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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
最終幕 辺境賢者ジーン
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157話 そしてエルフの通り道

 いつものエルフの通り道である。

 今回はローラが発生させたこれを使い、深き森の民の住む場所……スピーシ大森林の奥地へと向かうことになっている。


 スピーシ大森林とは、セントロー王国外縁を覆う広大な森で、その広さは王国全土に匹敵するのではと言われている。

 今まで何度も開拓が行われようとしたが、森林に住むワイルドエルフたちの抵抗にあい、開拓計画はその度に頓挫させられていた。

 実質、私が森の開拓を成功させた第一人者ということになるらしい。それにしたところで、大森林の外側を少しだけ切り開いた程度なのだが。


「それはそうと、やはりエルフの通り道に入ると気持ちが高揚してくるな。実に素晴らしい場所だ……」


「ですよねー。わたし、通り道の造形とかすきなんです! 天然の回廊としてここまでよくできてるのは普通ありえないですもん!」


 私とナオ、二人でそれぞれエルフの通り道の良さを語り合い、立ち止まっては触ったり引っ張ったり押したり。


「そこ! ここは精霊の存在が親しいところなのですから、あまりペタペタ触らないように!」


「なるほど」


「はーい」


 ローラに注意されてしまったぞ。

 これを見て、トーガとシーアの兄妹がニヤニヤしている。

 最近では、我々がエルフの通り道で何を触っても注意してこなくなった彼らだが、あれは大目に見ていたわけではなく諦めていただけだったらしい。


「私とナオは不屈なので、目を盗んで今後も触ったり調べたりするぞ」


「ええ……。試練の民の方々。この人たちいつもこうなんですか?」


「俺が出会った頃からずっとこうだ。ジーンはぶれないからな」


 どこか自慢気にトーガが語るのだった。


 さて、こうしてきょろきょろしながらエルフの通り道を行くのだが、深き森の民が使うこれはトーガたちのものとは大きく違う。

 何が違うかと言うと、色彩である。


「先輩。このエルフの通り道は、すごく色が濃いです。あと、下に行くほど青くなっていく感じですね。ローラさんとは最初、エルフの通り道ですれ違ったんですけど、その時はシーアが作ったのを使ってたんですよ」


「そうですね。私たちエルフは、通り道があるならそれを利用するの。新しく作るには、精霊の流れを変えなければいけないでしょう? それは森に負担をかけるものだから、最小限の通り道だけを作って、すでに存在しているものに繋げるの」


「なるほど、そういう法則があったのだね……」


 エルフたちの間にも、様々な取り決めがあるのだろう。

 ちなみに、濃い緑色は森の奥に行くに従って植生が変わるため。

 青色は地下水や湖が存在しているためらしい。


「見てみたい……」


「だめですよ。猶予はあまりないのでしょう? 今回は私の集落できちんと話を聞いていってください」


 ローラにピシャリと言われてしまった。

 仕方あるまい。 

 何よりも、悪魔アバドンの正体を暴き、その被害を防ぐことが大事だ。


 どれだけ歩いたことだろうか。

 通り道にも終わりが見えてきた。


 まばゆい輝きが近づいてきて……。

 気がつくと、我々は緑に包まれた神秘的な村に佇んでいた。


 そこは、巨大な樹木が幾つも立ち並び、それらの枝葉が繋がった場所。 

 枝の上には家があり、ワイルドエルフたちが行き交っていた。

 ここが、深き森の民の集落。


 思わず寄り道したくなる自分を抑え込む。

 何しろここは、試練の民の集落とは異なり、それそのものが巨大な樹上に築かれているのだ。

 下方にちらりと目線をやると、そこはどこまでも続く湖だった。


「湖から直接木が生えてるんですね……」


「ああ。それも、一本一本が王城よりも遥かに巨大な木が、だ。これですら、スピーシ大森林が持つ姿の一部に過ぎないだろう。全く、我々人の矮小さを思い知らされるな。これは、私の生涯を使っても研究しきれないぞ」


