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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
最終幕 辺境賢者ジーン
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159話 増産体制

「なぜだ! なぜ俺が手伝わねばならんのだ! おいジーン! 説明しろ!!」


 わあわあと叫びながら、クレイグが魔族たちによって運ばれてきた。


「はい皆さん、ここでそーっと下ろしてください。そーっと、そーっと」


 そっと地面に下ろされるクレイグ。

 足の下に大地を感じて、やっと落ち着いたらしい。

 彼は私を見て、とても不満そうな顔をした。


「……どういうこと?」


 周囲では、大量のワイルドエルフたちが作業をしている。

 神秘的な外見の人々が、大勢で小さな工作物をいじり、黙々と仕事をしているのは確かに異様な光景ではある。


「スピーシ大森林の奥に住むワイルドエルフの方々だ。深き森の民。彼らに人間の食事を提供することで働いてもらえることになった」


「楽しみにしています」


「今から楽しみです」


「今から食事にしたっていいですよ」


 私の言葉に、深き森の民たちは一斉によい返事をした。

 これには、別集落のワイルドエルフであるトーガとシーアも絶句である。


「こいつら、こんな性格だったのか……。何を考えているか分からんと思っていたら、飯のことしか考えていなかった……」


「そう言えば、森の奥から出てこないから刺激が少ないってローラも言ってたもんねえ。普段からある娯楽と言うと、食べることになっちゃうのかなあ」


 さて、説明は済んだだろう。

 私はクレイグの肩を叩く。


「ということで、開拓地は一斉作業期間に突入した。君も手伝ってくれ」


「待て待て待て!! 俺は! お前の! 仇だろう!? お前を王都から追放させ、次々に刺客を送り込んだ! なんでそんな俺を、今まで手厚く看病した挙げ句、重要そうな仕事をやらせようとする!? ……俺がお前の弟だからか? 肉親ならば情にほだされるとでも思ったか。甘い男だ……!」


「いや、君が事務仕事が得意だと思ったのでちょうどいいだろう」


「なんだと!?」


 ちょっと暗い顔をしたクレイグが、すぐに唖然となった。

 ころころと表情が変わる。


「感情表現豊かですねえ。元気になったようで、お義姉さんうれしいです!」


 ナオがニコニコすると、


「誰が義姉(あね)か!? 俺は認めないからな!? というかそもそも、こいつが俺の兄だということも認めていない!!」


 クレイグが青筋を立てて怒鳴る。


「うむ。認めなくてもいいから手伝ってくれ。資料がとにかく多くてな……。整理せねば悪魔アバドンへの備えに間に合わないのだ」


「話を聞けよ!? お前、人としてその対応はおかしいだろう……!」


 クレイグの横で、トーガがニヤニヤとした。


「ま、こいつは人の心が分からんとか言われているからな。俺としちゃ、ジーンが人間のスタンダードみたいになって来てるところがある。ちょっと変なくらいの奴なら、全然大したことないぜ。お前とかな」


「俺は変じゃない! 変じゃないからな!!」


 そして、叫び疲れたクレイグががっくりと膝を突き、ぜいぜい言った。

 病み上がりなのに興奮するからであろう。


「肩を貸してやろう。あちらに領主の執務を行う家があってだな」


「お前、どこまでもマイペースで……。そんな性格だったのか……。道理で何を仕掛けても平然としているはずだ」


 体力が尽きたら大人しくなった。 

 これは運びやすくて大変具合がいい。

 私はクレイグに肩を貸して、領主の邸宅まで運び込んだ。


 いつも私が事務仕事をしている場所である。


「カレラ、アスタキシア。これは私の弟のクレイグ。元伯爵なので領地運営などは得意だろう。よく使ってやってくれ」


「バウスフィールド伯爵!?」


「ええ……。元伯爵がわたくしたちの同僚ですの……?」


「お前……俺が、仕事をやるとは一言も……」


「ある程度片がついたら、積もる話でもしよう。クレイグ、今は緊急事態だ」


 私は彼の目を見た。


「悪魔アバドンが王国に迫っている。あらゆる作物を食い尽くす、蝗の大群の姿をした相手だ。これを退けるために、開拓地は全力を尽くさねばならない」


「……俺がなぜ、俺と母上を見捨てた王国などに……」


「王国はどうでもよくても、この災害を放置すれば多くの民が死ぬ。民に責任はない。私たちは、この国に住む多くの人々を助けるために戦うのだよ」


 クレイグが黙り込んだ。

 何か考えているようだ。

 彼は山積みになった書類に目をやると、鼻を鳴らしながらその数枚を手にとった。


「見積もりがずさんだ。小規模の村ならばともかく、これだけの人口を抱えるようになってからいい加減な計算で財政や食料を扱っていると痛い目を見るぞ」


 彼は立ち上がる。


「全く、お前は本当に領主としてはダメな男だな。最後の判断をする者の目がザルでどうする。サインだけは残しておく。さっさと仕事とやらをやって来い」


 クレイグはそれだけ言うと、手で私を追い払った。


「感謝する。頼むぞ!」


 よし、事務方面は大部分が片付いた。

 アバドン対策に関する書状は、私の口述を文字が書けるメンバー全員で筆記し終えている。

 王国中の貴族にこれを伝え、彼らが管理する土地への守りを固めさせるのだ。


 陛下の頭を飛び越えてしまわぬよう、最初の書状は私の肉筆で、すでにオーニソプターに乗せて飛び立たせている。


 そして重要なのは、アバドンによる食害を抑えるための、作物を覆う物だが……。

 私にはいい考えがあった。

 既に、それは実行に移されている。


「マルコシアス、アバドンを構成する蝗の大きさは?」


 領主邸を後にして、私は歩きながら問う。

 いつの間にか傍らには魔狼がいた。


「その質問に答えよう。ジーン、お前の人差し指の半分ほどだ。太さは小指ほどだ」


「ありがとう。大きささえ分かれば充分だ。これはつまり……作物に向かって侵入できないよう、生け簀で囲む作戦になる」


 ここに来て、シサイド王国を訪れていたことがプラスに働いた。

 水の中で、稚魚を逃さず、しかし水の流れを受け入れられるほど目の細かい網。

 これを作物を覆うために使用し、アバドンの侵入を防ぐのだ。


「充分量の網は用意できないかもしれないが、素材、大きさについては早急に決定するぞ。これを書状にして、各地で生産させる。類似品についてもピックアップだ」


 手乗り図書館を展開する。

 私は周囲に聞こえる程度の大きさで言葉を紡いでいる。


 私という者を知っている開拓地の民は、これを聞いてすでに動き始めていた。


「網の材料になりうるものを、各領地で産出される資材に割り当てる。加工方法もそれぞれ記述! 今から読み上げていくぞ。分からないところは聞き返してくれ!」


 王立図書館の知識を、賢者の塔の知識を、蓄えに蓄えた手乗り図書館。

 今、それが光り輝きながら数多の知恵と情報を展開している。

 映像は、私を囲むように、そして私の頭上にびっしり張り巡らされ、まるで私は知識の壁画に囲まれているかのようだった。


 書状は高速で作成される。

 オーニソプターは、耐久性は度外視で、往路だけ持てばそれでいい作りだ。

 これを起動するために魔狼粉は残らず使い切る予定である。


 まさに、開拓地の全力。

 いや、森の人々の手も借り、全力を超えた全力で挑む。


 戦いとは準備が九割。

 つまり、アバドンに対するこの備えこそが、最大の戦いだと言えよう。


「この戦い、勝ってみせるぞ……!」

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