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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第四部 開拓、陰謀、ドラゴン!
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99話 地竜飛び立て計画と進捗

 魔力を集め、地竜に食べさせる。

 これは一見すると大変なことのようだが、実はやり方の手がかりは既に掴んでいる。

 問題は、この方法は森の魔力を使用するため、ワイルドエルフの許可をもらわねばならないところなのだが。


「おお、構わないだろ。人間どもが精霊力を使うのは論外だが、地竜ならば長も許可するだろう」


 トーガがあっさりと許可してきた。

 周囲のワイルドエルフも頷いているから、どうやら彼らにとって、地竜に魔力を与えることは問題ではないらしい。

 ちなみに、ワイルドエルフの言葉では、魔力は精霊力と言い表される。


「ドラゴンとは、我々精霊を祖に持つ種族にとって、お前たちが言う神に近い存在だ。そういう存在に捧げるために、精霊力は森を巡っているのだ。むしろ本来の使い方だぞ」


「私たち、深き森の民の考えも同じだわ。むしろ、私が生きている内に、ドラゴンに精霊力を捧げられるなんてとても光栄……! 今度みんなも呼んできていい?」


 ローラの了承も得られた。

 むしろ、深き森の民の頭数が増えそうな勢いだ。

 さて、そうなれば作業開始である。





「今回のプロジェクトのメインは、ガーシュイン殿の作り出す小型の神にある。あれは効率よく魔力を集めるシステムだ。ある程度まで大きくした神を、そのまま地竜に食べさせる方向で行こう」


 ガーシュインの研究室に、プロジェクトのメンバーが集められた。

 まずは、私。

 こんな面白そうなことを見逃すつもりはないのだ。もちろん、ナオも一緒だ。

 そしてガーシュインに、助手のアマーリア。

 遺失魔法を用いた研究を行なっている、トラボー殿。

 ワイルドエルフを代表して、事の秘密を知っているトーガとシーア。

 クロクロと、地竜の巫女の資格を持つクークー嬢。

 特別ゲストとして、深き森の民からローラを迎えることになった。


「ジーン。神が精霊力を食うのはよく分かるが、あれをそのまま使っては、例の事件の首謀者がここにいるということが知れ渡ってしまうぞ。その男は生きてはいられまい」


 トーガが指摘してきた。

 その通りである。

 神にまつわる事件は、ワイルドエルフが人間と決裂した決定的なものだ。

 そして最近起きた、ガーシュインによる戦神を呼び出す事件。

 これはまだ記憶に新しい。

 故に、神を用いるとしても、これを通常通り運用する方法ではいけない。


「魔力を集めて、集積するだけなら我輩に任せておけ。だが、己の足で歩かせようと考えれば、自ずと神と同じ見た目になってしまうぞ」


 ガーシュインの言葉に、私は深く頷いた。


「そうであろうと思っていた。だから、私は備えていたのだよ。こんなこともあろうかと、な。トラボー殿、例のものは完成しているかな」


「うむっ。面白いものを発注してくると思ったが、やはり面白い使い方を考えるなジーン殿は。無論完成しているとも。遺失魔法の力も借りたゆえ、既存の建築技術では補えなかった強度の部分も克服したぞ。まさかシャドウストーカーの技術で、機材を擬似的にゴーレム化することで生体としての強靭性を持たせることが可能だとはな」


