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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第六部 新婚旅行と外の国
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135話 南の国の苦しい事情

 歓迎の宴が開かれた。

 シサイド王国の王、アレクセイデスと、第二王子アレクシオスも加わり、宴は賑やかに。

 ゆっくりと時間が流れるシサイド王国で、宴の準備もまたゆっくりだったため、時刻は夕方を越えて日暮れを迎えていた。


「やあ、ビブリオス準男爵! お久しぶりです」


「アレクシオス殿下もお変わりなく」


 ナオとの結婚式に参列してくれた、シサイド王国からの来賓が彼、アレクシオス王子だった。

 大変お行儀が良い男性で、半裸で踊るむきむきの兄とは対照的である。


「実は、私たちの母が東国の生まれでして。我が国にも、東国の血を引く者と王国の血を引く者がそれぞれおります。だから名前の傾向が二通りあるのですよ」


「なるほど。それぞれ、派閥を作ったりはしないのかね?」


「ありませんね。降り注ぐ日差しと、冬の無い暖かな気候。果実に魚、実りはどこにでもあります。我々の祖先は、長い間を労働に従事することなく、のんきに暮らしていたと言われています」


 アレクシオスの説明は大変分かりやすい。

 労働をしなくても良い環境というのが新鮮で、私は夢中でこの話を手乗り図書館へメモする。


「では、そんなあなた方が労働をすることになったのはどういうことですかな?」


「ははは、お恥ずかしいのですが、私を含め、未だにこの国の人間は労働が大嫌いです。ですから、せいぜい楽しくやろう、ということになりまして。一日四時間程度しか働いていません。楽をしても量が取れて、手入れも少なくて済む品種を使ったのですよ。これが実は、東国から来た人々にもたらされまして」


「ああ、なるほど」


「我々も人口が増えてきていて、うっすらと将来が不安だったようです。そこへ、楽に育つ作物が得られて、作物もまた、シサイド王国の気候が合っていたのでしょうな。すぐに定着しました。それがこちらにあるトモロックです」


 トモロックと言うそれは、扇形をした不思議な食べ物である。

 口にすると、張りのある皮の中にもっちりとした実が詰まっている。

 味わいは、なるほど、穀物のそれだ。

 これがシサイド王国の主食というわけか。


「美味しいですねえ、先輩」


 ナオがニコニコしながら、トモロックをもぐもぐ食べている。

 なるほど、これはトモロックを茹でただけのものなのだな。

 そこに海水から作った塩を振り、食す。


「他に、このように潰してスープにしたり、乾燥させたものを粉にし、水でまとめて皮のようにしまして」


「ほう……トモロックの生地で肉や野菜、果実を包むわけですな。これは、食事にもデザートにもなりそうだ」


「ええ、その通りです! 素晴らしい作物ですよ、トモロックは! ですが、こればかり食べていても病になりまして」


「栄養分が不足するのでしょう。穀物の栄養、野菜の栄養、果実の栄養があるが、やはり肉の栄養がなければいけない。見る限りでは、並べられているのは魚と鳥のようですね」


「はい。我が島で取れる肉はその二種です。鳥は放し飼いにしている、空を飛ばぬコケッコウを。魚は御存知の通り、漁をしております。ですが……」


「ああ、伺っています」


 私は記憶を呼び起こす。

 シサイド王国は、稀に見る大漁を迎え、その時に人口爆発を起こした。

 今まで暮らしていくだけなら充分な量の食事だったのが、もっと多くの人間を養えるほど魚が取れるようになったのだ。

 魚の肉を多く食べるようになり、栄養状態が変わったこともあるかも知れない。


 だが、大漁は長くは続かなかった。

 むしろ、取り過ぎによって近海の漁獲量が減少し、船は漁のため、遠方まで行く必要が出てきた。

 呑気であった王国に、将来への不安がやって来たわけだ。


「そこを、バウスフィールドなる者につけこまれてのう」


 アレクセイデス国王が、しょんぼりした顔で言った。

 堂々たる体躯の、初老の男性である。

 温暖なこの国にあっては、王も常に薄着をしている。


「まさか、余の代で他国を攻めてしまうとは……。いや、戦の流儀が分からなかったゆえ、大事にならなかったのは不幸中の幸いだったが……。民に無駄な流血を強いてしまった。次は気をつける」


 人の良さそうなゆったりした御仁だ。

 彼が、冷静な判断もできないほど追い詰められた。

 それほど、シサイド王国を襲った将来不安は大きかったのだろう。


 王国を救う一手としての、魚の養殖事業。

 そのために呼ばれた私には、この国からの大きな期待が掛かっている。

 やりがいのある仕事である。


 そのために、私はリュックの中に必要と思われる道具を詰め込んできている。

 手乗り図書館、私の頭の中の知識。

 外付け知識のマルコシアス。

 準備は万端である。


「ビブリオス準男爵……! 頼むぞ。余は、そなたに期待をしておる……!! あと、うちの観光も楽しんでいってね」


「ありがたきお言葉です。仕事も観光もやらねば、この旅行の目的は果たせませんからね。全力でやらせていただきます」


 私は、この優しき王に応じた。

 ツナダイン三世陛下とは、また違った王である。

 武でも知でもなく、人徳で人を治める人物だ。


「では、宴の最中ではあるが!!」


 会場の只中に、第一王子ヤクマが現れる。

 無論、半裸で鍛え抜かれた肉体を惜しげもなく晒している。


「兄上からの歓迎ですよ。これはちょっとした見ものですよ」


 アレクシオスが笑った。

 ヤクマは両手を、左右へと差し出す。

 すると、彼に向かって放り投げられるものがある。


 火の付いた松明だ。

 これを、ヤクマは両の手でそれぞれキャッチした。

 周囲から歓声が上がる。


 そろそろ暗くなってきた会場で、篝火が明々と燃え上がっている。

 炎の輝きに照らされた会場だが、それでもやはり暗さはある。


 だからこそ、松明二本を手にした彼の姿は大変に映えた。


「ビブリオス準男爵の到着を歓迎する! これは王国に伝わる火の踊り!! どうか心ゆくまでご覧あれ!」


 ヤクマは宣言すると、なんと松明をくるくる振り回しながら踊り始めた。

 周囲から、打楽器が打ち鳴らされる音が響き渡る。


「ひえー、危なくないんですかあれ。うわー! 松明の火が回って、輪っかみたいになってます!」


 食いしん坊のナオが食べるのも忘れ、この踊りに見入る。 

 ディーンもぽかーんとしているようだ。


「大したものだ。鍛え抜かれた自らの肉体と、炎の輝き。それを、迫る夜闇を打ち払うように見せつける踊りだ。なるほど、これは印象に残る」


 私は大変感心した。

 その後、松明を持った男たちがなだれ込んできて、炎の踊りは大人数で行われた。

 これは凄い。


 多分、私が一番楽しんだ。


「準男爵、興味がおありですか。兄上、大喜びで教えてくれると思いますが」


「お誘いはありがたいのですが、見るだけにしておきましょう……! 私が踊ったら、周囲に火を付けてしまいそうだ」


 習得のお誘いは丁重にお断りしておいた。

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