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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
最終幕 辺境賢者ジーン
156/171

150話 旅立つエルフ麦

 大量に生産されたエルフ麦の実が袋詰めされる。

 それは荷馬車にたっぷりと積まれ、セントロー王国中に旅立っていくのだ。


 ツナダイン三世陛下からの正式なお触れも発された。

 各貴族たちはエルフ麦を受領次第、早急にその育成を開始しべし、というものである。

 理由はいつか来るであろう、飢饉に対応するため。


 我が主君は、よく分かっているようで実にありがたい。


「なんかこう、わが子が巣立つような気分だなあ」


 マスタングが腕組みをして、積み込まれるエルフ麦を眺めている。

 開拓地の始まりの頃、私が冒険者からヘッドハンティングした男だ。

 この土地のエルフ麦の始まりから関わり続けてきただけに、感慨もひとしおであろう。


「うむ。マスタング。君の育てた麦が世界を救うぞ。いや、正直な話を言えばエルフ麦によって救われるような局面には、ならぬに越したことは無いのだが」


「まあそうですな。ありゃあ、普通の小麦に慣れてたら不味くて食えたもんじゃない。だけど、どこだって育つし収穫できる。病気にも強ければ、荒れた土地ほど育つのが早い」


「ほう、土地によって育ち方に差が出ていたのかね?」


「ジーンさんは忙しかったですからね。公爵の襲来にドラゴンの巣立ち、おまけに結婚式に新婚旅行を兼ねた海外視察と、エルフ麦に関わる暇が無かったのはしかたないでしょう。俺のほうで試してみたんだが、あれはその土地の性質によって大きく育ち方を変える。豊かな土地では、ただの頑丈で不味い麦でしかないんだが、そこが荒地となると生き生きとしだすと言うか……」


「なんと!! 詳しく教えてくれないか!?」


「積み込みが終わったらですな。よっしゃ、俺も手伝うぞ!」


「必ず終わったら教えてくれ。私も手伝おう」


 ということで、私も加わったエルフ麦の積み込み作業は一時間ほどで終了した。

 雑多に積まれた袋は、大森林で取れる草を編んだものである。

 大変丈夫で炎にも強い。

 大地に放置しておけば、あっという間に風化して土に還ってしまうから、地面に直置きしてはいけないがその他は大変優秀だ。


「いやあ、まさか準男爵ご本人に手伝っていただけるとは」


 荷馬車の一団を指揮する、ロネス男爵領の騎士が恐縮していた。


「なに、気にする事はない。この作業をさっさと終わらせねば、私の知的好奇心が満たされないのでね。それに、この事業は我が開拓地が存在した理由ともなる重要なものだ。領主である私が自ら手伝うことで、いわば験を担ぐ意味もあるのさ」


「なるほど。でしたら、我らが尊き交流の神の名に掛けて無事お届けすることを誓いましょう」


「ああ。私も知識の神に久々に祈ることにするよ」


 騎士と握手を交わし、エルフ麦の無事と、国土への拡散を願う。

 かくして、我が開拓地からエルフ麦は旅立っていった。


「そこでマスタング。麦の育成状況の話だが」


「ああ、ジーンさんが忘れるはず無かったな。いいでしょう。話しますよ」


 マスタングとともに、耕作を担当するチームの詰め所にやって来て腰を落ち着けた。

 気が付くと、ディーンを抱いたナオが隣にいる。


「ナオも来たのか」


「先輩がなんだかウキウキした顔をしてましたから! わたしも興味があるんです!」


「なるほど。これはエルフ麦の生育状況についての話なのだが、いいかね?」


「いいですよ! わたし、あの素朴なお味の麦はけっこう好きなんです」


 マスタングが眼を丸くし、そして少し笑った。


「参った。まさか準男爵とご夫人二人に聞かせることになるとは。ほら、周りの奴らが畏まっちゃってるでしょ。まあ、俺にとっては二人とも、出会った頃のジーンさんとナオちゃんのまま変わらないんですがね」


 彼は、部下に言って麦穂を二本持ってこさせた。

 それを我々の前に提示し、語り始める。


「まずこの二本が、豊かな土地で育ったものと、痩せた土地で育ったもの。違いは……まあジーンさんなら分かるでしょう」


「ああ。豊かな土地のものは、明らかに実りの量が少ないな。これはもしや神土を使って?」


「ええ、そうなります。この土地の土は普通の耕作には適さないですが、神土とあのミミズを使えば土壌改良ができます。で、神土の生産手段もワイルドエルフの手を借りて見つかってますね。で、普通の作物なら良く実る神土ですが……エルフ麦を育てるとなると、こうなっちまう」


