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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第五部 戦争来たりて

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126話 ナオがドレスに着替えたら2

 二ヶ月ほどが経過した。

 式場の準備も順調である。

 私も、書類仕事の要領をかなり把握しており、午前中のうちに全力で仕事を終え、午後からは研究に全ての時間を充てられるようになってきていた。

 これはこれで、女性たちからの受けが悪い。


「なんでナオと一緒にいないのジーンさん!」


「兄貴は人の心が分からないからなあ」


「ジーン、人間の結婚って、もっと一緒にいたりするものだと思ったんだけど」


 わけが分からない。

 私はいつも通りだぞ。


「諸君は私に一体どうしろと言うのかね」


「ナオと一緒にいてあげたらって言ってるの!」


 ということで。

 私は研究道具一式をザックに詰め、ナオのところへやってきた。


「あれ、先輩、研究旅行に行くんですか? わたしも行きます!」


 ノータイムでついてくるところがナオである。


「いや、研究室を追い出されてしまったのだ。みんなが、私と君は一緒にいるべきだと言ってね」


 きょとんとするナオ。


「どうしてでしょう? わたし、いつも先輩と一緒にいると思うんですけど」


「うむ。我々は互いに独自に動くが、ある一定の範囲内には留まっているな」


 私とナオ、二人並んで考え込む。 

 解せぬ。

 なぜか遠目でこちらを見ている女子たちが、あちゃーという顔をしているが、あれも解せぬ。


 だが、いつまでもこうしている訳には行くまい。

 ナオは今、建設現場の前で、メモを取りながらディーンを抱っこしている。

 子竜はナオの胸元に頭を預けて、すやすやである。

 この隙に、彼女は自分の研究を進めているというわけだ。


「師匠の設計、凄いんですよー。作りながら、問題点が出てきたらその都度直してるんです!」


「設計段階では分からないのか」


「えっとですね。一旦組み上げたのを見てから、外側、内側からの強度をチェックしてるみたいです。それで想定以下の強度だと、そこをちょっと直すんですよ」


「トラボー殿らしい」


 私は感心した。

 さて、では私も仕事をするとしよう。

 ザックから、植物が植えられた鉢を幾つか取り出す。

 これらはスピーシ大森林で採取された食べられる植物群。

 性質を調べ、農作物として使えないかどうかをチェックするのだ。


「本来ならば、陽の光がない場所でやるのがいいのだが」


「ゴーレム呼んで日陰を作りますか?」


「それだ。頼む」


「はーい」


 ナオの好意に甘えることにした。

 彼女はポケットから、木製の人形を取り出す。


「ゴーレム、汝に生命を与える。日陰になって」


 木の人形は地面に投げ出されると、あっという間に大きくなった。

 そして両手を広げ、私の前に日陰を作り出す。

 ありがたい。

 陽の光を受けると、植物は活性化してしまう。

 今はまだ、そうなった植物を研究する段階ではないからな。


 二人並んでもくもくと作業を始める。

 特に会話は必要ない。

 我々は、黙っていても間が持つのである。

 そもそも、話題がなければ続かないような相手と、私はここまで親しくはならない。

 私にとってナオは、空気のような存在である。

 いても気にならないが、いなければそもそも成り立たない。

 いつの間にか、彼女の存在は私の中で大きくなっていたようだ。


「……と、いかんいかん。余計なことを考えては」


「先輩? やっぱり、午前中仕事して、午後はずっと研究でお疲れなんじゃないですか?」


「うーむ。体力だけはあるつもりなのだが」


 なんとはなしに、内心を彼女に気取られぬよう、話を合わせる。

 だが、ナオの瞳はいたずらっぽい輝きを帯びている。


「ああ、でも、先輩にとって研究は息をするみたいなものですもんね。空気みたいな」


 ちょうどナオに対して思っていたことを言い当てられたようで、どきりとする。

 彼女は、鋭いのか、それとも天然なのか。


 そうこうしていると、先日建築した仕立て小屋からドンジャラスが飛び出してきた。


「完成よぉぉぉぉぉぉ!! 完成したわぁぁぁぁぁ!」


 飛び跳ねて絶叫するドンジャラス。

 これには、近くで土木作業をしていたマスタングも気を引かれたらしい。


「何が完成したんだ、ドンジャラス」


 良い質問だ。

 それは、職人や賢者が何かを達成した時、一番初めに聞いてほしいことなのだ。

 案の定、ドンジャラスは感極まってマスタングに抱きついた。


