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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
最終幕 辺境賢者ジーン
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154話 風

 王都からオーニソプターが戻ってきた。

 貴重な魔狼粉を使ってまで、この小型ゴーレムを動かすとは緊急の用事だろうか。

 翼をはためかせるオーニソプターに手を差し出すと、それは私の腕に止まって静かになった。


 オーニソプターの腹はがらんどうになっており、ここに手紙を丸めて入れられるようになっている。

 確かに、紙が差し込まれている。


「どれどれ……」


 それは、王都からの手紙であった。

 筆跡は整っており、王国が抱える専業の代筆者によるものと分かる。

 だが、文面に目を走らせ、私は驚愕した。


「陛下の語り口ではないか。つまりこれは、陛下の口述筆記ということになるのか」


 これは恐れ多い。

 普段、権力に何ら価値を感じていない私であるが、ツナダイン三世陛下に対してのみ敬意を抱いている。

 理解ある為政者として、そして何よりも学術への理解を示す人格者として。


 立ち読みも不敬だと思われたので、私は手紙を持って執務室へ戻った。


「なんですかなんですか?」


 ナオがあとを付いてくる。

 新婚旅行以後、彼女はよく私の隣にいるようになった。

 以前も距離は近かった気がするが、最近は常に一緒に行動しているような状態だ。


 お蔭で、救荒作物調理研究所で私がトーガとともに料理を食べていたことについて、大いに抗議をされてしまった。

 これは恐らく、私と彼女の関係が以前よりも濃密になったためであろう。


「こうですね。ホムンクルス独自なのかわからないですけど、先輩の魔力とわたしの魔力が混じり合う感じがするんですよね。なので、なんかできそうな感じがするんです!」


「なるほど」


 できそうなのが何なのかは察しがつく。

 我々夫婦の共同作業にも、結果がもたらされるのが近いかも知れない。


 魔族の血が混じった者とホムンクルスでは、世の通常の夫婦と違ったりするものだろうか?

 いや、あまり違いはなかろう。

 皆、互いの魔力を共鳴させて結果を成すものだ。


 そうでなければ、種族すら大きく違うマーメイドと人間が結ばれるなどありえないからだ。


 ……という話を、開拓地で既婚者が多い魔族たちに話してみたら、みんな真顔で否定してきた。

 オーガのバルガドに至っては、


「何おかしなこと言ってるんですかジーンさん。そんなもん魔力がどうこうとかじゃなく、愛ですよ愛」


「不条理な」


「いや不条理じゃないですって!」


 魔族たちがなぜか呆れていたのが印象的であった。

 この分野に関しては、私はまだまだ素人である。 

 だが、ナオが結果ができそうだと言っているのである。


 まずは形になってから、その理由を分析すればいいのだ。

 その行為が形を結ぶかどうか分からないうちに、方向を転換していてはできるものもできない。


「……おっと、いかんいかん。我々夫婦の話で頭がいっぱいになっていた」


「それはとても大事なことです」


 ナオが嬉しそうに、むふーっと鼻息を吹いた。

 

「なので、今日は先輩といっしょに、わたしたちの研究成果にどう名付けるかというお話をしようと思ってたんですけど……」


 ナオの視線が手紙を射る。


「それどころじゃなさそうですね」


「ああ。国が一大事になったら、我々の研究成果を祝うことができなくなる。いよいよかも知れないぞ」


 私もナオも、ちょっと気を引き締めて手紙を読むことにした。

 内容はこうである。


『ジーンよ。

 研究は進んでいるだろうか。

 救荒作物は各地に届けられ、お前からの指示通りに荒れ地を主として栽培が始まった。

 余も自室のベランダにプランターを設けて、何本か育てて見ているぞ』


「なんと、陛下が自らエルフ麦を!」


「王様、こういうことにはすごく活動的ですよね」


「もともと芸術家肌で研究者肌なのだ」


『数日で芽が出た。

 これは強い種だな。どんな環境でも芽吹き、実ることだろう。

 だが、確かに肥料を多く与えた土地では、芽吹きが遅く、生育も悪い。

 これでは在来種との生存競争に勝つことはできないだろう。

 逆に痩せた土を使った種は大変よく育つ。

 陽の光と水を貪欲に吸収し、見る間に大きくなっていった。

 こうしてこれらは、競争相手のいない環境を独占して生存するのだろう。

 おっと、話が逸れた』


「今絶対、王様夢中になって話してましたよね」


「そういうお方だ」


「先輩と似てますね?」


「恐らく同類だろうな」


 とても親近感を覚える。

 特に、研究の話に夢中で本題になかなか入らないところなど。

 そして王の言葉ゆえ、端折るわけにもいかず、そのまま書き綴る代筆者も大変なことであろう。


『ジーン、よく聞け。

 いよいよ、救荒作物の出番がやってくるかも知れぬ。

 シサイド王国から連絡があった。

 草木を枯らす風が、海を渡っているとのことだ。

 シサイドの島々の幾つかが、この風にやられた。

 幸い、彼らの島は広く分布しており、漁業による食料の確保もできる。

 養殖も徐々に規模を拡大し、短期間で成魚が獲れ始めているとのこと。

 心配はあるまい。

 問題は我が国だ。

 セントローは農業の国。

 草木を枯らす風が吹き付ければ、たちまち飢饉となろう。

 お前の危惧が現実となりつつある。』


 おや?

 陛下はこのことを見越して私を辺境に派遣したのでは……?

 何か、陛下と私の思考に行き違いがあるような。


「さすが先輩ですね!」


 ナオがいきなり褒めてきたので、私の思考が中断した。


「何がかね」


「だって、こうなるって分かっててエルフ麦を育てて、広めたんでしょう? これはとっても大事なことです。自慢の旦那さまなのです」


 えっへん、と胸を張られる。

 なるほど、そう言われるとそんな気がしてきた。


「それで、王様は風について何か書いてるんですか?」


「いや、手紙はこれで終わりだ。伝聞に過ぎないようだな。それから、シサイドで被害が出た後に報告が来て、それを陛下が私に伝えるだけの余裕があったということは……」


 私は頭を働かせる。

 風はどれだけの足で吹いている?

 それは船よりも遅いということがあるのか?


 転移魔法を使ったとして、それでも陛下が文を用意して送り届ける間に、セントローに到着しないということがあるだろうか。

 風向きが変わった?

 確たる証拠はない。


 悪しき物はこちらにもやって来るとして対策すべきだ。

 ならば、どうしてやって来ない?


 風が遅い(・・・・)のか?


「ならばそれは……風ではあり得ないだろう。救荒作物だけでは不足かもしれない。ナオ、調べる必要がでてきたようだぞ」


「はーい! なんか大変なことが起きそうなのに、先輩の目がきらきらしてますね!」


「うむ、我ながら因果な性分とは思うが……苦難に知識で立ち向かうというのは、どうやら私の性分なのだ」


 かくして私は、手乗り図書館を展開した。

 やるべき事は山積。

 対抗すべき風の正体は不明。


 我が国セントローを救うため、まずは風が何者であるのかを解き明かさねばなるまい。

本日から最終話まで、毎日更新予定

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― 新着の感想 ―
[良い点] 事務を全部押し付けられるヤツも手に入れて 国家の大危機が現れて いよいよ知識チートが火を噴くんですねぇ (毎回噴いているとも言う) [一言] >皆、互いの魔力を共鳴させて結果を成すものだ。…
[一言] 蝗害ですかねー。
[一言] ばいんばいんの嫁さんがいるんだからせめて褥を共にしろ(血涙) ジーンだと間違ってもノクターンにはならなさそう…
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