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118話 バーバリアンを横にして

 さて、辺境伯の大暴れが始まったようだ。

 彼に続き、船に控えていたヴァイデンフェラー騎士団も飛び出してくる。

 数は圧倒的にこちらが少ない。

 それはそうだろう。

 向こうは、シサイド王国が国土侵略のために用意した軍隊だ。

 入り江の大きさは、ちょっとした港ほどあり、停泊している船の数は四つ。

 これに乗り込めるだけの、向こうの兵士がいることになる。


 だが……。


「おらあー!」


「うわー、だめだー!」


「うるあー!」


「うわー、つよいぞこいつー!」


 辺境伯がとにかく、やたらと強い。

 並み居る兵士を物ともしない。

 一騎打ちなら、間違いなく王国最強だろう。

 それどころか、合間を縫って放たれてくる矢を、どうやら視認しているらしい。

 敵の兵士を相手取る片手間で、それを次々に叩き落とす。


「先輩、もうあのひと一人いればいいんじゃないですかね!」


「そうもいかないだろう、ナオ。彼だって一応は人間だ。いつかは疲れてしまうだろう、多分」


 我々はと言うと、探索の開始である。

 私のもともとの目的は、シサイド王国と、実家であるバウスフィールド伯爵家との繋がりを探ることにある。

 ついでに戦争が止められれば万々歳なのだ。


「トーガ、頼む」


「おう」


 ワイルドエルフが私の傍らに立った。

 こちらへ仕掛けてこようという不届き者は、彼の魔法によって防いでもらうのだ。

 ナオの守りはシーアが担当する。


「では調べていこうか」


「はい! まずは地面ですね。海苔を採取します」


 我々はしゃがみ込み、ベルトポーチから取り出したヘラと瓶で、地面に付着している海藻を採取した。

 ふむ、日に透かして見ても、これは間違いあるまい。

 砂浜で入手したあの海苔と同じだ。

 つまり、砂浜へと軍勢を仕向けてくるシサイド王国は、間違いなくここを拠点にしているだろうと言える。


 次に調べるのは、この入り江を覆い隠していた魔法について。


「ナオ。この入り江は見る限り、人工的なものに見えるがどう思う?」


「そうですね。自然が削り取ったものはこういうふうに、均等に岩が削れてはいかないです。これって、すごい勢いで周りのものを削り取るようなゴーレムが、岩を穿ったみたいなそういう感じかなって」


「建築的な見地からはそう出るか」


「ですねえ。一応、ゴーレムを使って自然の洞窟風に見せる建築ってあるんですよ。お金持ちの人の趣味で使われる洞窟ハウスって感じですけど」


 理解できない趣味だ。

 しかし、これで検証できるデータは取れた。

 次に、戦場をざっと見回してみる。

 男、男、男、男、男。

 見事に男性しかいない。


「男性しかいない」


「男女がいると問題起こるからでしょうかね?」


「そういうものかもな。人間も生物であることに変わりはない。異性がいれば、気になってしまうものさ。今回は、異性のことよりも戦争に集中させたいのだろう。だとすれば……」


 私は、ワイルドエルフの兄妹に視線を送った。


「ああ。船がここに突っ込む時に、女の声がしただろう? あれは誰だ?」


「水の精霊力を感じたよ! すごく強いの」


「それだ」


 そこである。

 つまり、この状況には、未だ姿を見せていない仕掛け人が存在している。

 この入り江自体、ナオの話によればゴーレムなどの力を借りない限りは作り出せないものだ。

 いつまでも工事を行なっていれば、辺境伯にも容易に見つかってしまうだろう。

 この土地の守護に気付かれる事なく作り上げ、その上で巧妙に隠蔽する。

 これには魔法的な手段が用いられていると考えて間違いない。

 しかも、これほど大規模な魔法となると……。


「では、一つ大胆な仮説を立てるとしよう。これには、シサイド王国に存在する亜人が関わっていよう。かの国は海に親しく、国土の半分は海と島でできている。だからこそ、海の種族とはとても親しい関係を築いているとか」


