17話 尋問
ワイルドエルフたちの手を借り、冒険者たちを治療し、簡単な束縛を終えた。
弓使いのハーフエルフは、レンジャー職であるようだ。
その気になれば、ロープを使ったおざなりな束縛など解いてしまうことだろう。
治療に関しては、こちらに傷を癒やす魔法の使い手がいない。
傷口をアルコールで消毒し、包帯を巻く程度で許してもらおう。
相手の人員はこうだ。
人間の戦士、男性。
ドワーフの戦士、男性。
ハーフエルフのレンジャー、女性。
人間の魔法使い、男性。
人間の神官、女性。
装備の程度から、彼らが冒険者としては中堅クラスであることが想像できる。
相手がマルコシアスでなければ、こちらが制圧されていたかも知れない。
「なに、この程度の人間、俺が一人で相手取れる」
「強気だな、トーガ」
「俺はこう見えて、試練の民一の風の魔法の使い手だ。奴らが近づく前に、必中の矢で終わらせるさ」
「それは心強いな。今度、その必中の矢とやらを見せてはくれないか?」
「……見世物ではない」
そっぽを向かれてしまった。
何かにつけても反抗的な彼だが、必中の矢というのは彼の取っておき、奥義のようなものであろうか。
ならばおいそれと見せられないのも分かる。
だが、必ず見て記録してやると、私も誓うのだ。
「う……ううん……」
先に目覚めたのは、ハーフエルフのレンジャーだった。
「この女、試練の民と人間の混ざりものか。お前と似たようなものだな」
「私は魔族だがな。人間の世界は差別があってな。混血は色々と苦労するものだ」
「そのようなものか。ほう、この女、精霊魔法で魔狼の攻撃を軽減していたようだな。目覚めと同時に、精霊を纏い始めた」
「……!」
ハーフエルフが完全に目覚める。
そして、我々を見て、すぐさま警戒状態になった。
「お、お前たちは……!」
「私はジーン。元賢者であり、今は騎士爵としてスピーシ大森林の開拓を任されている。こちらは、私の盟友であるワイルドエルフだ」
ワイルドエルフは、名乗ることを嫌う。
故に、トーガの名は出さない。
「ワイルドエルフ……!!」
おや、注目するのはそちらか。
このハーフエルフ、精霊魔法を使えるということは、もともとエルフの里村で暮らしていたのかも知れない。
トーガを見る視線に、複雑な感情が絡んでいる。
それに対して、トーガの目には何の感情も含まれてはいない。
「君は、ハーフエルフに対して何も思わないのか?」
問うと、トーガは鼻を鳴らした。
「差別とかいう感情か? 試練の民の血が人間と混ざっていることに、腹立たしさは覚えるさ。だが、混ざりものということについては、お前を見ているからな。我らの仲間に迎えようとは思わんが、外で勝手にしている分には興味はない」
トーガの独白を、じっと聞いているハーフエルフである。
エルフ語が分かるのだ。
精霊魔法の行使に、エルフ語は必要ではない。
精霊を名づけるのに必要なのは意思であり、意思が乗った言葉であれば、人間標準語であっても問題は無い。
だが、彼女はエルフ語を覚えている。
エルフが用いる、希少な精霊魔法を使うこと。
エルフ語を解すること。
この二つが揃えば、おおよそ彼女の境遇は想定できる。
つまり、彼女はエルフの側で育ったハーフエルフということになるだろう。
「楽にしてくれたまえ。君が育ったエルフの里でどう扱われたかは知らないが、ワイルドエルフは君に害意は持っていない」
「!? わ、私がエルフの里の生まれだと、どうしてそう思った!?」
「エルフ語の理解、精霊魔法の行使、そして彼への態度。後天的に身につくものではあるが、その三つが揃っている以上、自然な回答はエルフの里で生まれ、迫害されて育った、となるだろう。安心したまえ。混血ゆえの困難は、私も経験している」
「あ、ああ……」
呆然としながら、ハーフエルフは私を見上げた。
「君には聞きたいことがある」
「……答えないぞ」
「依頼主についてだが……やはり答えてはくれないか。魔法で身を隠している間、君の仲間が私の名前を口に出していたようだが」
ハーフエルフは動じない。
じっと私を見つめている。
「私の暗殺任務かね?」
「っ! 私たちは、暗殺などしない! そこまで落ちぶれてはいないからだ!」
自分の仕事に、それなりに誇りを持っているようだ。
「仮に暗殺以外だとするなら、私の状況を調べに来たか。接触を図ろうとしていたようだが、それは雇い主に禁じられていなかったのか?」
「…………」
「沈黙か。ではそれは肯定と捉えておこう。君たち独自の判断で接触しようとした、と。ということは、君たちの依頼主は、バウスフィールド伯爵家だな?」
今度は、びくりと耳を震わせるハーフエルフである。
唇がぱくぱくしている。
「ど、どうして」
「賢者の学院が依頼主なら、ナオを探るだろう。彼らは彼女を取り戻したがっているからだ。国家が依頼主なら、姿を隠さず、もっと直接的に私に接触してくる。それ以外の組織が依頼主となると、心当たりがない。私は賢者の塔からめったに外には出なかったし、関わりも持っていないからね」
「……! そ、それだけの理由で」
「状況証拠を重ねていき、推論と照らし合わせて、選択肢を絞る。そうすれば、正しい答えでなくともより近い答えは得られるものさ。未知に挑む学問の考え方の一つだ」
無論、得られた答えを絶対としてはいけない。
未知の理論や新たな証拠によって、いつ覆されるか分からないからだ。
だが、我々賢者は、いつもそんな逆転を期待しているところがある。
既知の学問を超えた未知とは、賢者が探し求めてやまぬ真実そのものであるからだ。
「さて、他の仲間たちも目が覚めたようだぞ。彼らにも同じことを確認してこよう。ああ、魔法使いと神官のお二人は猿ぐつわをさせてもらうが」




