156話 開拓地首脳会議を開催する!
「さて、我々の知識と知恵を持ち寄り、こうして会議を行っていくわけだが」
議場は、開拓地の中心広場。
そこに大きな木の板を繋げたテーブルを用意し、丸太に腰掛ける青空会議場である。
「まずはこちらに資料がある。注目してもらいたい」
私は手乗り図書館から、悪魔アバドンの情報を提示する。
「ほほー」
「なるほどな……」
「これが手乗り図書館ですか」
「うむ……」
「何者なんです、これは?」
私が展開した映像を、集まった者たちがぎゅうぎゅうに集まって眺めている。
賢者ウニス、賢者トラボー、深き森の民ローラ、古代魔法の継承者ガーシュイン、翼人のキールス、そして何も言わないのはトーガである。
我が開拓地に居留する、最高の知力を持つ者たちである。
あるいは、私が選定したこの状況に対応できるメンバーだ。
「悪魔アバドン。全ての実りを食い尽くす悪魔だそうだ。キールスたちが伝えてくれた、作物に甚大な被害を与えた風の正体がこれだ」
「ふむ。いいか、ジーン」
トーガが発言の許可を求める。
「どうぞ」
「食い尽くしたというのは、どの次元でだ? 根も種も残らず?」
「キールス、これについての情報はどうだろう?」
「はい。深いところに埋まった根は残っています。アバドンはあくまで、表土より上にある植物を食い尽くすようです。それから、ある程度の硬さを持つ植物に被害はありません。木造の建物や木々の幹は無事でした」
この情報を受けて、アバドンについての情報を修正する。
「これを凌ぎ、ある程度の種子を確保できれば来年は過ごせるな」
「ですが、食べられるものが何も無くなってしまったら、普通の生き物は全滅ですね」
賢者ウニスの言うことはもっともである。
食べなくても生きていける者など、それこそ悪魔以外にはおるまい。
「アバドンについてですが」
ローラが手を挙げる。
「どうぞ」
「はい、発言許可、ありがとうジーン殿。ワイルドエルフの立場からお話しますと、深き森の民の間にも、アバドンのような存在は語られています。広範な地域の生物を滅ぼし、やがて消えていく厄災。しかし、彼が消えた後に新たな命が芽吹き、不毛の大地で生命の更新がなされると」
トーガは知らなかったらしくて、「なん……だと……」と呟いている。
この中で、最年長はこのローラだろう。
蓄積された知識の量は凄まじいものに違いない。
現に深き森の民の言い伝えは、とても参考になる。
「アバドンそのものは、世界に幾度か現れているということかな?」
「ええ。深き森の民の口伝が残る中では、今までに二度出現しているようです。ただ……これは正直信じられない話なのですが、一度目の出現の際には、灰色の王を名乗る人間が一人でアバドンを祓っているとか」
「伝説にはそのような誇張はよくあるものだ。ちなみに祓ったのはどのような方法でだね?」
ローラが半笑いになった。
「剣だそうです」
「伝説は伝説に過ぎないようだ」
我々一同、これについては同意する。
「二度目の際は撃破はできなかったのかね?」
「相手は風の姿をした悪魔です。物理的な攻撃はもちろん、少々の魔法では倒せなかったようですね。詳しい話は、深き森の里で集めるのが良いのではないでしょうか。私も自分が覚えている範囲ではこのようなものです。何しろ、あくまで言い伝えに過ぎないと思っていたので……」
「なるほど、現地での聞き込み。これはフィールドワークの一環でもある。重要だね」
次なる目的地は決まった。
「おお、では今度は私もご一緒しても?」
賢者ウニスが立ち上がった。
ローラは彼を一瞥すると、
「ハーフエルフならば、まあ……。いいのではないでしょうか」
「やった! 許可が出ました! イヤッホーウ!!」
ウニスは飛び上がって喜ぶ。
見た目が若いからいいが、彼は人間の世界で暮らして、既に齢六十に届こうか、あるいは超えた年齢のはずである。
心が若々しい。
トラボー殿はこれをじっと見ていたが、特に表情も変えずに私に向き直った。
「で、俺は何をすればいい? 風など、どうしようもないと思うが」
「風は作物を食らう時、蝗に姿を変えるそうだ。虫に対抗するための道具などはあるかね?」
「おお、それならばあるぞ。細かな網を使ったものだ。防虫網だが、通常の畑に使うような規模では間に合うまいな」
「よし、オーニソプターで陛下に予算申請を出しておこう。予算については……クレイグに計算してもらうか」
「なんだジーン殿、新しい事務方が入ったのか!」
「ジーン殿、これは安心して研究に打ち込めますね」
トラボーとウニスが喜んだ。
我々賢者にとって、この予算の申請というのが曲者である。
己の研究分野以外にはとても疎いのだ。
大体ガバガバな研究予算を申請し、却下される。
三日くらい、知恵熱を出しながらウンウン唸って申請書を作り、提出することになる。
これを代行してくれる事務方は、我ら賢者にとって重要な役職なのだった。
「クレイグというそいつにも挨拶に行かんとな」
「いやあ、実にありがたいことです」
「クレイグも災難だな……」
ガーシュインが顔をしかめた。
そうか、彼はクレイグに雇われていたのだったな。
「まあいい。ジーン。我輩はオーニソプターを増やし、それから何か使えそうな物がないか伝承の資料を調べるとしよう。だが、何もかもお前がアバドンについての知識を集めてこなければ始まらん。我輩は世界なぞ滅びても構わんと思っておったが、そうもいかなくなった。全力でアバドンと戦うつもりだからな」
ガーシュインも変わったものだ。
「よし、となれば急がねばな。ジーン、さっさと準備をしろ。そこのウニスとやらも来るんだろうが。後はナオとシーアと……」
トーガが仕切りだした。
私が考えていた人選のままなので、大変楽でありがたい。
「ではそれで行こう」
そういうことになり、会議はお開きとなったのだった。
そして、そのままの流れでナオとシーアを呼びに行くことになるのだ。
「おー! 先輩、ついにスピーシ大森林の奥地に踏み込むんですね!!」
「うむ。アバドンの襲来によって、セントロー王国が危機に晒される状況だからこそ実現した訪問機会だ。アバドンには感謝せねばな」
「するなするな!」
トーガに小突かれた。




