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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
最終幕 辺境賢者ジーン
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158話 まずは対策

 思考を巡らせるためには、脳を動かす栄養が必要である。

 ということで、深き森の民が昼食に誘ってくれた。


 この集落は空が開けているが、なぜか今の時間が曖昧でよく分からない。

 頭上は青空なのに、どこにも太陽の姿が見えないからだ。


「精霊の力を使い、世界の有り様を変えているのです。いわば、この里自体が巨大なエルフの通り道とも言えましょう。かつて古い時代には、精霊界と呼ばれていたようです」


 フォレストが説明をしている内に、ワイルドエルフたちが集まってくる。

 彼らはそれぞれ、食材を手にしていた。


「ここで料理してくれるのか」


「ええ。普段は意識を共有している私たちですが、食べる時は意識の共有を切るんです。だって、みんな味や料理の具合については好みが分かれるので」


「なんと!?」


 ローラからとんでもない話を聞いた。

 深き森の民、意識を共有した巨大な一個体なのかと思っていたら……。

 どうやら肉体は別々なので、それが好む味付けはどうしても異なるという話らしかった。


「そうですねえ。わたしも甘いのとか、ちょっと脂っこいのとかが好きですもん。エルフさんたちもそうですよね」


「そうか? 逆に試練の民はあまり味の好みというものがないぞ。人間のところにやってきてから、初めてここまで味が違うのかと驚いたほどだ」


「だよねえ。私たちは結構質素な味付けだもんね」


 ナオ、トーガ、シーアの話も興味深い。

 意識が一緒なのに味の好みが違う。

 意識が別々なのに味の好みが同じ。


 いや、トーガとシーアたちの場合、その地域で取れる食材が味に差異をつけられるほど豊かではない、という話では……?


 ちなみに深き森の民たち、野菜らしきものを切ったり、肉を焼いたりしている時は整然として一糸乱れぬコンビネーションで料理を進めている。

 だが、いざ味付けとなった瞬間、表情が千差万別になった。


「これは塩味で」


「いいえ、ハーブで味付けを」


「少し芯が残るくらいで」


「舌で押し潰せるくらい柔らかく」


「全部入り」


 喧々諤々、意見を戦わせはじめた。

 彼らワイルドエルフは、意識を共有することで互いを理解できているが、料理の好みのみは理解し合えないようだった。

 どれだけ精神が成熟しても、肉体はままならないものだな。


 結局、味付けは我々に任されることになった。

 料理の内容は、野菜と肉とエルフ麦の煮込みである。

 野菜と麦の硬さはほどほどくらいになった。


「意見がぶつかりあって全てが中庸になった」


 私の感想に、ローラは済まして言った。


「毎回そうなんです。私たち深き森の民も、まだまだ未熟だっていうことです」





 もりもりと食事をしながら、対策について考える。

 アバドンは作物を食い荒らす。

 だが、それはある程度柔らかで食物としての性質を持っていなければ食べられないということだ。


 実際、乾燥させたエルフ麦の種子は固く、アバドンはそれを食べられなかったとも聞く。

 そして木造の家屋は食い荒らされない。


「他にないだろうか?」


 私が尋ねると、ワイルドエルフたちは顔を見合わせた。

 広場で多くのエルフたちが、一斉に食事をしているのだ。


「ちょっと待ってください。食事中に意識を共有すると戦争になるので」


「我々は争いを好まない平和な種族です。ゆえにわざわざ争いは起こしません。食後にしましょう」


 そんな事を言われた。

 なんと言うか、今まで出会ってきた中で、一番食べるということに重きを置いている種族ではないだろうか……。


「精神的に充足してしまうと、食べることや趣味を行うことしかやることがなくなるのです」


 ローラがこっそり教えてくれた。

 聞けば、深き森の民は微妙な塩分量にこだわり、繊細な味付けを好むのだとか。

 取れる食材の種類が森の外よりも少ないので、ちょっとしたところで差を出していくしかない。


「なるほど。ではどうだろう。協力してくれるなら、こちらからも謝礼として外の世界の食材を提供しようと思うのだが」


 私が告げると、深き森の民たちが明らかにざわついた。

 動揺している。


「先輩、この人たち、本当に食べるのが好きなんですねえ」


「ああ。食材という交渉カードの効果があり過ぎる」


 ざわつくエルフたちを代表し、またもフォレストが口を開いた。


「賢者ジーンよ。何を協力しろというのですか。これ以上、我々に何を求めていると?」


「実は、少しずつアバドンから食べ物を守る方策は思いついている。既に刈り取り、保存してあるものだけを食べられないもので覆い、守ればいいのだ。今畑にあるものはあきらめる他ない。だが、守るにしてもそのための覆いを作るために手が足りないのだよ。君たちの手を借りられれば、作業速度は上がる。どうだろう」


