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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第四部 開拓、陰謀、ドラゴン!
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106話 輝く卵

 公爵一行の背中を見送った。

 彼らが見えなくなるまで、念のためにそこにいたので、気がつけばすっかり夕方である。


「やれやれ、とんだ騒ぎだった。彼らがやって来なければ、開拓はもっと順調であったろうに」


 私はやれやれ、と一息つく。


「先輩、お疲れさまでした! そう思って、お茶を用意してあります!」


 ナオが私の背中にくっついてくると、肩をもんでくれる。

 ありがたい。

 交渉事には慣れていないわけではない。

 賢者の塔にいた頃も、主計部から研究予算を勝ち取るために弁舌を戦わせたものだ。

 今回は、その時とは少々違うが、相手が人間であるという点においては同じとも言えよう。

 権限というものを握る人間相手には、利害をちらつかせればいい。

 そうすれば彼らは折衝点を探し、折れてくる。

 これが、あの種の人間の性質である。


「ナオ、肩もみを誰に習ったのかね? 私は君に、これを頼んだことはなかったはずだが」


「アマーリアさんが師匠ですねー」


 ぐりぐりっと肘で肩を押してくる。

 む、むむうーっ。

 これはなかなか……。

 私が気持ちよさに呻いていると、ゴーレムたちがお茶セットを持ってきた。

 そして、さっきまで公爵一行がついていた席に、当然のような顔をしてアスタキシアとシーアがつく。

 カレラはキョロキョロして、本当に座ってもいいのかな、という空気を醸し出していた。

 だが、シーアに手招きされて、仕方なさそうに座った。


「ビブリオス準男爵! 素晴らしい交渉でしたわ! まさか、わたくしがこの開拓地にいられるよう取り計らって下さるなんて……!!」


 アスタキシア嬢が私の手を握り、目を潤ませる。


「わたくし、ここにいてもいいのですわね……! この、わたくしが、わたくしでいられる場所に!」


「うむ。君はいつも勤勉に仕事をしてくれる。それにどうやら、カレラの補佐をできる才覚もあるようじゃないか。有用な人材だ。よろしく頼む」


 貴族としての教育を受けているアスタキシアは、書類作業においても有能であったのだ。

 これで、カレラ、サニー、アスタキシアの三名で、我が開拓地の執政部門は盤石となる。

 私がそっちの仕事をしなくて良くなるぞ。

 研究三昧だ。


「先輩、何かわるいことを考えましたね? こうです! ぐりぐりっ」


「あいた! いたたた!」


 ナオの体重を掛けての肘ぐりぐりは、凝った肩に大変効くのだが、痛い。

 彼女の全体重を受けているのならば、なるほど頷けることである。

 ナオは同身長の女性よりもちょっと重いからな。

 だが、そんなことを言うと、デリカシーとやらに欠けるとして、シーアを始めとする女性陣から袋叩きに遭ってしまう。

 心の中だけで留めておこう。


 ゴーレムは卒なくお茶の用意をする。

 運ぶゴーレム、お茶を淹れるゴーレム、配膳するゴーレムに役割が分かれているのだ。


「動作が細やかになっている……。トラボー殿から教わったのかね?」


「ふふふ、実はわたしのオリジナルなんです。ゴーレムに刻む魔法文字を、ちょこちょこっといじると作業の精度が変わるんですよ。ただ、そのかわりゴーレムの強度が落ちるみたいです」


「力仕事でもなければ、強度は必要あるまい。うーむ、素晴らしい研究成果だ……! 今度私にも教えてほしい」


「もちろんです!」


 という事で、我々は落ち着いてお茶をする運びとなった。

 夕食もせねばなるまいな。

 そちらはボルボに任せるとしよう。


「ところで」


 私は切り出した。


「見たかね、地竜を」


「見たわ」


「すごかったですわ!」


「腰が抜けるかと思いましたよ……」


 シーア、アスタキシア、カレラの順に、彼女たちらしい感想が聞ける。


「私ね、風竜は見たことあるの。森の奥に住んでるんだけど、白くてすごく綺麗だった。だけど、地竜はなんていうか……もっととんでもなかったわ。それにすごく大きい」


「地竜は、風竜を若いと形容していたね。あれを言葉通りに受け取るなら、飛び立った地竜の方が年齢は上で、そのぶんだけ大きかったのだろう。新たなる地竜、とも言っていたようだが、それは一体……」


「案外、卵が残ってるかも知れませんわねえ」


 笑いながら、アスタキシア嬢が告げた。

 そして、口にしたお茶が渋いので顔をしかめる。

 エルフ麦から煎じたお茶だ。

 渋いが口の中がスッキリし、目が覚める。

 ところで、私は今、別の意味で目が覚める思いだった。


「卵……!? 卵だって……!? そうか、その可能性があった!!」


 私はお茶を一息に飲み干すと、立ち上がっていた。

 肩にナオをくっつけたままだ。


「うわー、先輩どうしたんですかー」


「ナオ、これは由々しき事態だぞ。私としたことが、公爵を追い返したことで満足してしまっていたらしい。それはさほど重要ではないというのに!」


「重要ではない!?」


 アスタキシア嬢が目を白黒させた。


「卵だ! 卵があるかも知れないのだ! 行くぞナオ、ついてきたまえ!」


「はーい。このまま先輩にぶら下がって行きます」


 ナオを背中にくっつけたまま、私は走る。

 途中、土に沈まないための靴を履いていた事に気づき、これを脱ぎ捨てた。


「ジーンさんが裸足で走ってるぞ」


 マスタング、今はそんな些事にかまけてはいられないのだ。

 ばたばたと、土を蹴り上げて走る。

 やがて、到着したのは隆起した地面のところ。

 そこは大きく崩れ、陥没していた。


「よう、ジーン。お前にしては遅かったな」


 トーガがにやにやと笑っている。


「その顔は……。トーガ、君は見つけたんだな?」


「地竜が、新たな地竜と言っていただろう。飛び立った後、すぐに探したぜ。俺はてっきり、お前がすぐに駆けつけてくるものだとばかり思っていたが」


「くっ、面目ない。だがそんなことはどうでもいい。卵か? 卵があったのかね?」


「ああ。あった」


 トーガが指示すると、ワイルドエルフたちがそれを運んできた。

 布に包まれたそれは、一抱えほどの大きさがある。

 私は、興奮に震える手で布を捲った。


「おお……!」


 きらきらと、翠緑色に輝く卵がそこにはあった。

 地竜の卵である。


「卵ということは、地竜はメスだったんでしょうか」


「うむ……。あれほどの、神と呼べそうなほどの存在感を持つ竜が、我々と同じような生殖機能を有しているという保証はない。それに、個体数が圧倒的に少ないであろう彼らが、異性と出会う機会があるものかね? 単為生殖かもしれない」


「なるほどー」


 ナオと話をしながら、卵にペタペタ触ってみる。

 ほんのりと温かい。

 

「どうやれば孵るのだろう。これは研究せねばなるまい」


「先輩、とりあえずわたしが温めてみます!!」


「むむっ!! この重大な任務に志願するとは……。だが、ナオならば任せられる」


 私が全幅の信頼を置く、優秀な仲間である。

 かくして、公爵が残した不穏な言葉などすっかり忘れ、我々は地竜の卵へ掛かりきりになるのだった。

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