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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第四部 開拓、陰謀、ドラゴン!
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100話 遊びに来たロネス男爵

 計画は進んでいく。

 プロジェクトチームは各々の作業に邁進し、私はその進捗を管理する。

 さらに、開拓事業も止めるわけにはいかない。

 荒れ地に神土を撒いて、ミミズを住まわせ、畑作に適した土地に変えていく必要がある。

 こちらも、私は管理監督業務を行なっていた。

 さらにである。


「ジーンさん、ここからこっちの山まで全部、一通り目を通して、それからサイン」


「わ、分かった」


 今までカレラに任せていたツケがやって来たようで、彼女が仕上げた書類のチェックとサイン作業が待っていた。

 おかげで、一日の大半は書類作業になってしまっている。

 時折気分転換に外に出て、開拓の監督とプロジェクトの進捗管理を行う。


「ぐわー」


 一日の作業を終え、自室でぐったりする私。


「お疲れさまです先輩! でも、サインは先輩しかできないですからね。もうひとふんばりです」


「うむ……。最近腕が攣るのだが、どうにか誤魔化しながら頑張ろう……!」


「マッサージしたげます」


 ナオが私の肩やら腕を、ふにふにと揉む。

 おお、なんともこれは……心地いい……。


「ナオ、君は一体どこでこのような技を」


「むふふ、アマーリアさんから習ったんです。彼女、いろいろな技を持ってるんですよ」


 なるほど、シャドウ族は旅から旅の、放浪の魔族。

 その過程で、様々な仕事をして、技術を身につけていくのだろう。


「先輩がお疲れになると思って、こんなこともあろうかと身につけておいたんです!!」


「な、なんという先読みだ。むうーっ、これは気持ちいい」


 体に溜まった凝りがほぐされていく心地である。

 あまりの心地よさに眠りかけてしまったので、ナオが慌てて揺り起こしてきた。


「先輩、寝るならベッドにしてください! 疲れが取れないですよ! あと、先輩が寝ちゃったらわたしじゃ運べないです!」


「これはすまない」


 私はふらふらとベッドまで歩き、上着を脱ぎ捨てるとそのまま倒れ込み、


「ふぎゃ」


 何か巻き込んだ気がする。

 だが、そんなことは気にしていられない。

 私はあっという間に眠りに落ちたのだった。





 激しく扉がノックされる音で目覚める。

 開いた目に飛び込んでくるのは、窓の隙間から差し込む日差し。

 太陽が高くなってきている。

 どうやら寝坊してしまったようだ。


「うむ……だが、体の疲れはましになっているな」


 ベッドから半身を起こして伸びをすると、腕に柔らかいものがくっついてきた。

 なんであろうか。


「むにゃ」


「むっ、ナオがくっついている」


 私は驚いた。

 どうしてナオがいるのだろう。

 いや、昨夜、寝る前に何かを巻き込んでベッドに倒れた気がしたが、さてはナオだったか。

 彼女も上着などは脱いでいて、ほとんど下着だけの軽装である。

 開拓地の夜は、蒸すことがある。

 着込んでいては汗みずくになってしまう。

 よって、下着で寝ることは正しい判断だ。


「準男爵! 起きてますの!? 開けてくださいな!」


 外で扉を叩いているのは、アスタキシア嬢ではないか。

 私は適当に上着を羽織ると、立ち上がった。


「ふにゃ」


 ナオがまだぶら下がっている。

 うーむ。


「ナオ、起きるのだ」


 彼女の頬をむにむにすると、


「むにゃー」


 抵抗してきた。

 まだ寝たいようだ。

 仕方が無いので、彼女を抱えて扉まで行くことにする。

 鍵を開けると、髪型から服装までばっちり、活動的に決めたアスタキシア嬢が飛び込んできた。


「大変ですわよビブリオス準男爵!! 外に馬車が……が……が……」


 彼女は、私とナオを見て、口をパクパクさせた。

 そして、耳まで真っ赤になる。


「ししししし、失礼しましたわあ!!」


「あっ、待ちたまえ! もっと詳しく!」


 だが、彼女は何か叫びながら走っていってしまう。

 参った。

 状況が把握できない。


「ナオ、目覚めるのだ。ナオ」


 腕の中の彼女を、ゆさゆさと揺さぶる。

 すると、ナオは口をむにゃむにゃさせてから、ようやく薄目を開けた。


「あー、先輩、おはようございます」


「おはよう。とりあえず私の腕を解放してくれないだろうか」


「えへへ、いいだきまくらでした。熟睡しちゃいました」


 ナオはにやにやしながら、私から手を離す。

 そして、ゆっくりと上着を着始める。

 大きくあくびをした。


