表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/171

18話 労使交渉

 確認の結果、冒険者たちを雇ったのは我が生家、バウスフィールド伯爵家であることが明らかになった。

 私を賢者の塔からも追放しておいて、なおも何かを企んでいるのだろうか。

 現当主クレイグには、こちらももはや守るばかりではいられまい。


「開拓の成果を記録し、早急に報告に向かう必要があるか……」


 私は心算した。

 ワイルドエルフの諸氏に迷惑を掛けるわけにはいかないだろう。

 だが、私が開拓を行なううえで、彼らの協力が不可欠であったことは間違いない。

 トーガとシーアの兄妹を説得し、ともに来てもらう必要があろう。


 そしてマルコシアス。

 彼は、賢者の塔に対する強力な切り札となる。

 ナオを向こうに渡さぬためにも、マルコシアスを活用させてもらわねば。


「ただいまです!」


 元気なナオの声がした。

 いつの間にか、開拓地の入り口に彼女が立っている。

 案内をしていたシーアも一緒だ。


「あと三日くらいで乾燥は終わる感じですね。そうしたら、乾燥したゴーレムに歩かせて、こっちで家にしちゃいましょう。設計図ももう作っててですね……先輩?」


「うむ。家を作り、開拓地が一応の形を成したら、一旦王都に報告に向かうぞ」


「報告に……! ついにですね!」


 彼女は目の前で、ぐっと両拳を握った。

 やる気満々である。

 実に頼もしい。


「ところで先輩。人が増えてるみたいですけど」


「ああ。彼らは、私の状況を探りに伯爵家がよこした冒険者だ。クレイグめ、よほど私の状況が気になると見える。このままでは、暗殺者が差し向けられるのも遠くはあるまい」


「なるほどー。それで、先輩は急いで報告に行くことにしたんですね」


「そういうことだ。我々が上げた成果は、これまで入植不可能と思われていたスピーシ大森林に、仮とは言え入植地を作ったこと。そして、ワイルドエルフと協力体制になることができたことだ。ただし、彼らは人間と馴れ合うつもりがない」


 すぐ横まで来ていたトーガが、頷く。


「ああ。森に踏み込んだ人間は殺す」


 背後でそれを聞いていた冒険者たちが震え上がった。


「故に、だ。亜人を中心として開拓地を作っていくことになるだろう。森の管理者でもあるワイルドエルフをないがしろにはできないし、それは開拓地の死活問題となる。彼らを刺激しない住民は、自然と亜人に絞られるということだ」


 私は冒険者たちの中で、ドワーフとハーフエルフに目を向けた。

 ドワーフは何か考え込んでいる。

 ハーフエルフは、ぷいっとそっぽを向いた。


「先輩、あの子に何かしたんです? 嫌われてます?」


「ちょっと彼女の事情を暴いただけだ。何も悪いことはしていない」


「してるしてる」


 とは、シーアの言葉。


「ナオ。あなたの先輩、他人の心があまり分かってないでしょ」


「そうですね。先輩が大事なのは、真実とかそういうのなんで! かくいうわたしもホムンクルスなので、人の気持ちとかあんまり分かんないんですけど!」


「ナオはまだ生まれてから年月が経ってないんでしょ? ジーンはいい年してちょっとねえ……」


「なんだ君たち。私のスタンスに何か文句があるのかね」


 私が問うと、シーアは半笑いになった。


「今更、お前については何も言うまい。これからのことを考えるとしよう。まずはここに転がした、冒険者とやらだがどうする? 里に連れていくこともできるが、人間どもは殺すことになるぞ」


「それは色々とまずいだろう。君たちが本格的に、王都と敵対関係になってしまう」


「人間どもなど、相手にしたところで負ける気はないがな。だが、無用な争いを呼び込むのは我ら試練の民の本意ではない。だからな」


 トーガが目配せをする。

 そこには、ほぼ完成した畑がある。

 後はここに種を植えたり、あぜ道を作ったりするだけだ。


「なるほど。彼らに手伝わせろということか」


「無駄飯喰らいを置いておく余裕などあるまい?」


 確かにその通りである。

 私は冒険者たちと交渉することにした。


「諸君。我々はこうして、君たちを拘束している。あと三日から四日の後には王都に向かうため、その頃には解放できることだろう。だが、その間、君たちを養う義理は私にはない。そして、君たちが労働力を提供してくれれば、その間の食料を提供することにやぶさかではない。どうだね?」


「どうして私たちがお前を手伝わないといけないんだ!!」


 噛み付いてきたのは、ハーフエルフの女だった。

 だが、人間の戦士とドワーフは、大人しいものだ。


「その提案に乗らせてもらっていいか? 任務失敗しましたで戻ったら、それはそれで具合が悪くてな。それに、俺らは懐に余裕がない」


 人間の戦士が、愛想笑いのようなものを見せる。


「そうか、君たちパーティは困窮していたわけか……。それで、危険なスピーシ大森林まで行くという仕事を受けざるを得なかったと」


「その通りだ。でかい仕事で失敗してな。おかげでからっけつだ」


「良かろう。では、労働を提供してもらう報酬として、マルコシアスのフンを君たちにやろう」


「へ?」


 人間の戦士が、一瞬呆ける。

 だが、これに興奮したのは魔法使いだった。


「なんだって!? あの魔力の塊をか! すごい! これはすごいぞマスタング!」


「何がだビートル? 化物狼のうんこだぞ?」


「いやいや。あのフンは、乾燥させるだけで魔力を媒介する上質な魔道具となる! 魔力を載せてよし、魔法陣を描いてよし、他の魔道具にふりかければ、一時的に効果をアップできるだろう! 店に売れば、かなりの金額になるぞ……!」


「なんだと……!?」


「おお……モンスターのフンにわたくしたちの命運は掛かっているのですね……」


 冒険者の女神官が嘆いている。

 私は彼らを見回すと、問うた。


「どうするかね? マルコシアスのフンを報酬として、諸君は開拓地での作業に三日間従事する。受けるのか、受けないのか」


「引き受けさせてもらうぜ」


 冒険者を代表して、人間の戦士マスタングが答えた。

 契約成立である。

 我が開拓地は、労働力を手に入れたのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