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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
最終幕 辺境賢者ジーン
155/171

149話 懐かしきビブリオス準男爵領

 およそ一月(ひとつき)ぶりの帰還である。

 懐かしき開拓地に、我々は戻ってきた。


「うーん! やっぱり森の空気はおいしいですねえ!」


「ナオ、まだ森が見えたばかりだぞ」


『ピャピャー!』


 ここは開拓地のやや外側。

 転移魔法で送り届けてもらった場所がそこなのだ。

 魔術師アーガスは、我々を開拓地の中に送れなかったことを謝った。


「すみません。どうも準男爵領近辺は魔力が入り乱れていまして。正確に魔法を発動するのが難しいんです」


「そうだったのか」


「はい。普通の魔法ならいいんですけど、転移魔法は繊細な魔法なんです。今日の準男爵領は魔力の乱れが強くてですね……」


「なるほど。考えてみれば、ワイルドエルフが住まい精霊力に満たされたスピーシ大森林周辺が、魔力的に安定している訳がないな」


「先輩、森から魔力を拝借して色々やってますもんね」


「うむ。魔力が乱れているとしたら、原因の一端は間違いなく私だな」


 はっはっは、と私とナオとで笑った。


「気にしなくていい、アーガス。いつも助かっている。どうだ、中でお茶でも飲んでいかないか?」


「ありがとうございます。この後、ロネス男爵から用事を頼まれてまして。向こうに戻ってもあと一回分魔法が使えるので、今日はこれで失礼します」


「お疲れ様。機会があれば是非遊びに来てくれ」


「はい!」


 アーガスと握手を交わし、別れた。

 さあ、開拓地に戻ろうではないか。





「ナ、ナオが日焼けしてるーっ!!」


 戻ってから一番に響き渡ったのは、ワイルドエルフの少女、シーアが驚く声だった。

 彼女は遠くがよく見える目で、真っ先にナオを発見した。

 すぐさま駆け寄ってきて、ナオをぺたぺた触る。


「ジーンよりちょっと白いのね? 日焼けしてるけど、よし、お肌はいつも通りひんやりしてて、もちもちしてる」


「あはは、くすぐったいですシーア」


 シーアにあちこち触られて、ナオがくすぐったがる。

 そうこうしていると、開拓地の人々が集まってきた。


「ナオが日焼けしてる」


「ほんとだ」


 カレラにサニーにアマーリア。

 みんなで寄ってたかってナオに触っている。


「あたしの肌よりは薄いんだね。兄貴、なんでナオが黒くなったの?」


「日焼けと同じ機能だとは思うが、一晩で肌色が変化したな。ホムンクルスが環境に対応する機能なのかも知れない」


「へえー。案外、あたしたちシャドウと近いのかもしれないねえ」


 アマーリアが頷きながら、ナオのシャツをめくってお腹を見たりしている。

 どうしてそこまで見る必要があるのか。


 みんなでナオを触っているので、子竜のディーンも真似をしたくなったらしい。

 ピャアピャア言いながら、ナオの足をぺたぺた触っている。

 この場に集った女性陣が、子竜の姿を見て思わず笑顔になった。


 この他、トーガと他の男たちもやって来て、我々を出迎えてくれる。


「ジーン、それでどうなのだ。子は男になるのか? 女になるのか?」


「なんのことだね」


 私がきょとんとすると、問を投げかけてきたトーガが唖然とした。


「おまっ、まさかお前、夫婦(つがい)になっても何もしていないのか!? それこそお前が愛する、大自然の摂理というやつであろうが!」


「ええーっ!? な、何もしていませんのーっ!?」


 トーガ同様、驚いて叫んだのはアスタキシアだ。

 彼女は凄い形相で詰め寄ってきて、私の腕をがっしりと掴んだ。


「準男爵!! 次の子を作るのは、貴族として重要な仕事なのですわよ! あなたが賢者であることを第一義としているのは存じ上げておりますわ! ですけれど! 開拓地はあなたの領土なのですから、守るためにもやらなければならないことが多いのですっ!! またわたくしみたいに、第二夫人、第三夫人候補が送り込まれてきますわよ!」


「それは困る」


 本当に困る。


「なら、ちゃんと意識してなさいな!」


「そうだぞジーン。お前は自分のことになると後回しになる傾向がある。人助けをしてしまうのがお前の性分なんだろう。だが、肝心のお前が幸福にならないでどうする。俺たちに与えた分だけ、お前も幸福を得ていくべきだ。そのための義務だと思え」


