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12話 開拓の始まり

 ようやく開拓する準備が整った。

 現地人であるワイルドエルフの協力が得られるようになり、脅威と目されていた魔狼マルコシアスも味方につけた。


 今は、マルコシアスがゴンドワナの横で、ぐうぐうと眠っている。

 たまに質問してほしい時に、この悪魔は私に話しかけてくるのである。


「さて、開拓となったらわたしの出番ですね! 先輩は休んでてください!」


 我が後輩が、突然そのようなことを言った。

 アーティファクトであるメガネをくいくいと動かしながら、テント周りの土地を見回す。


「あそこから……ここまでの木を切り倒して、まずは広場を作りましょう! そのために必要なのは……労働力ですね!」


 周囲を指差し確認しながら、今後の計画を大きな声で言うナオ。

 私は興味がわいてきた。


「なるほど。労働力と言えば、私と君と馬のゴンドワナしかおるまい。ストーンゴーレムとクレイゴーレムは、使用回数の制限が近い。どう出るかね?」


「それはもちろん! ここにはゴーレムの元になるものが幾らでもあるじゃないですか!」


「ゴーレムの元……ウッドゴーレムを作るつもりか!」


「ご明答!」


 ナオは先日切り倒した木に近づくと、クレイゴーレムを呼び出した。

 これに、持ってきていたのこぎりを使わせ、ほどよい間隔で切断していく。

 輪切りにした後、樹皮を剥ぐ。

 そして四つの丸太が出来上がると同時に、クレイゴーレムは使用回数の制限を迎え、自壊した。


「精密な作業ができるが、やはりクレイゴーレムは脆いな。かと言って、ストーンゴーレムではこのような作業はできない。なるほど、それでウッドゴーレムというわけか」


「そういうことです。さあ、四本の丸太に命を吹き込みますよ! ちょいちょいのちょいっと、魔法文字を刻んで……」


 少し距離を取ったあと、ナオが丸太に向けて告げた。


「詠唱省略、汝に命を与える! 汝はウッドゴーレム!」


 すると、丸太から手足が生え、立ち上がった。

 人間より、少し小柄なサイズのゴーレムが四体だ。


「さあみんな、木を切り倒して! 切り倒したら、輪切りにして樹皮を剥ぐの! さあ急いだ急いだ!」


 ナオが手を打ち鳴らす。

 ゴーレムは命令に従い、木々に取り付き始めた。

 ウッドゴーレムは、クレイゴーレムよりも丈夫で、ストーンゴーレムよりは精密な仕事ができる。

 ただし、頑丈さはストーンゴーレム以下なので、古くなれば壊れやすくなる。

 精密と言っても限度があり、作業内容を変更するたびに、細かく命令をしなおさねばならない。


 だが、ナオはこのウッドゴーレムを上手く扱っていた。

 次々に倒れていく木々。

 八本の木が倒れたところで、ナオは命令を変更した。

 ウッドゴーレムは、丸太作りを始める。


 完成した丸太に、ナオが魔法文字を刻み込む。

 そして、ウッドゴーレムを増やすのだ。


「生木であるうちは結構頑丈なんです。で、仕事をしてる間に乾いてくるでしょ。そうなったら、古くなったウッドゴーレムを割って、小さいウッドゴーレムにします。これに命令をすると、自分たちで組み合わさって家になります」


「ほう……! 大したものだ! 早くみたい」


 ナオの専門分野である、建築と錬金術、魔法生物学の融合だ。

 ついこの間まで、試験管の中に浮かぶホムンクルスだと思っていたが、立派になったものである。


「先輩のお役に立てるかと思って、先輩が特にマスターしてない分野に絞って勉強したんです! お役に立っているでしょう?」


「素晴らしい。早く早く」


「もう、先輩ったら仕方ないですねえ」


 ナオは微笑みながら、ウッドゴーレムを操っていく。

 夕方には、周囲の木々はあらかた切り倒されてしまった。

 最終的に、60体のウッドゴーレムが誕生したことになる。


「じゃあ、これで作業はやめて、半分は建材にするから乾燥させなきゃなんですが」


 チラッとナオが私を見た。


「どうしたんだね?」


「おすすめは自然乾燥なんですけど、ちょっと時間がかかるんですよ」


「それは聞いたことがある。貴族の屋敷などは、一年間寝かせて乾燥させた建材で作られるというからな。だが、我々はそのように時間をかけている暇がない」


「ですよねー。っていうか、何か急ぐ理由があるんですか?」


「ああ。我々は今、開拓を始めているところだが……私をわざわざスピーシ大森林まで飛ばした輩が、このまま黙ってみていると思うかね?」


「ああ、なるほどです!」


「奴らにとっては、ナオ。君が付いてきたことは想定外だったはずだ。必ず、様子見のためにやってきて、あわよくば辺境の不幸な事故に見せかけて私を暗殺しようとするだろう」


 これは推測だが、間違いなく起こることだと思っている。

 だからこそ、我々はまず、急ぎ成果と呼べるものを挙げ、王都への報告に向かう必要がある。

 時間をかけていれば、バウスフィールド伯爵家の息がかかった者がここを嗅ぎつけるだろう。

 建材を乾燥させる一年の間、森の中でキャンプするわけにもいかない。


「じゃあ、急速乾燥で行きましょうか。これは炎の魔法を使うので、森の外でやらないといけないんですが」


 ナオがそう言った時だ。

 慌てた様子で、ワイルドエルフの妹の方、シーアが走ってきた。


「火を使うのはやめてー!! 森の掟でそういうのはやっちゃいけないの! どうしてもやるなら、森から離れたところで、火の粉が飛ばないように細心の注意を払ってやって! あ、私と兄さん、あなたたちの目付け役になったから!」


 彼女がまくし立てた後、面白くなさそうな顔をしたトーガが姿を現す。

 そして、ゴンドワナの横で寝ているマルコシアスを目にし、一瞬飛び跳ねるほど驚いた。

 かなり魔狼が苦手なようだ。


『む……質問を……』


 マルコシアスが目覚めた。

 眠そうに目を瞬かせながら、私に近づいてくる。

 そうか、質問が欲しいのか。

 ちょうどいい。


「マルコシアス。これらのウッドゴーレムを急速に乾燥させたい。ちょうどよい場所は無いか」


『大森林の東奥。古き岩窟がある』


 それだけ言うと、マルコシアスは満足げな顔をした。

 この悪魔、どうやら己が持っている知識を話しているのではないようだ。

 何らかの、外部にある全ての知識がある場所にアクセスし、質問に対する答えを引き出しているのだ。

 そのため、返答する度にマルコシアスは魔力を消費する。

 故に一日に返答できる回数が限られているということだ。


「えらいですねーマルコシアスー。よーしよしよし」


 怖いものなしのナオが、マルコシアスの頭を抱きかかえて、顎を撫でる。

 トーガとシーアがこれを見て震え上がる。

 ゴンドワナが嫉妬して、ナオの髪をもしゃもしゃ食べようとする。

 そのようなことが一度に起こった。


 私はと言うと、示された明確な答えに対し、予定を立て始めていた。

 明日には、東の岩窟とやらに行こう。

 そこでウッドゴーレムを乾燥させ、建材として使用する。

 予定は思ったよりも、早く進みそうだ。

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