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23話 謁見カウントダウン

 王都までの旅路は、ロネス男爵の助けを得たこともあり、何事もなく進んだ。

 我々は王城クリスタルケルプへと到着し、開拓に関する報告を行なう運びとなったのである。


「おい、ジーン。いつまで待たせるつもりだ」


「各地の諸侯が集まるのだ。一週間はかかる」


「一週間!? それほどの時間を人間どもの村で過ごさねばならんのか……!」


 ここは、我々に与えられた王宮の一室。

 この半月ほど、人間の世界を旅していたトーガは、フラストレーションが溜まっているようだった。


「トーガさんって、エルフで長生きなのに結構気が短いですよね」


「それはそうだよ。だって、兄さんも私もまだ百年生きてないもん。成人して少しなんだから、落ち着きを求められてもねー」


「ひえー! 百年! わたしなんて、先輩に命をもらわなかったら、一年くらいしか生きられないところだったんですよー」


「ひええ! 一年! 水の外のお魚みたいに一瞬じゃない! 命をもらって良かったねー!」


 お互いの二の腕をぱたぱたと叩き合う、ナオとシーア。


「すっかり仲良しになってしまった。これは計算外だった」


 ナオは、ジーン・ビブリオス騎士爵の臣下。

 ワイルドエルフの二人は、エルフ側からの賓客という扱いである。

 見張りの兵士を伴えば、ある程度自由に城の中を歩き回れる。

 ということで……。


「先輩、わたしたち、ちょっとお城の中を見てきますね!」


「人間って、魔法も使わずにこんな石の家を作ってるの? 苦労するのが好きなの?」


「ふっふっふ、それは建築学が専門のわたしが教えてあげましょう!」


 二人は部屋の外へと飛び出していってしまった。


「二人きりでは心配だな。マルコシアス、二人についていってもらえるか?」


『その質問に答えよう。いいとも』


 突然私の隣に、翼を生やした魔狼が出現する。

 彼はトカゲの尻尾を上機嫌に振ると、ナオとシーアを追って部屋の外に走っていった。

 外から兵士たちの悲鳴が聞こえる。


「お、おい。こんなところに魔狼を呼び出していいのか?」


「マルコシアスを伴っていることは、国に伝えてある。この国の王は少々愚かだが、学術や文化に対してはとても寛大だ。かの悪魔が我が領土の開拓に深く関わる資源であり、過去を知るための生きる資料であると伝えたら、我々の管理下にある限りは自由にしていいと許可をもらったぞ」


 大臣のカツオーンは反対していたがな。

 こういう時の決定は、ツナダイン王が頑として譲らない。


「寛大なのか馬鹿なのか分からんな……。しかしお前、王とは自分の主であろう。それを愚か呼ばわりするのか」


「真実だからな。王の前では言葉を慎むが、個人的な空間で言葉を飾る意味は無い」


「お前が我らの森までやってこさせられた理由がわかった気がする」


 何が分かったというのか。



□□□



「サッカイサモン公爵様、ご到着!」


 門をくぐって、仰々しい一団が入ってくる。

 紅の旗が翻る。

 それを見下ろす我らである。


「大勢でやってきたものだな。あの旗には魚が描かれているようだが」


「サッカイサモン公爵だ。セントロー王国一の貴族であり、王家の血筋に連なる。ツナダイン王が亡くなった場合、サッカイサモン公爵が次の王となる」


「ふん。聞くからに争いを呼びそうな輩じゃないか。人間どもは、血筋とやらを大事に崇め奉り、それを巡って争うのだろうが」


「確かにな」


 続いて、公爵家の後から伯爵家がやってくる。


「バウスフィールド伯爵様、ご到着!」


 黒い旗を翻してやってくる彼ら。

 来たな、クレイグ。

 我が腹違いの弟は、さぞや金をかけたのであろう、高価そうな衣装を身に着けて歩いている。

 実に不満げな顔だ。

 派遣した冒険者は戻ってこない。

 他の貴族たちとの賭けには負ける。

 私が生きていると聞いて、彼の苛立ちはかなりのものだろう。


「ジーン。あの男、闇の精霊を連れているな」


「闇の精霊?」


「生半可な……お前たちの言う魔力感知か? それでは知れぬよう、気配を隠蔽させてはいるがな」


「ほう」


 試しに魔力感知を使用し、クレイグを見る。

 何も見えんな。

 むしろ、クレイグを囲むアーティファクトから魔力を強く感じる。


「手乗り図書館、呼び出しを掛ける。魔力感知できない魔法的な存在を選定」


 何パターンかの提示がされるかと思ったが、今回は意外なことに、検索結果は一件だけだった。


「シャドウストーカー。魔法によって形作られた暗殺者……。やる気だなクレイグ」


 私は、彼がどれだけ本気であるかを察する。

 そして、魔力感知ですら捉えられない魔法生物を、容易に発見してしまうトーガの目にも驚きを覚える。


「トーガ。ワイルドエルフの魔力感知能力というものは、皆それだけ優れているのかね?」


「俺が特別なだけだ。俺はかすかな痕跡だろうと、精霊を見通すことができてな。この目があるからこそ、お前の監視役につけられたのだ。いないように見えても、常に俺はお前を見張っていたぞ」


「それは恐ろしい。だが、今はそれが心強くもあるな。あの時、君と出会えていたからこそ、私はクレイグの企みに気づくことができたのだ」


「ふん。お前は本当におかしな男だ。……それで、この後もああいう、手下を引き連れた偉そうな人間が続くのか?」


「ああ。これから数日間は、ああいう行列を見続けることになるだろう」


「全く……。人間は何が楽しくて、あんなことをしているのだかな」


 ワイルドエルフは、呆れて溜息をつくのだった。

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