 その麦穂は、生っている粒の数が少なく、一つ一つの実が丸く肥え太っていた。


「ぶっちゃけ、こっちは食味が上がってます。それでも小麦よりは下ですがね。次はこれ。よくご存知のエルフ麦。あの不味いやつです」


 残る一本は、確かに良く見たエルフ麦と変わらない。

 沢山の粒が生っているが、それらの一つ一つは小さく痩せている。


「見ての通り、後者の方が実の量が取れます。エルフ麦ってやつは、どうやら豊かな土地で育つとサボっちまうみたいで」


「なるほど。では、むしろこの麦は受け入れ先で、邪険に扱われた方が都合がいいということかね?」


「……といいますと」


「大事に育てられては、エルフ麦が救荒作物として持っている性質を殺してしまうということさ。だが、王の勅命で育てよと言われたものを邪険にはできまい。これは対策を練る必要があるだろうね」


「ははあ、なるほど……。じゃあ勅命だからって丁重に扱われちまったら困るわけだな……。エルフ麦が本来持っている良さがでなくなる。それじゃあ本末転倒だ」


「うむ。すぐに陛下に連絡をしよう。必ず荒地で育てること、と触れを出してもらわねばならない」


 私とマスタングの話が過熱する。

 ここに、ひょっこりと、古代魔法の継承者ガーシュインが顔を出した。


「おや、ジーン、戻っておったのか。依頼されていたものが完成しているぞ。魔力によって動く偽りの伝書鳩、オーニソプターだ」


「おお、ありがたい!」


 これは、私が新婚旅行に行く前にガーシュインに頼んでいたものである。

 彼と王都で対決した際、空飛ぶ高機能ゴーレムのようなものにガーシュインが乗っていた。

 打ち落とされるまでの長時間、彼はこれで飛行していたため、古代魔法には長時間飛行を行うコツのようなものが存在しているのではと睨んだのだ。


 今現在、ガーシュインが手にしているものを見て、私はその予想が正しかったことを確認した。

 それは、骨と透き通った羽で作られたスケルトンの鳩である。

 あちこちに構造を支える骨が突き出し、薄羽の翼長は鳩のそれを超える。


「速度はいかほどだね?」


「伝書鳩よりも早い。しかも休むことなく跳び続ける事ができるぞ。問題は、こいつは魔狼粉でしか動かん。ありゃあなんだ。異常に多くの魔力を効率よく取り出せる、まるで魔法の石……賢者の石だ」


「賢者のふん……」


 ナオがボソッと呟いて、ぷぷぷーっと吹き出した。


「ナオ、それ以上いけない」


「ご、ごめんなさい先輩。つい……」


 魔狼粉が必要と言う事は、我が開拓地以外には簡単には使用できまい。

 しかも、オーニソプターに充填できる魔狼粉で、王都への片道分がギリギリだという。

 ただし、それだけの燃費の悪さと高価さを必要とするだけあり、この偽りの伝書鳩の速度は凄まじい。


「二日で王都に達するぞ。小さくしたことと、重量を軽くできたこと。そして魔狼粉の魔力変換効率。我輩、まさか新しい魔道具を作れるなどとは夢にも思っていなかった。こいつは凄いぞジーン」


「ああ、素晴らしい! では早速、オーニソプターには役立ってもらおう。私がすぐに書状をしたためるから、これを陛下まで届けて欲しい」


「よし」


 ガーシュインはすぐに頷いた。

 あまりに話の展開が早いので、マスタングが眼を白黒させる。


「おいおいおい、今さっき話をしたばかりだってのに、それが明後日には陛下の耳に入るだって!?」


「そういうことだ。日々、我々は進歩しているのさ。さあ手紙を書くぞ! ナオ、紙とペンはあるかね?」


「ありまーす!」


 ナオがごそごそとカバンを探り、筆記用具を取り出した。

 では、書状をしたためるとしよう。

 書類チェックよりは、よほど楽しい仕事なのだ。

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[一言] 荒れ地で育つだけあって豊かな土地だと栄養過剰なのか
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