「ふむ」


 フォレストが考え込んだ。

 ワイルドエルフたちもまた、めいめい、黙り込んで深く思考しているようである。


「作業の間、食事はこちらで用意しよう。人間の料理人も雇い入れるからね」


「なん……だと……」


 フォレストが顔を上げる。

 ワイルドエルフたちもまた、一斉に顔を上げた。


「し、しかし……我々深き森の民にも森の調和を保つと言う役割が……あるが……一週間くらいは大丈夫だろう。協力しよう」


 フォレスト、一瞬言いよどんだところで、誇りと欲望がせめぎ合ったようだ。しかし無事に欲望が勝利したな。

 代表が欲望に敗北することで、大義名分ができたワイルドエルフたちは一斉に頷いた。

 なんと食の誘惑に弱い種族なのだ。


「食べることが一番の楽しみになっているのが私たちですから。ちなみに私は、この中では一番食について淡白だったので選ばれたのですが」


「ローラの方が例外的なタイプだったのか」


 かくして、大量の作業員を確保した。

 食事が終わった我々は、早速エルフの通り道を展開する。

 これまでにないほどの、極めて大規模な通り道である。


 まさかの、深き森の民全員で開拓地にやって来ることになったのだ。

 全員食い意地が張っている。


 皆で、王都の中央通りに匹敵するほどの広大な通り道を歩いていく。

 恐らく、これだけの数のエルフが一度に魔法を使ったことなど、そうあるまい。

 魔力に疎い私でも分かるほど、ここは魔力に満ち溢れていた。


「ひやー! 視界が魔力で虹色です! すごいことです、これは!」


 ナオが目をぱちぱちさせて、思わずメガネを外した。

 魔道具であるメガネを通しては、あまりにも見えすぎてしまうようだ。


「精霊酔いを起こしそうだ……。なんとかならないのかこいつら」


 トーガがぶつぶつ言う。

 シーアなど、ナオと手をつなぎながら目を閉じて歩いているではないか。


「絶対めまいするもん、これ。まさか深き森の民がこういう人たちだったとは思わなかったなあ」


 意外過ぎる真実であった。


 これだけの人数で行使したエルフの通り道は、易々と開拓地への距離も縮めてしまう。

 幾らもあるかないうちに、我々は元いた森の外へと戻ってきてしまった。


 突然、大人数が開拓地の広場に出現することになったわけである。

 驚愕する我が領民たち。


「ガーシュイン、これから忙しくなるぞ。オーニソプターを大量生産だ。ここにいるワイルドエルフたちが手伝ってくれるから、やり方を教えてあげてくれ」


「ぬ、ぬう、分かった!」


「ボルボ! 婦人会の皆さんを総動員して炊き出しだ! それからロネス男爵にも協力要請を! 食材と料理人が足りない! 一週間、向こうから人と食材を大量に仕入れるぞ!」


「おうよ! なんか分からんが、凄いことになっとるのう!」


「カレラ! アスタキシア! 国中に向けて書状を書くぞ! アバドン対策をセントロー王国全土で行うんだ。まずは悪魔アバドンの存在が知られねばならない!」


「分かったよ、ジーンさん!」


「お任せですわ!」


「先輩、わたしは何をしたらいいです?」


「ナオは、そうだな。クレイグがそろそろ元気だろう。事務作業で手を借りたいので連れてきてくれ」


「はーい! お義姉さんとして、クレイグさんを連れてきます!」


 さあ、開拓地が動き出した。

 ビブリオス準男爵領の全力を使って、王国を襲う災厄を最小限の被害で終わらせるのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! >いざ味付けとなった瞬間、表情が千差万別になった 大皿の唐揚げ(鶏)にレモン汁を許可無く大量にかけるのは許されざる行為ですかね?w あと、目玉焼きに何をかけるのか……
[一言] >いざ味付けとなった瞬間、表情が千差万別になった ほうほう、実に興味深い そしてここにそこらへんの森に生えていたキノコと 竹やぶから掘ってきたタケノコがあるのだが(戦争)
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