 私は海辺を眺めた。

 あっ、今一瞬、何かが顔を出してこっちを見ていたが、慌てて水中に引っ込んだ。


「この件にはマーメイドが関わっている」


「先輩、さっき普通にマーメイドがこっち見てましたよね」


「うむ。私の仮説が口にする前に証明されてしまった。台無しだ」


『質問もなしか』


 マルコシアスのがっかりした声が聞こえた。

 魔狼には済まないが、相手が思った以上にうっかり者だったようだ。


「マーメイドが関わっている事は明らかになった!」


 私は海に向けて、大きく声を張り上げた。

 すると、水中から、一度没したはずの顔がまた浮かんできた。


「な、な、なんで分かったのです!?」


 それは、真っ白な肌の色をした生き物で、人間よりも大きな目をしている。

 瞳の色は黒真珠のようで、それ以外は肌も髪も、継ぎ目というものがない。

 頭髪のようにうねるあれは、頭に生えた触手だろうか。


「真のマーメイドとは、頭足類の特徴を持つ亜人だとは聞いていたが本当だったようだ。君! おーい君! ちょっといいかね! 君に大変興味がある!!」


「な、な、なんですか!? いきなり求愛してくるですか!? 丘の人間は積極的です!!」


「違うぞ」


「ガーン!! 乙女心を弄ぶですか!? 丘の人間は邪悪です!!」


「先輩、話が噛み合ってませんよ。それになんだか怒ってます」


「ジーン、海の同胞は、言葉でのコミュニケーションに慣れていない。奴らは水中で音を発して、もっと細やかな情報を伝えあっているからな」


「おお、聞いたことがある。海獣の類が、海の中で歌を歌うというやつだな。なるほど、同じようなことを彼女たちもしていたのか。君! 誤解させたのなら悪かった! 私が聞きたいのは、君のことについてだ! 君の全てを知りたい!」


「な、な、なんですか!? やっぱり求愛ではないですか!?」


「話が進まないなー」


 シーアがけらけらと笑った。


「じゃあ、ちょっと私が行って話しつけてくるよ」


 彼女はそう言うと、魔法を使った。

 シーアの足が、海の上にぷかりと浮かぶ。

 水上歩行の魔法だ。


「森の同胞がいるです!? 見分けがつかなかったです!」


「ほんとうですか」


「ほんとうです!」


 次々にマーメイドが顔を出してきた。

 たくさんいるぞ……!


 そして、どうやら戦っていた者たちも、入り江の海で異変が起こっている事に気付いたらしい。

 マーメイドの集団と、我々がお見合いをする形になっている、傍から見ればとんでもない状況だ。


 シーアは見事に彼女たちと話を付け、まとめて岸辺まで連れてきた。

 彼女たちの下半身は、真っ白で鱗もなく、一つに纏まった形のまま真っすぐ伸びている。

 その両脇から、イカのエンペラに似たひらひらが生えていて、これを動かして泳ぐようだ。


「きゃあ、日差しが」


「丘の上カラーになるです」


 マーメイドたちの色が、岩場と同じ茶色に変化した。


「まるで、噂に聞くイカのようだ」


 私は感心した。

 ワイルドエルフは、まだ生態として人に近い。

 だが、マーメイドはそもそも、人とは全く異なった生命体ではないか。

 だというのに、伝承では人間と彼女たちは、子を成すことができるという。

 不思議である。


「質問なんですか?」


「よく見たら丘の人間、人間じゃないです」


「魔族の血が混じってるです」


「いかにも。私はジーン。一応貴族だが、その前に賢者だ。ゆえに賢者として君たちに聞きたいのだが……。この入り江は、君たちが作った?」


「そうです!」


「入り江を隠す魔法はどういう仕組み?」


「霧を吹き付けたです! そうすると周りの風景が映るです!」


「意図的に光の屈折を引き起こしているわけか。だが、先程のように、角度によっては同じ光景が連続しているように見える、と。なるほどなるほど……」


 私は手乗り図書館に、情報をメモした。


「ちょっと待て! ちょっと待てお前らー!!」


 そこへ何者かが乗り込んできた。

 服装からして、それなりの地位のもののようだな。


「あ、隊長さーん!」


「隊長さんだー!」


 マーメイドが、わーっと手を振った。

 隊長とな。


「お前ら、機密をさらっと明かしてどうする……。ああ、そうか。人間とマーメイドでは常識が違うのだった……。ああ、これだから」


「ええい、逃げるな! 俺と勝負を……と、ジーン、何をやっているんだ」


 そこに辺境伯も飛び込んでくる。

 なんとこの場に、自軍と敵軍の将が揃ってしまった。

 さらに、シサイド王国の要であるマーメイドたちと、こちらにはワイルドエルフにマルコシアスも。


 決して広くはない戦場で、いきなり状況が混迷の度合いを深めたという認識は容易に広がる。

 誰もが戸惑い、我々のやり取りに注目することになった。


「なに、異文化交流というものだよ。そちらはそちらで、構わず続けてくれたまえ」


「続けられるか!?」


 私の言葉に、辺境伯とシサイド軍の隊長は同時に突っ込んだのである。

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