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11話 悪魔にインタビュー

 目を見開いたマルコシアスは、私をじっと見つめた。


「ジーン! 無防備すぎるぞ! 魔狼の前に飛び出すなど!」


「待って兄さん! きっとジーンには何か考えがあるんだと思う……!」


「いやー、先輩何も考えてないと思いますよ。あれ、絶対にカッとなって体が動いちゃったやつです」


 ナオ、正解だ。

 私は何も考えてなどいなかった。

 ただただ、目の前にいる悪魔が、記録にあるような存在なのか。そして、私の推論が正しいのかどうかを確かめたい、それだけだったのだ。


 マルコシアスが、力の側面として呼び出された存在であった場合、私の命は無いだろう。

 魔族の血が混じり、通常の人間よりは頑強な私と言えど、王都の一部を焦土に変えたような悪魔を相手にしては無力だ。

 だが、マルコシアスは動かなかった。

 私をじっと見つめているばかり。

 値踏みしているのか。


『何故……』


 ようやく、かの悪魔が口を開いたのは、沸騰した湯が冷め始めるほど時間が経った頃だった。

 背後にいるナオは、私の隣までやってきてしまっている。

 元来ホムンクルスである彼女は、喜怒哀楽の表情が薄い。

 恐怖心なども、人間よりは感じにくいのである。


「喋りましたよ、先輩」


「ナオ、君は命が惜しくはないのかね? いや、それどころではないな。マルコシアス、何が何故なのだ?」


「それどころではない……!」


 ナオがショックを受けた顔をしているが、それは重要ではない。

 私の目の前で、マルコシアスが巨大な狼の頭を下げてきた。

 私と悪魔の目線が合う。


『何故、分かった』


 マルコシアスの口が、大きく裂けたように見えた。

 笑ったのだ。


『十年、誰も気付かなかったというのに。そこで震えているエルフは、我をただのモンスターだと思い、言葉ではなく矢と魔法を射掛けるばかりであった。我は全ての問いに答える悪魔。エルフからの問いが鏃と魔法ならば、同じく力でもって答えるだけよ』


「道理である」


 私は納得した。


「君はマルコシアスの、知の側面か?」


『その質問に答えよう。その通り』


 実に嬉しそうに、マルコシアスは返答した。

 この悪魔は、質問に答えることこそが本質である。

 それが十年の間、何も問われること無く、その口を閉ざして存在してきたのだ。

 いかほどのフラストレーションがあったことだろう。


「素晴らしい。私の推論は合っていた。推論は証明され、事実となる。これにて、ワイルドエルフを脅かしていた魔狼なるものの正体は明らかとなった!」


 背後にいるエルフの兄妹は、まだ理解が及ばぬようだった。


「どういうことだ……!? ジーン、お前はその魔狼をどうにかするのではなかったのか?」


「うん! でも、私たちの目には、魔狼はまだそのままの姿でいるようにしか見えない……! その、恐ろしい姿のままで」


「安心したまえ。既に状況は解決した。私が彼に問いを投げかけるまで、マルコシアスは力の側面であるのか、知の側面であるのかが曖昧な状態だった。だが、私の問いに彼が答えたことで、マルコシアスは自らを知の側面であると証明したのだ。であれば、この悪魔は既に害をなす存在ではない」


「あー。これ、エルフさんたちには難しすぎるみたいすね先輩。ええと、そうですね。分かりやすく言うなら、マルコシアスは質問が欲しかったんですよ。それに答える悪魔なので。で、先輩が質問をしたことで、マルコシアスは本来の役割を果たすようになったんです。ほら。マルコシアスの魔力が小さくなっていきます」


 ナオが指し示す悪魔は、全身から魔力を放出している。

 そして、魔力を吐き出しただけ、そのシルエットが小さくなっていくのだ。


「魔狼が……!」


「小さくなっちゃった」


 残ったのは、通常の狼サイズまで縮んだマルコシアス。

 彼は立ち上がると、満足げに翼を幾度か羽ばたかせた。

 彼の尾は蛇のように鱗に覆われ、長く伸びており、それが私の肩まで伸びてきて、ぺたぺたと叩いた。


『質問はせぬのか』


「そうだな。君はどうしてここにいるのだ?」


『その質問に答えよう。我は十年前に、召喚された。だが召喚の術式が誤っており、この森の中に召喚されたのだ』


 つまりは、事故であったということだ。


「では、今の君にすべきことはあるのか?」


『その質問に答えよう。無い。我は契約を交わす前に放り出され、果たす約定もなく無為に時を過ごしている』


「私が森の開拓に誘えば、君はついてくるか?」


『その質問に答えよう。ついていくとしよう。我の本質を見抜き、質問を与えるお前は、我と契約を結ぶに値する』


 私とマルコシアスのやり取りを、じーっとナオが眺めている。

 そして、エルフの妹、シーアを手招きした。

 こわごわやってくるシーア。


「シーアも、色々聞いてみたらどうです? マルコシアス、ひたすら質問に答えるのが嬉しいみたいですから。ほら、尻尾をぶんぶん振ってます」


「えええ……。私はちょっと遠慮しておく……! それに、魔狼を退治するのではなくて、手懐けてしまうなんて……」


「シーア! そいつらのことはお前に任せる!! 俺はこれから長への報告をしに行く!」


 トーガはそう宣言すると、あっという間に走り去っていってしまった。

 呆然とそれを見送るシーア。


「そ……そんなあー。逃げたな兄さん……!!」


 かくして、私はワイルドエルフからの依頼を達成した。

 これで、森の開拓において、彼らの協力を取り付けることができるだろう。

 そしてさらに、悪魔マルコシアスと契約した。

 たまに彼に質問を投げてやることで、マルコシアスは満足する。

 そのついでに、開拓を手伝ってくれることだろう。


「先輩、ようやく開拓スタートですね!」


「ああ。ナオにも働いてもらうぞ」


「はい!」

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