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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第六部 新婚旅行と外の国
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146話 稚魚の観察日誌……と神の山

 目の細かい網を生け簀の近くに設置し、そこに専用で誂えた板を入れる。

 その上に受精させた卵を並べ、日々の孵化を待つことになる。


 海底と違い、生け簀は水の流れが早い。 

 ということで、私のアイディアから、水流を妨げるように網のあちこちを目張りで塞ぐことにした。


「大体、六日から七日で孵りますんで」


「なるほど。書物には、十日から三日の間と記述されていたが……その中ほどの日程で稚魚が見られるわけだね。遅くても、早すぎてもいけない。シサイドの海は、どうやら稚魚が孵るために理想的な温度が保たれているようだ」


 日程を手乗り図書館に記録しておく。


「けっこう日にちが空きますねー」


 ナオが首を傾げた。


「うむ。その間、我々は図書館で調べ物をしたり、シサイドの土地をあちこち見せてもらうとしよう」


「はい! せっかくの新婚旅行でもありますしね!」


 かなり長丁場の新婚旅行になりそうではあるな。




 さて、長い空き時間を利用し、私とナオは図書館の本を片っ端から読んだ。

 我々が二日間ほど図書館に籠もっていると、さすがに見かねてか、第二王子のアレクシオスがやって来た。


「準男爵、せっくのシサイド滞在なのです。屋内にばかり籠もっているのは体に毒ですよ。我が国の学者は、図書館にはたまに行くくらいで、あとは散策などをして暮らしている者ばかりです」


「それはそれでフィールドワークの比重が高すぎるのでは?」


「そういう国なのです。だから、研究は実にゆったりと進みます。おかげで人口急増の問題に対応できず、準男爵をお招きすることになったわけですが」


「それはそれで構いませんよ。それでアレクシオス殿下。我々に用事があるのでは?」


「ええ。お二人とも、空を飛ぶことに興味はおありかな?」


「空……?」


「ありまあす!」


 ナオの一声で、我々が王子の誘いに乗ることが決定したのだった。




 少しの間、馬に揺られて運ばれていく。

 目的地はどうやら山の上のようだ。

 シサイド王国の王都がある島は、火山島である。


 長らく噴火していない、この山は、神の山と呼ばれていた。

 そこにはスロープ状になった登山路が設けられている。


 神の山は標高こそそれほどではないが、とにかく平たくて、広い。

 山裾はどこまでも広がり、恐らくこれは島の半分を占めているのではないかと思われる。


 もし、これが噴火するようなことがあれば大変だ。

 王都は発したマグマに飲まれてしまうかも知れない。


 私がこのような想像を話すと、アレクシオスは笑った。


「大丈夫ですよ。そのために、王都は海水を引き込めるように作られています。先人の知恵というやつです」


 流れてくるマグマと、海水を相殺させる仕組みが存在しているのだという。

 なるほど、よくできているものだ。

 後で調べさせてもらおう。


「先輩! 山の上に誰かいますよ!」


「それは登山路があるんだ。誰かいてもおかしくはないだろう」


「羽が生えてます! 翼人ですよ!」


「なんだって!?」


 私は馬車の窓にしがみついた。

 頭を出して翼人を見ようとすると、さすがにアレクシオスに止められた。


「危ないですよ準男爵! 馬車がすれ違うことがあったら、頭を持っていかれますよ!」


「おっと、失敬……!! 興奮のあまり我を忘れてしまいました」


「先輩は、割とよく我を忘れますもんね。最近は事務っぽいお仕事が多かったから、おちついてましたけど」


「うむ。だがシサイド王国には私の知的好奇心を刺激するものが多くあって、飽きないよ。若返った気分だ……!」


「先輩もそんな年じゃないじゃないですかー」


 ナオと談笑していると、ずっと静かにしていたディーンがむくっと起き上がった。

 今はナオの膝の上にいるのだが、それが私の膝に飛び乗ってくる。


『ピャーアー』


「なんだディーン、外が見たいのか」


『ピャア』


 私は彼を持ち上げて、馬車の外を見せた。

 吹き込んでくる風が、子竜にぶつかる。


『ピャッピャ!』


 ディーンが喜んで、短い手足をばたばたさせる。


「何と言うか……。まるで人間の赤子のようですね。これが地竜の子供というものですか」


「そうなんです! ディーンはほんとに赤ちゃんみたいなんですよね。わたしもお母さんになった気分です!」


 王子にナオが答える。

 子竜はやはりドラゴンだから、人間とは違う生き物である。

 それでも、私とナオの間で、まるで人間のように育てられたらどうなるのだろうか。


 地竜は、暴れる牙などの亜竜と違い、高い知性を持つ生き物である。

 その知能は人間にも勝るかも知れない。


 ディーンに知識を教え込めばどうなるだろう?

 彼はどこまで人に順応し、我々が蓄えてきた知識を吸収するだろうか。

 そうやって育ったドラゴンは、人のようになるのか。


 気になる……。


『ピャー!』


 満足したディーンが、私の手から飛び出した。

 そのまま座席を走って、対面にいるナオに跳び移る。

 すっかり運動能力も高くなった。


 ちなみに窓の外はマルコシアスが並走しており、万一ディーンが窓から落ちても、彼が拾ってくれるであろう。

 こちらとしても、ディーンを落っことすような事はしないよう注意しているが。




「さあ到着です」


 馬車が停まり、アレクシオスが告げると、扉が開かれた。

 そこは、神の山の頂上である。


 降り立った私は、感嘆の息を漏らした。

 平たい山と思っていたが、上ってしまえば印象は変わる。

 シサイド島の全てが見渡せるのだ。


「港、王都、そしてあの辺りが生け簀か……!」


 王都の外れからは農地になっており、それが海沿いまで続いている。

 塩害などにはどう対策しているのだろうか。

 気になる。


「先輩、後ろ、後ろ!」


 ナオが袖を引っ張ってきた。


「どうしたのかね……ぬおっ!!」


 振り返って私はまた驚く。

 火山である、神の山の頂上……ということは、噴火口があるのだ。

 私の後ろに広がっていたのは、小さな町ならまるごと一つ入ってしまう程の、すり鉢状の火口だった。


 今は、噴火はしない時期なのだろうか。


「さて、私がお二人をここにお連れしたのは、この風景を見せたかったからです。そしてもう一つ」


 王子が合図をすると、翼人たちがやって来た。

 人と鳥の特徴が混じった顔立ちをしている。

 髪の毛の一部は羽毛になっているようだ。


 彼らが持っていたのは、不思議なものだった。

 まるで、紐がついた座席のような……。


「……もしや」


 私の想像は、アレクシオスが伝えようとしていたことに合致していたらしい。


「ええ、その通りです。お二人には、シサイドの空を巡る旅をプレゼントしますよ」


 空を巡る……!?

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