「うおーっ!?」


「ドレスが完成したのよーっ!! 新婦の体形にぴったり合わせた、フルオーダーメイドのスピーシスパイダーの糸製のドレスが!!」


「へえ……! それって、まだ誰も服として織ったことが無い素材なんだろ? 凄いな!」


 ここで称賛を投げかけるとは……。

 マスタング、伊達に冒険者パーティのリーダーをやっていた男ではない。

 気配りというものがよく分かっている。


「ドンジャラスさん、嬉しそうですねえ」


 人が喜んでいると自分も嬉しいというナオは、ニコニコしている。


「うむ。成果を上げた人間が認められる。当たり前のようだが、案外難しいことなのだ。ドンジャラスが何かを成し遂げたことに、我々も祝福を贈ろうではないか」


 私も彼女に応じた。 

 二人でドンジャラスとマスタングに近づき、


「おめでとう」


「おめでとうございます」


 と拍手をしていたら、向こうから物凄い勢いで、シーアとアマーリアが走ってきた。


「ちっがーう!!」


「そうじゃないだろ兄貴ーっ!!」


「何が違うのだね?」


 心底分からない。


「あのね、ジーン。ドンジャラスが完成したって言ってたのはドレス。ここまでは分かるでしょ?」


「うむ、それは当然だよ。そしてそのドレスがどうしたのかね?」


「これから、この開拓地でドレスを着ることがあるのは誰?」


「ふむ……?」


 私は少し考えてから、ナオを見た。

 彼女が、微笑みながら首を傾げ、見上げてくる。


「おお、ナオだ」


「はい、ナオです」


「いや、ナオなんだけど、ナオはそういう反応するところじゃないでしょ」


「兄貴、ナオのドレスが完成したって言うんだから、ここはそれを喜んで、見るところじゃないか?」


「そうか、そういうところなのか!」


 私は気付きを得て、ポンと手を叩く。


「準男爵! ドレス、完成したわよ! すんばらしい出来だわ……!!」


 ドンジャラスは鼻息も荒く、私に迫ってくる。

 抱きついてきそうな勢いだ。

 ふむ、ここは領主である私も、懐の広さを見せねばなるまい。


「おめでとう、ドンジャラス。来たまえ!」


 私が両手を広げると、この優秀なる職人は強烈なハグをしてきたのだった。




 ということで、ナオの着替えを待つ。

 小屋の外で、周囲に鉢植えを並べながら待っているのだ。

 私の膝の上には、なぜか大人しいディーン。


「ピョヨー」


 すっかり目を覚ました子竜が、じっと小屋を見つめている。


「お前は男は好かないのだと思っていたが。もしや、巫女として認めるのが女性であるというだけで、敵意がない相手にはそれなりに心を開くのかね」


「ピョ、ピョ」


 子竜はまだ赤ちゃんゆえ、人語を話せない。

 だが、生まれてから二ヶ月が経過し、我々の言葉を理解する程度の知能は有してきているようだ。

 彼、あるいは彼女は、私を見上げてピヨピヨ言う。

 うーむ。

 子竜の言葉に何か法則性があれば……。


 ディーンとそのようなやり取りをしていたので、待機時間は全く苦痛ではなかった。

 そもそも、私は待つという行為が得意なのである。

 研究とは人事をつくし、結果が出るのをひたすら待つ行為でもあるのだからな。

 ということで、いよいよ着替えが終わったらしい。


「お待たせしたわね、花嫁の登場よ!!」


 ドンジャラスが小屋の扉を開けて、現れた。


「入ってもいいのかね?」


「どうぞ、準男爵様!」


 私は小屋の扉をくぐった。

 その中は、今は魔法の明かりが消され、薄暗い。

 高いところにある窓から差し込む光だけが頼りだ。

 そして、光が照らし出す場所に彼女はいた。


 艷やかに輝く、純白のドレス。

 大きく盛り上がる胸元を半ばまで覆い、それでいて安定した形状。

 ウエストできゅっと細くなりながら、そこから大華のようにふんわりと大きく広がっていくスカート。

 むき出しの肩から少し先には、ドレスと同じ素材の長手袋があった。

 そのどれにも、我が準男爵領の紋章が、やや異なる白い色合いで縫い込まれている。


「紋章は色付きが良かったかしら?」


「いや、これでいい。なるほど……」


 私は歩み出る。

 光に照らされ、ピンク色の髪を結い上げた彼女は、こちらを見て首を傾げた。


「先輩……なかなか動きづらいです!」


「ドレスとはそういうものだ。だが、よく似合っている。ふむ……端的に、この状況を表す言葉と言うと……」


 私は少し考えた。

 薄化粧を施されたナオが、じっと私を見ている。


「そうだな。綺麗だ」


「ありがとうございます」


 ナオはちょっと頬を赤らめて微笑んだのだった。

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