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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第四部 開拓、陰謀、ドラゴン!
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103話 ゴッドシューター慣熟訓練

「ゆけ、ゴッドシューターゴーレムよ」


 トラボー殿の指示を受け、足の生えた大型弩弓が歩いていく。

 それは指定の位置に到着すると、どっかりと座り込んだ。


「随分なでかさだな。こんな大きさで、精密な照準ができるのか?」


 弩弓の前に立つのは、今回の射撃を担当するトーガ。

 私が知る限りでは、最高の射手である彼こそが、地竜の口に神の泥団子を放り込む役割を担うにふさわしい。


「問題ない。ここにハンドルがあってな、こいつをこう動かしてみろ」


「ふむ? ……おお、射角の微調整ができるのか。見た目によらず、芸が細かいな……」


「建築の賢者である俺の作品だからな」


 最初の頃は人間を蛇蝎のごとく嫌っていたトーガだが、今では種族で相手を判断することなど(あまり)無い。

 トーガが人を見る基準は、能力である。

 その点では、優れた建築家であるトラボー殿は人間と言えど、敬意を表するに値するらしい。


「よし、やってみるとしよう。で、飛ばす矢玉はどこだ」


「ここである」


 ゴンドワナとユーラメリカが、荷車を引いてやって来る。

 隣に立つのはガーシュイン。

 確執のある相手だけに、トーガの表情も険しくなる。


「お前か。今度はおかしなことを企んでいないだろうな」


「吾輩にとっての居場所は、今はここだけだ。それをぶち壊すような阿呆ではない。だからこそ、こうしてジーンに手を貸しておるのだ。アマーリア、マッドゴーレムをおろせ」


「はいよー」


 泥団子型に固められた神は、マッドゴーレムと仮称されている。

 未だ、戦神による襲撃事件はこの開拓地において、ホットな話題なのだ。

 娯楽が少ない田舎では、起こった事件は長く語り伝えられるものである。


 アマーリアが、荷台から丸いものを幾つも取り出し、地面に置く。

 一抱えもある大きさの、泥団子である。

 表面はツルツルに磨かれている。


「よし、お前たち、あっちまで行けー」


 アマーリアが命令を下すと、泥団子……いや神団子は、ころころと転がってゴッドシューターの足下まで進んでいった。

 これは便利である。


「マッドゴーレムは、空中で変形して自ら軌道修正も行う。地竜の口に飛び込みやすいよう、変形もするだろう。そう条件付を行なった」


「ほう、それは新たな技術ではないのかね?」


 ここまで横で記録していた私だが、ついに耐えられなくなった。

 思わず口出しをしてしまう。

 ガーシュインは、遺失魔法の継承者であり、開発者ではなかったのではないのか。


「シャドウストーカーを混ぜ込んであるのだ。実際は、シャドウストーカーがマッドゴーレムの外形を変化させる」


「なるほど、既存の技術の組み合わせか。それで新たなものが生まれることはよくあることだ。だが、かみ……いや、マッドゴーレムとシャドウストーカーの組み合わせとは、実に感慨深い」