「ほわ……。なんだか、アスタキシアさんの声がしたみたいですけど」


「ああ。彼女が一大事を察知したようでね。我々を起こしに来たんだ。どうやら疲れのせいか、寝坊してしまったみたいだ。いやはや、慣れないことはするものではないな」


「先輩、事務作業とか嫌いですもんねえ」


「論文ならいくらでも書けるのだがね」


 談笑していると、外が騒がしくなって来た。

 ばたばたと大人数の足音がする。


「ほんと!? アスタキシア! ついにナオがやったのね!」


「ジーンさんが疲れているところを狙うとは……。的確な判断だわ」


「ついにビブリオス準男爵も年貢の納め時ですな!」


 シーアにカレラ、なぜかイールス卿の声までする。

 一同は、一斉に私の部屋に飛び込んできた。

 そして開口一番に、


「おめでとう!」


 などと言うのだ。

 何がめでたいのか。

 私とナオは首を傾げたのだった。




 アスタキシア嬢が騒いだ理由。

 それはすぐに明らかになった。

 開拓地の前で停まった馬車に、見覚えのある紋章が刻まれていたからだ。


「あれはロネス男爵のものだな。まさか、男爵の使いが直接やって来るとは」


 私は自ら、彼らを出迎えることにした。

 開拓地が貿易を行っている、最も親しい貴族なのである。

 紋章を作る話や、王都への旅の行き帰りで世話にもなっている。


「ようこそ、開拓地へ。突然のお越しだが」


 私が声を掛けると、御者が降りてきて一礼した。

 馬車の扉が開かれる。

 その中から、恰幅のいいヒゲの男と、真面目そうな眼鏡の女性が降りてきた。

 ロネス男爵本人と、彼の側近であるメイドである。


「なんと、ご本人が来られるとは」


「やあやあ、ビブリオス準男爵! 貴君、久々だなあ! 元気にしていたか!」


 ロネス男爵が大きく手を広げ、私に向かってきた。

 ふむ、この作法としては、私も手を広げるべきなのだろう。


「ええ、元気ですよ。男爵もご健勝な様子で」


「おうおう。今は再会を喜び合おうではないか!」


 軽くハグして、背中を叩き合う。

 背後で、


「あれが人間の作法か? よく分からん世界だな」


「兄さん、あれが友情ってやつよ!」


「相手がふとっちょのおじさんだと絵にならない……ごほん。親しきことは美しきことだと地母神もおっしゃっておられます」


 トーガとシーアのやり取りはともかくとして、どうして神官のサニーが反応しているのだろう。

 私たちの横では、ナオがメイドと会釈しあっていた。

 男爵は私から離れると、案内を要求した。

 立場的に、私が彼を開拓地に招き入れねばなるまい。

 私は彼を先導して歩き出す。

 道すがら、ロネス男爵が話しだした。


「突然の訪問、迷惑をかけるな。だが、使者が上手くこちらまで辿り着けなかったのだよ。いやはや、開拓地の守りは完璧だな。少人数では荒れ地を抜けることもできん。おかげで、おれが直接来ることになった。ワイルドエルフは、話せば分かるのだな? 紋章を見せて、俺が準男爵の友人であることを説明したら通してくれたぞ」


「そこは男爵の人柄と、胆力の賜物でしょうな。して、今回の訪問の理由は」


「おう、それよ。おれが与する派閥は、サッカイサモン公爵のそれなのだが、貴君、公爵に喧嘩を売っただろう」


「売ったつもりはないのですがね」


「そのつもりはなくても、言い分が跳ね除けられたら喧嘩を売られたと判断するのが貴族というものだ。面子を何よりも大事にするからな。なので、これはその注意のための来訪だ。だが、それは表向きの理由に過ぎん」


「ほう……。では、実際の理由は」


「遊びに来た」


「ほう」


「ほう、ではないぞ。貴君、おれがここに来たいと言っていたのを覚えているだろう。そして貴君は断る素振りがなかった。これは来てもいいということだろう。だから来たぞ。全ての執務を前倒しで片付けてな」


「前倒しで!?」


 私は衝撃を受けた。

 本場の貴族からすると、恐らくは少ない量であろう執務でぐったりする私である。

 そんな作業を、男爵はここに遊びに来るために、さっさと片付けてきたということか。

 ロネス男爵という男を、私は見誤っていたのかも知れない。


「いいか。貴君、その様子では書類に真面目に目を通しているだろう。だがそれでは体が持たん。かと言って手抜きをしては重要な報告を見逃してしまう。貴君が馴染んでる論文やら学術書と違って、おれたち貴族が処理する書類には書式があるのだよ。つまり、半分は飾りのようなものだ。中にある重要な一文だけ流し読みすればいい。後でそのやり方を教えてやろう」


「ありがたい……!」


「つまらない仕事はさっさと片付けろ。そしておれの観光案内をしてくれ!」


 ロネス男爵の本音が出たのだった。

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