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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第六部 新婚旅行と外の国
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136話 翼とシャツと青い空

 抜けるように青い空である。

 セントロー王国では、これほど青々とした空を見ることはそうない。


「シサイドの地は、晴れているか荒れているかのどちらかなんですよ」


 我々に説明をしてくれるのは、再びお目付け役に戻ったオーラス将軍である。

 船上とは違い、今は前が開いたラフなシャツを着込んでいる。

 柄は、シサイド王国に多く生えている椰子という樹を模したもので、大変派手だ。


「これですか。シサイドシャツと言いましてね、通気性を良くする用に作られてるんですよ。最低限、熱が体から逃げすぎないようにだけ羽織るんです。ほら、温暖な気候でしょう」


「なるほど、確かにこの探検服では暑いな」


「蒸れますもんね」


 ナオも同意した。

 さて、郷に入っては郷に従え。

 これは私の主義である。


 シサイド王国の気候にあった服があるというなら、それを身につけるべきであろう。


「なお、私たちもこのシサイドシャツを買おう」


「いいですね!」


『ピャー!』


「……ディーン用はあるかな……?」


「ペット用があるんで」


 なんと準備のいい。

 我々一行は、オーラスが紹介する店に入り、早速シサイドシャツを購入することにした。

 私は青の柄。

 ナオは黄色の柄。

 ディーンは赤い柄で、オーラスとお揃いである。


「まさか、翼を出せるシサイドシャツがあったとは……」


「うちの国、南の火山地帯から翼人が観光に来たりするんですよ。彼ら用ですな、これは」


「翼人……? ま、まさかそんな人種が実在しているのかね? 架空の存在だったのでは……!?」


 私は慌てて手乗り図書館を起動する。

 翼人の記述がそこにはあった。

 あくまで、セントロー王国で得られる知見に基づいた情報しかない。


 故に、翼人……背中に翼の生えた人間は、伝承の一部でしか存在していないのだ。

 それがこちらでは実際にいるということなのか。

 世界は広い……!


 私は本当に、世界の一部しか知らないのだ。


「翼人は実在しますよ。部下の嫁さんが翼人ですし。ああ、翼人の男は腕力がなくて、足が強くてですな。船乗りとしてもうってつけなんですわ。彼ら側から移民も来てますが、国王陛下の方針で軍務にはつけないことになっとります」


