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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第六部 新婚旅行と外の国
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134話 シサイド王国への到着

 船上での暮らしは、刺激に満ちている。

 陸にいては会えない海鳥が、日々マストや船べりに止まる。

 船をちょっとした休憩場所に使っているのだろうか?


「こいつらが群がっている場所には、魚がいるんですよ。なんで、そこで釣りをすると夕飯が豪華になるってわけです」


「なるほど、鳥の習性を利用して魚を得る訳か。理に適っている……!」


 私は感心して、手乗り図書館にメモをした。

 私の手のひらに浮かび上がる図書館に、ディーンが目を丸くする。


『ピョピョー』


 私の膝からよじ登ってきて、手や尻尾を伸ばして手乗り図書館に触ろうとしてきた。


「ディーン、これは私しか触れないぞ。実体がないからな」


『ピャー』


 今度は頭を突っ込んできた。

 子竜はわんぱくざかりである。


 ディーンをあやしつつ、海鳥を観察することにする。

 手乗り図書館をいじられていても、私は図書館にメモなどをすることができるのだ。

 ほうほう、造形はこう……。

 私がよく知る鳥とは若干、構造が違う。

 書物で読んで知ってはいたが、実際に目の前で見てみるとその差がよく分かるものだ。


 少し向こうでは、船底からナオが上がってきたところだった。

 後ろに保護者のマルコシアスが続いている。

 船員たちは、まだマルコシアスがちょっと怖いようだが、基本的に人間のできた魔狼であることが分かってきたようである。

 マルコシアスと出会っても、甲高い悲鳴を上げなくなった。


「せんぱーい! 竜骨すごかったです!」


 ナオが興奮して鼻息を荒くしている。


「ほう、私にも見せてくれるかな?」


「もちろんです! えっとですね、これがですね」


 駆け寄りざま、早口で説明をしてくれるナオ。

 彼女を見て、オーラスが不思議そうな顔をした。


「準男爵。どうして奥方様は、準男爵を先輩と呼ぶんですかね」


「ああ、それはだね、私が賢者として彼女の先輩だからだ」


「ですー」


 我々の返答に、オーラスの顔がさらに訝しげになった。


「分からん……」


「先輩は先輩では……?」


 ナオも訝しそうな顔をする。

 船員たちも、このやり取りを聞いて首を傾げた。


 おかしい。

 一般的にはそうではないのか?

