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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第六部 新婚旅行と外の国
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139話 シサイド王国の夕べ

 歓待してくれるのはありがたいのだが、歓迎の宴の後の夕食の宴と連発されては堪らない。

 砂浜を楽しんできた我々を待っていたのは、シサイド王国の人々による大宴会だった。

 私もナオも、あまり大騒ぎするタイプではない。


 ということで、周囲が大いに盛り上がる中、主賓の我々は粛々と食事をして、当然のように酒類は口にせずに退出したのである。

 ちなみに、ディーンは宴の最中に熟睡してしまい、マルコシアスの上ですやすやと寝息を立てている。


「危うく、その場の空気にながされて飲んじゃうとこでした!」


「ナオは酒にとても弱いだろう。やめておいた方がいい。酒は思考を鈍らせるぞ。それ以前に、私としては元ホムンクルスである君がアルコールを摂取した時、どのような生体反応を示しているのかに大いに興味があったりするのだが、そこのところは実際どうなのだね?」


「うーん、ぼんやり覚えてる、試験管の中で何も分からなくてプカプカ浮いてる感じに近づく、みたいなですかねえ」


 我々は、そんな会話をしながら割り当てられたコテージへと向かう。


「なんて会話してますの……」


「はっはっは、実にビブリオス準男爵夫妻らしい。噂に違わぬ御仁だ!」


 私たち夫婦を送るのは、第一王子ヤクマとその妻マガレット。

 ヤクマ殿下は人懐こい性格のようで、私やナオに親しげに話しかけてくる。

 マガレット妃殿下は、本日のことですっかりナオと仲良くなったようである。


「ナオさん。絶対この人、常識のタガがかなり外れていると思いますけれど、辛いことがあったらいつでも言って下さいましね。遠いシサイド王国ですけれど、いつでもあなたを迎える用意はできていますわ!」


「あはは、ありがとうございますー。でもわたし、先輩大好きなんでだいじょうぶです!」


 さらりとリスペクトされた。

 やるようになったな、ナオ。


「ならばいいのですけれど……! ビブリオス準男爵! 研究もほどほどになさいませね! ナオさんを泣かせたら承知しませんわよ!!」


「前向きに善処しよう」


「何もしないっていうことと同じ意味じゃないですのーっ!!」


「わっはっはっはっは!」


 突っ込むマガレット妃と、ひたすら笑っているヤクマ殿下。

 彼らがこの国の次代を担う二人なのだ。

 シサイド王国の明るく、からりとした気候によく合っているように思う。


「準男爵。こちらが俺が用意したコテージだ。桟橋の先に小島を作ってな。その島全てがコテージになっている」


 なるほど、目の前にとんでもないものが見える。

 まだ落ちきらぬ日差しに照らされ、傾斜の浅い三角屋根が光って見える。

 椰子の繊維を()いた屋根である。


 柱や壁は、真新しい木材。

 窓が大きく開かれており、海風を受け入れられるようになっている。


 それは、大きなコテージだった。

 私とナオが宿泊するために作られたものだと言う。


「お二人を襲うような不届き者はいないとは思うが、夜を徹して周囲の海は、俺の手の者が見張っている。安心してシサイドの夜を共に過ごされるといい」


 ヤクマはそう言いながら、桟橋を先に歩いていく。

 コテージの入り口には扉が無く、大きなすだれが下がっていた。

 これを持ち上げて入るのだ。


 なるほど、すだれからはほどよく弱まった海風が流れ込んでくる。

 年中温暖なシサイド王国では、このような建築形式が合理的なのかも知れない。


「ほえー、興味深いです!」


 私を置いて、真っ先にコテージに飛び込んでいったのはナオだった。

 リュックを下ろし、計測用の器具を次々に取り出す。


「先輩! 巻き尺の端を持って下さい! 向こうの端からこっちの端まで測っていくんで!」


「心得た」


 夫婦の共同作業というやつである。

 まあ、いつも旅先でやっているようなことな気がするが。


 王子夫妻は我々の行動に、大笑いしたり呆れたりと、大忙しであった。

 やがて二人が去ると、私たちだけの時間になる。

 大きく開かれた窓からは、今にも水平線へ沈んでいく、真っ赤な太陽が見えていた。


「綺麗ですね……」


「ああ。船の上から見る落日とはまた違っていて、これも良いものだね」


「暗くなっちゃうと、寸法を測るのもちょっと大変になりますね」


「そうだな。では外に出て、サッと測ってしまうとしよう」


「ええ! 大急ぎですよ! 太陽さん、もう少し出ててくださいねー!」


 もうひと頑張りする我々なのだった。





 コテージには、様々な魔法による仕掛けが施されていた。

 親切な説明書などが全く無いあたりは、大らかなシサイド王国らしい。

 仕掛けを作るだけ作って満足してしまった可能性がある。


 まず一つは、魔法の明かりである。

 これはナオが発見した。

 発見しなかったら、我々はランタンの明かりで夜を過ごすところだった。


「えいっ」


 ナオが手を叩くと、天井から下がった魔法の照明が輝き出した。

 真下にいる者が何らかの動作をすることで、その魔力を受けて動き出すようだ。

 これは、私やナオのような魔法の素養がある者が宿泊しないと、使用できないものなのでは?


 そういう意味では、確かに我々専用に作られたコテージなのだ。


「先輩、お風呂ありますよ! これも魔法装置を使ってるみたいです! 贅沢ですねえ」


「ああ。これだけで我が開拓地の今までの予算を超えるだろうな。まあ、我々はかなり自給自足だったので、驚きの低予算開拓をやったわけだが」


「ですねー。今はいっぱい人が増えましたけど、最初はわたしと先輩のふたりきりでしたもんね」


「ああ。あの頃はまさか、自分が外国の産業指導として、国賓として滞在することになるとは思ってもいなかった」


「それと……」


 ナオが思わせぶりに、私を見上げる。


「ああ。君とこういう関係になるとも、予想できなかったよ」


「ですよね! じゃあ、わたし、お風呂入ってきます! うわー、海の水を真水にして、それをお湯にするの!? すごーい! 贅沢に魔力を使ってますよこれー!」


 浴室は、一応壁で区切られてはいる。

 だが、浴室と寝室の間にはなぜか開閉できる大きな窓が作られており、その気になれば浴室と直結できる設計だ。

 何の意図が……?


 すぐに、ナオの鼻歌と、水音が聞こえだした。

 お湯を降らせる仕掛けがあるらしく、浴室からは雨音のようなものも聞こえてきている。


『ピョピョ……』


 おっと、マルコシアスの背中にいるディーンが、半分目を覚ましたようだ。

 私は彼を抱き上げると、ベッドの上に安置した。


「マルコシアスの背中は気持ちいいかも知れないが、長時間眠るには不安定だろうからな」


『我の背中は寝台ではない』


 魔狼からの抗議があった。

 その割には、ディーンには好きにさせるマルコシアスなのである。

 彼にとってナオが子狼みたいな扱いだから、その子供のようなディーンは孫狼なのかも知れない。


 マルコシアスは悪魔なのだが、ところどころ、狼のような習性を持っているな。

 これも興味深い。

 今度彼に質問をしてみよう。


『新しい質問を考えついたな。では明日するがいい』


 ちょっと楽しみそうに、マルコシアスは告げるのだった。

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