21話 賄賂要求への回答
王都に近づくに連れ、人の数は増えていく。
自然と、我々が注目される機会も増えていくわけだ。
誰もがマルコシアスに注目する。
それぞれの町の入り口では、そこを守る兵士に呼び止められることも増えた。
「モンスターを街に入れるわけにはいかんな」
「ここに、特別にモンスターを連れ込んでいい許可証があってな! そうだな、金貨十枚も払えばそれで通してやらんこともない!」
今もこうして、捕まっているところである。
「これは私の使い魔だ。契約者である私が、この悪魔の安全を保証しよう」
「先輩! 悪魔って言っちゃってます!!」
おっと。
兵士は賄賂が欲しいらしく、難癖をつけて我々をこの場に止めようとする。
やれ、狼が媒介する病気で、街の子供が苦しむだの。
魔族の血が入った者は街に入る時、税を余計に納めねばならないだの。
「ジーン。この人間どもを殺してしまえばいい」
ここで突然、精霊魔法を行使しようとするのがトーガという男だ。
「まあ待てトーガ。腐敗した街の兵士には、このような輩も存在するものだ。彼らはこうして独自の判断で集金を行なおうとするが、これ自体は違法なのだ。我々が粛々と上層部に訴えかければいい」
「先輩、聞こえてますよー! 兵士さん、顔をピクピク痙攣させてます!」
「そもそも、私は騎士爵としての地位を陛下から叙爵されているのだ。これは陛下からの信頼の証でもある」
兵士たちは意地悪な顔をした。
「じゃあ、あんたが騎士だっていう証拠はあるのか」
「家紋などは無い。普通の通行証しかないな」
「だったら信用できんだろうが! 大人しく、俺たちが言う金を払えばいいのだ! そうすれば丸く収まるだろう……!」
「残念だが、我々は金を持っていなくてな。代わりにこれをやろう」
私は袋を手渡した。
兵士の顔がほころぶ。
いそいそと中を覗いて……彼は首を傾げた。
「なんだこれ?」
「マルコシアスのフンを粉末にしたものだ」
「い、いらねえよ!?」
慌てて突き返す兵士。
「そうだ。金が無いって言うなら、横に乗っている女とエルフの女を引き渡せば……」
「やれやれ、仕方があるまいな」
私は手乗り図書館を起動した。
「こんなこともあろうかと、評判の悪い兵士の素性は記録しておいたのだが。あー、スベータ村出身、ロネス男爵に仕える兵士のトラナット君。君は幼少期から嘘をついて金を巻き上げる行為をしているようだが、現在君に恨みを持つものは合計二十五人おり、必ず君の将来に影が差すことになるわけで……」
「おい、おいおいおい!? なんで俺のこと知ってるんだ!?」
「こんなこともあろうかと調べたと言っているだろう。そこにいる兵士の素性も調べてあるぞ。君はこのロネス男爵領出身のカピチ君で、若作りしているがもうすでに三十歳で妻に逃げられ、家の両親から早く嫁を探せとせっつかれ……」
「やめてえ!」
他の兵士も悲鳴を上げた。
兵士たちが私を見る目が、怯えに変わる。
「な、な、なんだよ、お前」
「どうしてそんなこと、往来で大声で言っちゃうの」
「私は元賢者だ。万一に備え、情報を集めておくのは賢者としてやっておくべきことだろう。本日君たちが恐喝紛いの行為を働いたことは、こちらに記録しておく。追って沙汰を待ちたまえ」
そう告げながら、私は状況を映像で記録しておくことを忘れない。
兵士たちの顔が険しくなり、彼らは次々と腰の武器を抜いた。
「くそっ、こうなればお前をここで」
「トーガ、シーア、解禁だ。後に男爵に正式に抗議する。この場は好きにやりたまえ」
「待っていたぞ!」
「お任せ!」
突如街中に出現する竜巻。
陥没する地面。
伸びてくる蔓草が兵士をぐるぐるに絡め取り、小さいウッドゴーレムがたくさん出現して、兵士たちをぺちぺち叩いた。
「ナオまで参戦しているのか」
「えへへ、ついやっちゃいました」
悲鳴を上げ続ける兵士をよそに、我々は別の兵士へと街に入る手続きを行なってもらう。
スムーズに許可が出た。
「でも先輩。いつの間にあんな情報を集めてたんですか? ここ最近、ずうっと辺境開拓しどおしで、そんな暇無かったじゃないですか」
「無論、暇はなかった。故に、この三日ほどを掛けて、マルコシアスに質問して聞き出したのだよ。全員の情報はいらない。より目立つ経歴の者が数名いれば良いんだ。皆、自分が男爵の兵士ではなく、どこ生まれの誰々だと丸裸にされれば、気が弱くなるというものだ」
「へえー、なるほどです! 参考にしますね!」
これはナオに参考にしてほしくないかもしれない。
「やれやれ、人間の世界というものは面倒だな。何故、同族を脅すなんてことをしているんだ? いや、お前たちは厳密には違うのか。ふむ。我らは初めから受け入れないが、この人間どもは無茶な条件を飲ませてから受け入れようというのだろう? やり方が遠回しじゃないか?」
「それは、人間に存在する貨幣というものがあって、これが人を狂わせるのだよ」
シーアはこれを聞いて首を傾げた。
「知ってる。人間が発明したものでしょ? なんで、自分が発明したもので狂っちゃうの? 人間ってやっぱりお馬鹿さんなんじゃ?」
「ですねー。お馬鹿なのは否定しないですねえ」
ナオが頷いた。
「なに、生物とは、生存することに最適化……とはいかなくても、適した進化をするものだ。人間もまた、与えられた環境で生きるために適した生き方をしているものさ。これを理解すれば、我々がやりやすいように活用することもできる。生物資源というものだね」
「人間も生物資源ですかー! なるほどー! それで、先輩。手乗り図書館で何をいじってるんですか?」
「今の映像と、マルコシアスのフンを使って、ここの領主であるロネス男爵に挨拶してこようと思ってね。いや、別にゆするつもりはない。メリットとデメリットを提示して、味方を作っておくだけだよ」
「この男は半分人間ではないから、こういう恐ろしいことを言うのだな」
ちょっと引きながら、トーガが呟くのだった。