 だが、我々は我々である。

 このまま行こう。


 そんな研究ぐらしが、一週間ほど続いただろうか。

 そろそろ、体を洗える真水が恋しくなってきた頃合いだ。

 シサイド王国が見えてきた。


 ぐんと、帆船が加速する。

 まるで水流が変わったかのようだ。

 恐らくは、マーメイドたちが手を貸してくれているのだろう。


 船はどんどん突き進む。この速度は、既に船のそれではない。


「ひええ、先輩ー!」


 ディーンを抱きしめたナオが、私の腕にひっついてくる。


「うむ。私から離れないように」


 私もナオを固定した。

 そして自らを、マルコシアスに固定する。


「大丈夫かね、マルコシアス」


『その質問に答えよう。大丈夫だ』


 果たして、結果はマルコシアスの返答通りとなった。

 船は桟橋が見えてくると同時に、急激に減速した。

 帆が畳まれ、船はゆったりと、正確な動きで桟橋に接舷する。


「ふう、相変わらず、マーメイドたちの操船はとんでもないですな。ですが、これほど安全なものもない」


 オーラスが額の汗を拭った。

 何度もこれを経験しているようだが、やはり慣れないものらしい。

 彼は軽く息を整えてから、我々に手を差し出した。


「では準男爵夫妻。こちらへどうぞ。ここからが、シサイド王国でございます」


 芝居がかった仕草だ。

 だが、悪い気はしない。

 私は彼の手を取って立ち上がった。


 オーラスが微妙な顔をする。


「準男爵が掴まるとは……」


「おや、もしやナオの手を取るのを期待していたかね」


「はあ、まあ……。こういうのはそういうお約束かなと」


「なるほど。だが私に掴まってナオも立ったので問題ないだろう」


 ナオは私にくっついていたので、私が立ち上がると自然と立つ体勢になるのだ。


「まあいいじゃないか。では、シサイド王国に降り立つとしよう」


「ですね! 行きましょう、先輩!」


 我々は、船の下り口に立つ。

 視界いっぱいに広がる、海と砂浜。

 私たちを歓迎する、シサイド王国の人々……はいなかった。


「おや?」


「あ、準男爵、ちょっとまってて下さい。今ようやく、船が到着したって国の連中が気付いたみたいなんで。あと一時間くらいでみんな集まりますから」


「ふむ。割とゆっくりした気風の国なのかな?」


「ええ。シサイド時間とも呼ばれてまして、大体予定時間の一時間から二時間後くらいに動き出しますな」


 なんたるのんびりとした気風であろうか。

 嫌いではない。


 準備が整うという時間まで、私とナオは砂浜に降りて遊んだ。 

 ディーンが砂を掘り返す。

 出てくるカニを私が捕らえる。

 そして研究だ。


「きゃー、ディーン、水をかけちゃだめー」


『ピャーピャー!』


 しばらくこうして過ごしていると、船の辺りが騒がしくなってきた。

 歓迎の準備が整ったようだ。

 オーラスが呼びに来たので、私とナオで船に戻った。


 歓迎に集まった人々の前で、船に乗り込んでいくという不思議な状況になる。

 そして、歓迎する一団の前にいた髭の男が声を張り上げた。


「セントロー王国使節、ジーン・ビブリオス準男爵、並びにナオ夫人、ご到着ー!!」


 わーっと盛り上がる、歓迎の一団。

 陽気な打楽器のリズムと、角笛みたいなものが吹き鳴らされ、肌もあらわな小麦色の肌の女性たちが踊る。

 次には、上半身裸の褐色の男性たちが現れ、筋肉を誇示するようにして踊りだした。


「これはどのタイミングで登場すればいいのかね?」


「割と適当でいいですよ」


 オーラスからの指示も適当だ。

 シサイド王国は、それだけ大らかな国だということだろう。

 私とナオは、踊りと音楽の最中に、トコトコと現れた。


 拍手が巻き起こる。

 踊っていた筋肉男性の一人が、スッと進み出てきた。

 白い歯を見せながら微笑み、握手のために手を差し出す。


「シサイド王国の第一王子、ヤクマです」


「なんと。まさか次の王たる方が半裸で踊っているとは思いませんでした。素晴らしい歓迎をありがとうございます。ジーン・ビブリオスです」


 我々は固く握手を交わした。


「準男爵、さすがにそこを全部言うのはシツレイでは」


 後ろでオーラスがハラハラしていたようだ。

 だが、ヤクマ王子は気に入ったようだ。


「我が国を救う手立てをご教授下さったと聞いています。今回の滞在では、シサイド王国の美しい自然と、素晴らしい文化を楽しんでいただきたい。その上で、養殖という新たな産業を確立するため、ご教授を願いたい」


「尽力しましょう」


 私が答えると、ヤクマ王子は満面の笑顔になった。

 白い歯が目立つ。

 そして、我らは手を握りあったまま、国の人々に向き直り、大きく腕を差し上げた。

 湧き上がる大歓声。


 楽器が賑やかに鳴らされ、人々が踊りだす。

 そうか、こういう国なのか。


「楽しいところですねえ、先輩! わたしもおどっちゃおう」


 ナオも不思議な踊りを始めた。

 さあ、これから、旅行に養殖の指導にと、忙しくなるのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『ナオは不思議なおどりをおどった。』 『あけちは評価ポイントを吸い取られた。』
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