 トーガも、私の胸に指を突きつけながら睨んでくる。

 脅迫めいた祝福の言葉に感じる。


「おおー」


 ナオも感心して頷いている。

 私もナオも、二人に言われたことはさっぱり分かっていなかったからな……。

 よく考えると我々夫婦は、びっくりするくらいに当事者意識が無かったな。


「ではナオ、今後は私たちの子供を作る計画を立て、実行していかねばなるまいな」


「そうですね、先輩! だいじょうぶです! 知識だけは頭のなかにあります!」


「うむ。私も自然界における交尾の知識なら多く持っている」


 我々の会話を見て、みんなが天を仰いだ。




「まるこしあすー」


「まるこしあすー」


 開拓地の子供たちが駆けつけてきて、魔狼に抱きついた。

 オーガのバル・ポルとアンドロスコルピオの子だ。

 これにディーンが混じって、三人とマルコシアスで遊び始める。


 微笑ましい光景である。


「ジーンさん、畑の様子を見ていくかい?」


 元冒険者にして、今は開拓地の土木、畑作作業全般の管理官という地位になったマスタング。


「もちろんだ。実は気になっていたのだよ」


 彼のお誘いを受けて、私は畑へと向かった。

 一月前よりもずっと拡張された畑は、多くの魔族たちが働いている。

 住人たちは皆、自分の家を建てた後、こうして土木か畑作の仕事に従事することになる。


「おお、エルフ麦が実っているじゃないか」


「ああ。てんでばらばらに実るから、気がついた時にちょこちょこ収穫してる感じだな。あとはあの辺り、もうすぐ実りそうだ。こいつらは食べるんじゃなくて、他の領地に配るんだったっけ?」


「その通りだよ。陛下の許可ももらっている。エルフ麦をセントロー王国全土に広げ、栽培してもらうことになるのだ。この麦は成長も早く、病気にも強い。何よりも多様性が強く、背丈や実り方、葉の付き方に至るまで全く違う。自然のままに近い強い種だが、その中では驚くほど多くの実をつける植物だ。きっとどこに植えても育ってくれることだろう」


「そうだなあ。大した手入れはしてないのに、勝手にぐんぐん育つんだこいつらは。だが、食味は大して美味くないぞ? 例えこいつらを植えたとしても、他の土地の連中は食べるかどうか」


「食べなくてもいい。万一のために、エルフ麦が存在していることが重要なんだよ。畑の作物が病気にかかって枯れたとしても、あるいは気候の変動があって実りが得られないとしても、エルフ麦は必ず穂を実らせる」


 それこそが、陛下の狙いであったのではと私は考えているのだ。

 私を辺境に派遣し、現存の作物が持っていない強靭さのある種を発見、万一に備えて国中に広める。


 例えばシサイド王国。

 かの国は国内で畑作を、海では漁を行い、特に豊富な水産資源によって栄えている国だった。

 だが、人口が増えすぎ、その数を水産資源で補おうとすると漁獲量が枯渇する可能性が出てきていた。


 今現在、シサイド王国に養殖事業は必要ない。

 子供が多いだけの状態なら、現状の漁獲量でどうにか足りるからだ。

 だが、子供たちが成長するにつれて、必要な食料は爆発的に増大する。

 これを補うためには、より多くの魚を獲らねばならないのだが……限界があるのだ。


 シサイドが抱える不安は、人口。

 未来に起こりうる食糧危機に備えるため、養殖という事業を立ち上げることになった。


 そしてセントロー王国。

 今はまだ、この国に訪れるかも知れない、という程度の危機。

 食料の大部分を畑作に頼り、大量に実りをもたらす品種改良された作物のみを育てるこの国は、実は植物を侵す疫病に弱い。

 未来のために、エルフ麦のような強い作物……救荒作物を用意する必要があるのだ。


「順次収穫を行いながら、袋詰していこう。ロネス男爵にも話をしておかないとね。彼の協力を得られれば、エルフ麦の流通は容易になるだろう。さあ、仕事だ仕事だ。忙しくなるぞ!」


 やる気に満ち満ちる私なのであった。

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[一言] ああ、ついに最終章突入……
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