19話 建築開始
岩窟で、建材の乾燥に入ってから一週間。
いよいよ、乾いた木材を入手する時である。
例によって、シーアの案内で岩窟へと向かう私とナオ。
冒険者たちの監視は、トーガと他のワイルドエルフに任せておく。
「私は二度目だが、やはりこの緑色の道は凄まじいものだなあ……」
エルフの通り道を歩きながら、周囲を見回す。
足元から、横、頭上に至るまでが鮮やかな緑の色彩に包まれている。
これこそ、ワイルドエルフの精霊魔法の極致ではないか。
精霊の力を使い、森そのものを変質させてしまう魔法だ。
これは、スピーシ大森林に馴染んだ彼らエルフだからこそ可能な魔法ではないだろうか。
言うなれば、エルフと森が共同で行使する大魔法なのだ。
「先輩、何をしみじみしながら手乗り図書館に記録してるんですか?」
「ああ。エルフの通り道の素晴らしさを実感しているんだ。素晴らしい魔法だ……」
「いや、褒められると照れるなあ。私も最近使えるようになったんだよねえ」
照れるシーアを先頭に、我々は岩窟へと到着したのだった。
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岩窟の入り口には、土で封がされている。
「熱風が出てきますから、入り口の脇に避けてください。じゃあ、いきますからね? ゴーレム、“汝から命を奪う”」
ナオが告げると、岸壁を封じていた土の扉がぼろぼろと崩れ落ちていった。
扉そのものがゴーレムだったのだ。
そして、扉から熱い空気が吹き出してきた。
空気の向こうの風景が、ゆらゆらと揺れて見えた。
「そろそろいいかね? あちっ」
「先輩まだです! ほらー火傷したー」
「大丈夫。私は魔族の血が混じっているから熱には強いんだ」
いかんいかん。
先走ってしまった。
私はナオの良しが出るまで、じっと待つ。
「はい、良しでーす! 出ておいで、ゴーレムたちー!」
ナオが岩窟の入り口に歩み出て、中に向かって呼びかけた。
すると、木材がぶつかり合う音が聞こえてくる。
現れたのは、すっかり乾燥したウッドゴーレムたちであった。
「随分と乾いたものだな……」
「ねえナオ、なんで木を乾かすの?」
「丸太の頃の、およそ十分の一まで水分を絞っているんです。そのままで家にすると、だんだん水分が抜けていって隙間ができたりするんです。建材を乾燥させてから家に加工すると、寸法が狂いにくくなるんですよ」
「なるほど、そういうことか」
「へえ……。人間って、色々工夫して家を建ててるんだねえ。私たちは、木をそのまま使うもの」
ワイルドエルフの村で見た、うろが家になるように品種改良されたらしき木々を思い出す。
あれは、人間とはまた違った建築学の賜物なのだろうな。
「さあ行きましょ! 放っておいたら、またゴーレムが湿っちゃいます! シーアさん、早く早く!」
「はいはい! 連続でやると結構疲れるんだからね!」
シーアが精霊魔法を行使する。
再び生まれる、エルフの通り道。
今度は、ウッドゴーレムの群れを従えて、開拓地へと戻っていく我々なのである。
おっと、その前に。
私は岩窟を振り返る。
その壁面には、私が苔を削り取った跡がある。
一週間程度では苔は再生しておらず、むき出しになった岩肌に壁画の姿があった。
たくさんの人間やエルフ、ドワーフや亜人たち。
彼らが見上げる、何か巨大なもの。
あれは、二本の足であろう。
それが支える本体はあまりに大きく、見えない。
再びそれを手乗り図書館に記録し、私はエルフの通り道に身を投じたのだった。
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「なんだかたくさん来たぞ……!?」
「ゴーレムだ!」
労働に勤しんでいた冒険者たちが驚きの声を上げる。
森から突然、六十体のウッドゴーレムが飛び出してきたのだ。
驚きもするだろう。
「ウッドゴーレム! “汝に使命を与える”」
ナオがゴーレムに新たな命令を下す。
彼女の手にあるのは、設計図。
ゴーレムを組み上げて作る、開拓地の家のものだ。
設計図には、ゴーレムに施されたものと同じ魔法文字が刻まれている。
そして、ゴーレムにはあらかじめ、番号が振られていた。
設計図通りに、ウッドゴーレムが集まり、組み合わさっていく。
「なんだこれは……!?」
トーガですら、驚きに満ちた目でこの光景を眺める。
これこそ、賢者の塔が誇る建築魔法。
錬金術とともに修めねば習得できない、高難易度の技である。
ナオは、錬金術への極めて高い適性により、この建築魔法を使用することができる。
家が完成したのは、何度か瞬きをする間のことだった。
少し前には存在しなかった、大きな木造の家屋がそこに出来上がっている。
「じゃーん! 完成、大型ログハウスです!」
「ナオはずっと、この家の絵を描いていたんだよね。見てみて、みんな! 人間だってそれなりにやるものだよ!」
すっかり仲良しになった、ナオとシーアが完成したそれを二人並んで指し示す。
ログハウスの大きさは、ちょっとした貴族の屋敷ほどもある。
ナオの設計図によると、我々の居住区画と、作物や資材の倉庫がそれぞれあり、さらには畜舎も内蔵されているということだった。
もちろん、この建物一軒で終わりはしない。
これからもっと多くの家を建て、多くの人々を迎え入れ、ここは成長していくのである。
「よし。これを、開拓地の拠点とする」
私は宣言した。