「なるほど……」


「先輩、今から翼人探しをする気まんまんですね! あと、わたしのシャツもみてください! にあってます?」


 ナオが袖を引っ張ってくるので、ハッと我に返った。

 そこには、椰子の木と花柄の鮮やかなシサイドシャツ姿のナオ。

 女性用は、男性用と違って胸元が大きく開いたりはしていないのだな。


 ゆったりした作りなので、ナオでも着られるようだ。


「いいな。南国らしい色合いで、ナオに似合ってるじゃないか」


「やったー! 先輩も青が渋くていいかんじですよ!」


「うむ、ありがとう」


『ピョ』


「ディーンがシャツを着ると、また違った愛らしさが出てくるな……」


 お互いのシャツ姿をリスペクトする。

 マルコシアスは全く興味が無いらしく、店の外で寝そべっていた。

 シサイドの子供たちがこれに駆け寄ってきて、毛並みをもふもふといじっている。


 怖いものを知らんな。


「準男爵……。不敬を承知で思わず口に出すのですがね……。奥方すごいですね」


「胸元が大きいからな。普通の衣装では胴回りが太く見えてしまうのが悩みの種らしい。シサイドシャツも、彼女向けにあつらえてはもらえるかな?」


「ああ、そりゃあもちろん! おーい、店主!」


 ということで、ナオは旅行の終わりまでに、オーダーメイドのシサイドシャツをあつらえてもらえることになった。

 セントロー王国でも夏は暑い。

 そんな時期に身につければ良かろう。


 ナオがディーンを連れ、店の奥に行ってしまった。

 私は彼女を待つ間、店の中をぶらつくことにする。

 様々な服があるが、どれも通気性が良さそうである。


 流石は常夏の国、シサイド。

 セントロー王国がもうじき冬になるから、この国も涼しくなってくる頃合いなのだろうが……。

 外を見ると、誰もが半袖や、胸元が大きく開いたシャツ姿、ワンピース姿で歩き回っている。


 あそこにいるご婦人など、背中むき出しのドレスではないか。

 その背中から、堂々たる真っ白な翼が突き出して……。


「な……なんだとーっ!!」


 私は反射的に店を飛び出していた。


「あっ! 準男爵どこへ!?」


 慌てるオーラスを後に、私はご婦人の前へと飛び出した。


「きゃっ!」


「失礼。お聞きしたいことがあるのだが」


「は、はあ」


 彼女は、髪の色も雪のように白い。

 翼を生やした女性は、真っ白なまつげを、パチパチと瞬かせた。


「あなたは翼人で間違いはないだろうか」


「あ、はい。私は翼人です」


「素晴らしい……。ありがとう!」


 私は彼女に礼を言った。


「なんだか分からないけど、お役に立てたのなら嬉しいわ」


 そう言って彼女は去っていった。

 私は彼女の後ろ姿を見つめる。


 肩甲骨の辺りから翼が生えている……。

 つまり、翼人の骨格は六脚型の生物であるということだ。

 翼がある人間ということは、鳥の形質を持っているように思われるが、実際は全く異なる生物なのではないか……?


 翼と四脚を持つ生き物。

 思い浮かぶ者は、ディーン。

 つまり、地竜に連なる本物のドラゴンだ。


 翼人とは、ドラゴンの形質を持った人種であると考えられるのではあるまいか。

 いや、待てジーン。

 先程オーラスは、部下の妻が翼人であると言っていた。


 これは即ち、翼人は人との間に子を成せると考えられるのでは?


「そこのところはどうなのかね、オーラス」


 すぐ後ろまで追ってきていたオーラスに、私は問い掛けた。


「な、何がですか準男爵。いきなり飛び出さないで下さいよ。あなた、最高ランクの賓客なんですから!」


「これはすまない。つい、己の衝動を抑えきれなくなってね。ところで私の質問は、翼人は人との間に子を作ることができるのか、という話なのだが」


「ええ、できますよ」


 オーラスがきょとんとして言った。

 だが、告げられた事実に、私は衝撃を受ける。

 これほど形質が違うというのに子を成せるとは……!!


 生命の神秘。

 そう言えば、マーメイドも頭足類から変化した人種であるにも関わらず、人との間に子を作ることができるのだったな。

 不思議である。


 今度、マーメイドにもその辺りを聞きに行かねばなるまい。


「せんぱーい! せんぱーい!」


『ピャアー』


 おっと、ナオのサイズ計測が終わったようだ。

 私を呼ぶ声がする。

 慌てて店に戻ることにする。


「もう、先輩どこ行ってたんですかー! いなくなっててびっくりしました! あ、わたし、水着っていうののサイズもはかってもらいました。どんなのができるか楽しみですねえ」


「ほう、大サービスじゃないか。ナオが着るのが楽しみだな。そして私は、思わず翼人を追いかけてしまってね……」


「えー! 早速見かけたんですか! それじゃあ先輩が飛び出しちゃうのもしかたないですねえ」


「うむ。理解が早くて助かる」


「でも、今度はちゃんとわたしも呼んでくださいね」


「そうしよう」


 我々のやり取りを聴きながら、オーラスは笑い出した。


「いや失敬、似た者夫婦ですなあ……。人は(しゅ)じゃなくて、性格なんだとお二人を見てるとよく分かります」


 ああ、それは的を射た言葉であろう。

 翼人もマーメイドも、形質の違いを越えて人と結ばれるのは、案外そういう理由があるからなのかも知れないな。

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