 どちらも、私が立ち向かった脅威であった存在だ。

 それが合わさり、今は我々を助ける力となっている。


「なるほど、足を引っ張ることはなさそうだ。悪くない」


 トーガも納得したらしい。

 この言葉は、元々敵であったガーシュインに対し、彼なりの最大の賛辞である。


「試し打ちをしたい。その泥玉を使うわけにはいかんだろう。ジーン、なんとかできるか?」


「よし、こちらもマッドゴーレムを作ろう。ナオ、頼む」


「はーい」


 向こうで他の女子たちと話し込んでいたナオが、ぱたぱたと走ってきた。

 彼女はその辺りの土の上にしゃがみ込むと、木の枝を握って魔法文字を刻む。


「ゴーレム、汝に生命を授ける!」


 すると、文字を刻まれた土が盛り上がり、ずんぐりとした人型になる。

 これが本当のマッドゴーレムだ。


「手足が邪魔だな」


「はいはい。ゴーレム、手とか足とか引っ込めて」


 ナオの命令の通り、ゴーレムは団子状に変形した。

 だが、本来のマッドゴーレムは、こうなってしまうと自分で動けない。

 神団子と違い、内包している魔力が少ないのだ。

 足がなければ自走はできない。

 ということで。


「やりますわよー!」


「なんか子供に返ったみたいだねえ。懐かしいー」


 アスタキシアとシーアが、泥団子をゴッドシューターのところまで転がしていく。


「お前まで何をしてるんだ」


「だって兄さん、みんないつも面白いことばかりしてるんだもの。見てるだけじゃ損だよ」


 呆れた様子のトーガに、シーアが良い笑顔で答える。

 アスタキシアとシーアが、二人で泥団子を抱え上げ、ゴッドシューターに乗せる。


「手が泥だらけですわ! 楽しい!」


「ふふふ、あとで水の精霊を呼んできれいにしてあげる」


 女子二人が離れたところで、仏頂面のトーガがゴッドシューターの前に陣取った。


「標的は……あれでいいか」


 トーガが目をつけたのは、こんもりと盛り上がった、建築端材の山である。

 どれも、妙な形に削られている。

 これは、神官サニーが、神像を作る練習台に使った跡なのだ。


「わ、私の神像のなりかけの山がー!」


 向こうから悲鳴が聞こえる。

 なに、泥玉をぶつけるだけだから、壊れるわけではない。


「行くぞ。風、気温、湿度。弦の張り……よし」


 トーガは頷くと、巻き上げ機に手をかけた。

 回転させると、弩弓の弦が張り詰めていく。

 そして同時に、射角を微調整。


「行け……!」


 果たして、マッドゴーレムは撃ち出された。

 それは放物線を描いて、神像なりかけの山のやや向こうに着弾する。


「強すぎたか。では、こうだな」


 次なる泥団子は、見事に神像なりかけの山に炸裂した。

 神像になれなかった端材の集まりが、パーンと音を立ててあちこちに吹き飛んでいく。


「ひやー」


 サニーの悲鳴が聞こえた。

 

「サニーさん、あれは全部失敗作だって言ってませんでしたっけ」


「そうだけどー! これはこれでなんか来るっていうかー!」


「泥玉がぶつかったわけですから、あまり壊れてはいないと思いますわねえ」


 女子たちの声をよそに、トーガは満足げだ。


「こんなものだな。おいジーン。それから魔法使い」


 トーガは、私とガーシュインに声を掛ける。


「本番の時の重さは、大体同じようなものか?」


「サイズは合わせたが、重量は若干違うだろう。そこは君の腕に任せる」


「マッドゴーレムも、軌道を自ら調整する」


「ふん、いいだろう。怪しい泥玉の手を借りずとも、俺だけでもやってみせるさ」


「万一貴様が失敗しても、マッドゴーレムがどうにかでき……」


「旦那ストップストップー!! 口は災いのもとだから!」


 後ろから走ってきたアマーリアが、ガーシュインの口を塞いだ。

 そのまま、もごもご言うガーシュインを運んでいってしまう。


「アマーリアはよくできた助手だな」


 私は感心した。

 トーガも僅かに唇の端を吊り上げた。


「何と言うか……。ジーン、お前に似たおかしな奴ばかりが集まるな」


「私に似ている? 彼らは一流の知識と技術を持つ者たちだ。等しく見られることは光栄だが、おかしいとは一体」


 解せぬ。

 だが、そんなことは今は些事である。

 ゴッドシューターの射撃練習は終わった。

 これで、地竜の口に神団子を放り込むことは難しくなくなった。


 準備が整ったのを知り、クロクロとクークー嬢もやって来た。

 地竜の巫女としての資格を持つ、クークー嬢。

 彼女が今から、儀式を行なって地竜の口を開けさせるのである。


 さて、地竜を飛び立たせる儀式も、もうすぐ。

 だが、絶好期にこそ、邪魔は入るものだ。


「ビブリオス卿!! ビブリオス卿大変だぞ!!」


 うなぎに似た男が、馬を走らせてくる。

 開拓地の中で馬を走らせるとは、よほど急いでいるのか。


「どうしたかね、イールス卿」


「伝書鳩だ! これを見ろ、ビブリオス卿!」


 彼が手にしていたのは、領地に戻ったロネス男爵からの手紙だった。

 そこには、


『貴君、気をつけろ! まさか、公爵自身がやって来るとは思わなかった。あれは本気だぞ!』


 と書かれている。

 ほう、サッカイサモン公爵自身が、私に何かを言いに来るということか。


「イールス卿。こういうことはよくあるのかね?」


「まさか! 格下の貴族の領地に、仮にも王族に連なる公爵家の当主が来るなんて前代未聞だ!」


 いつも飄々としているイールス卿だが、今日ばかりは冷静ではない。

 だが、これに対して、私の傍らでトーガが笑った。


「それはそうだ。俺たちにとっても、このジーンという男は前代未聞なのだ。そいつと相対するには、向こうも前代未聞で来るしかなかろうさ」


 納得できるような、できないような。


「お父様が、来る……!?」


「大丈夫ですよ! こういう、すごく困ったことが起きたときは、先輩に任せておけばいいんです!」


 不安げなアスタキシア嬢に、ナオがとても無責任に聞こえる励ましを行った。

 だが、この言葉に頷いたのは、公爵令嬢だけではない。

 シーアが、サニーが、カレラが、アマーリアが頷く。

 トラボー殿は腕組みをして、恐らくは笑みを浮かべている。

 ガーシュインはじっと私を見ていて、遅れてやって来たウニス殿が、わけもわからないながらうんうんと頷く。


 トーガが私の肩を叩いた。


「頼むぞ、ジーン」


「頼むと言われてもな」


 さて、どうしたものか。

 考える私の目の前で、ナオが瞳をきらきらと輝かせ、見つめてくる。


「先輩!」


 無条件の信頼というものであろう。

 彼女が送ってくるこの感情は、不思議と私をその気にさせてくれる。

 気がつくと、私も頷いていた。


「ふむ。ではやるとするか。だが、ここはごく平和的に解決するとしよう。地竜を目覚めさせるのと同時進行で行くぞ。彼らの度肝を抜いてやろう」


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