのである。

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