 己の内から喜びが湧き上がってくるのを感じる。


「だからこそ、目の前の危機をさっさと解決するぞ。これは掛かったとしても、これから一週間以内ですべて終わる事だ。一生のうちの一週間で、これからの研究生活が確保できるなら安いものさ」


「ですね!」


 ローラが私へ、不思議なものを見るような目を向けている。


「どうしたかね?」


「いえ、なるほどと思いまして。私たちよりも遥かに短い寿命しか持たない人間が……いえ、あなたは半分だけ人間でしたね。ですが、それでも私たちには成し得なかったことを成し、さらに先へと進もうとしている。それが私たちは不思議だったのですよ」


 気がつくと、周囲にいたエルフたちの動きが止まっている。

 彼らの視線は、私に注がれていた。


「深き森の民ってのは、俺やシーアと同じ、お前が言うワイルドエルフだ。だが、根本的な部分で違うんだ。こいつらはな、一つに繋がってるんだよ。ここにいる全てのエルフが一つの人格なんだ」


「その通りです。もっとも、森の外に出てしまえば繋がりを保つことができませんが。だから、私は深き森の民の中で、唯一個性というものを獲得した気がします。さあ、こちらへ」


 集合意識というものだろうか?

 そこは、枝と枝が密集し、絡まり合うところだった。

 深き森の広場とでも言うのだろうか?


 広場の中央に、一人のエルフが立っている。

 試練の民の長老とは違い、特にこれといった特徴がない、普通のエルフだ。


「ようこそ、スピーシ大森林の深奥へ。人としてこの地に足を踏み入れたのは、あなたが初めてでしょう、辺境の賢者ジーンよ」


「出迎え感謝する。あなたは?」


「我々に個体名は意味を持ちません。ですが、名を得てあなたがたと接触した個体が、我々とは異なった変化を遂げたように、我々も名を持つことで個別に分化するかも知れません。……失礼、これでは答えになっていませんね。私のことは、深き森の民の意思、フォレストと呼んでください」


 森と呼べということか。

 これはエルフというよりも、それを超えたもっと大きな存在のような気がするな。

 大森林を循環する精霊が意思を持った存在と言うか。


 興味深いが、この研究も後回しだ。 

 本題に入ろう。


「悪魔アバドンについての知識を得たい」


「かの悪魔が再び、この世界ゼフィロシアに現れたのですね。分かりました。全ての個体に振り分けているアバドンについての言い伝えを集めましょう」


 フォレストは目を閉じた。

 すると、彼の足元から、広場を形作る枝葉に向かって緑色の輝きが広がっていく。

 それらは遠巻きにこちらを見つめるエルフたちに接触し、彼らをも輝かせた。


 やがて戻ってくる緑の光。


「私たちが記憶できる量は限られています。悠久の時を生きる中で、何もかも、詳細な記憶を残したままでは生きていけませんから。だからこうして、全ての知識は断片となり、分散しています。……集まりました」


「ふむ、どうなのだね? アバドンに抗する手段はあるのか、どうか」


「結論から申し上げると、あります。アバドンは意思を持たぬ群体ではなく、あくまで蝗害の形をした悪魔。それが世界のシステムに組み込まれた存在です。悪魔なれば……何かに召喚されたというのはお分かりでしょう」


「マルコシアスのようなものか!」


「個体名は存じ上げませんが、悪魔は役割を果たすことで退去します。役割を果たさせればよいのです。その役割とは……」


「作物を食らい尽くすことか」


「その通りです。これには可食である植物や果実も含まれます」


「だが、それをするならば人々が食べられるものが無くなってしまう」


「はい。ですから、私たちの祖先は、食べられぬもので食物を覆い、守りました」


「食べられないもので、食べられるものを覆う……! ふむ、ふむふむ……」


 これは解決への大きな糸口であろう。

 アバドンが確認できる範囲で食物がなくなれば、彼らは退去する……。

 そういうことなのだろうか。

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