 ナオの師匠である、建築の賢者トラボーは、鼻息を荒くした。


「なんと!? そんなことが……。後で詳しく」


「よし」


 私とトラボー殿がニヤニヤしていたら、ナオが我々の脇腹をつついた。


「ぐわっ」


「ぬわっ」


 我々賢者の弱点である脇腹を、的確に突いてくる。


「ふたりとも、お話をすすめましょう! えっと、じゃあつまり、どういうことなんですか?」


 恐らく、この場にいる大多数の者の総意であろう疑問。

 これをナオが口にした。


「我輩が、神を泥団子状にして作り出す」


「俺が作ったのは、大型の弩砲……つまりバリスタだ。こいつで、神とやらを撃ち出す。地竜にぶつけてやればいいんだな?」


「そうなる。技術面で我々人間が可能なのはここまでということになるだろう」


 それでは、その技術的なものを見に行こうという話になった。


「組み上がった模型が既にここにある」


 トラボー殿に案内され、我々は開拓地の外れにやって来た。

 荒れ地との境界線ギリギリに、いつの間にか森の飛び地ができている。


「これはエルフたちに協力を願ってな。森をそのまま持ってきた」


「人間なのに、よく我々の協力を取り付けたな……!!」


 トーガが驚く。


「そうだよねえ。血が混ざった人は別だけど、トラボーって純粋に人間なんでしょ? ちょっと顔が怖いけど」


 最後の一言はシーアの感想であろう。

 これに、トラボーが深く頷いた。


「俺のことを、オークかトロルとの混血だと思っているらしいぞ。おかげで助かったがな」


 トラボー殿の言葉に、我々一同、なるほどと思うのである。

 確かに彼の顔は大変迫力がある。

 人間の範疇には収まらないかも知れない。


 彼は自らの顔を利用し、ワイルドエルフの手を借りることができた。

 そして、一見して森の飛び地に見える丘を作り上げたということなのだ。

 丘には木製の大きな扉がついていた。

 これを展開すると、トラボー殿の研究室が一望できるようになる。

 無数の木工細工があちこちに置かれ、今もゴーレムたちがせかせかと走り回っている。


「おう、これだこれだ」


 トラボー殿が、入口近くに置かれた奇妙なものに向かって行った。

 それは、弩砲と言うにはずんぐりしている。

 射出口が、矢を放つようにできていないのだ。

 むしろ、スリングショットに近いかも知れない。


「帰ったぞ!」


 トラボー殿が声を掛けると、弩砲がくるりとこちらを向いた。

 一同、ギョッとする。

 トコトコ歩いてくる弩砲。


「はっはっは、可愛いやつだ。よしよし。シャドウストーカーの技術を応用してな。魔力を込めた例の粉を練り込んだ素材を要所に使っている。そうしたらこいつは、ちょっとした自我があるようでな」


 弩砲を撫でるトラボー殿。


「だが、このサイズじゃまだ足りんだろう。ガーシュイン殿が作る神の大きさにあわせて、こいつをスケールアップさせるぞ」


「驚いた……。だが、本気でやるつもりなのだな。我輩も気合が入るというものだ」


 ガーシュインが腕まくりした。


「旦那、嬉しそうだなあ」


「おう、まさか、我輩の遺失魔法のために皆が手を貸してくれるとは思わんかったのだ。そしてこれほどのものを用意されてはな。行くぞアマーリア。弩砲で飛ばされるなら、なるべく遠くに飛ぶ形がいいだろう。そして地竜が飲み込みやすい形だ。研究しなければならんぞ!」


「はいはいっと。んじゃ、兄貴、ナオ、あたしはこれから忙しくなるみたいなんで!」


「頑張ってください、アマーリアさん!」


 ナオがアマーリアとハイタッチする。

 そして、遺失魔法を扱う二人は研究室に戻っていくのだった。


「で、ジーン、このくらいの作りでどうだ? いけそうか?」


 トラボー殿が、弩砲の仕上がりについて私に尋ねてきた。

 作品としての出来ではない。

 それについては、建築の専門家である彼の方が詳しいだろう。

 作戦に対して、この弩砲の作りで問題ないか、という質問である。


「ああ。問題は無いように見える。だが、ここは射撃の専門家に聞かねばなるまい。トーガ、どうだね」


「ふん、人間にしてはよくやるようだが、一度射撃をしてみなければ何とも言えんだろう。トラボーよ、外で一発ぶっ放すぞ。そいつを連れ出せ」


「兄さん、口ではああ言ってますけど足取りとかめちゃめちゃウキウキしてる」


「うるさいぞシーア!」


 ということで、トラボー殿とトーガ、シーアが去っていった。

 さて、お次は……。


「先輩、そう言えば疑問なんですけど」


 ナオが挙手した。


「うむ、なんだね、ナオ」


「地竜は、繭に包まれて眠っている感じですよね。どうやって直接魔力を食べさせるんですか? 体の表面から取り入れるとか?」


 すると、クークー嬢が口を開いた。


「クチ、タベル、イチバンイイ」


「なるほど。つまり経口摂取が望ましいわけだな。では、ここからは諸君の出番になる。クークー嬢、地竜と対話し、こちらに顔を向けさせ、口を開けさせて欲しい」


 頷くクークー嬢。


「地竜を覆う土が邪魔だが、これについてはワイルドエルフの協力を得ることにしたい。どうだろうか、ローラ」


「ええ、やらせてもらうわ。むしろ、こんなイベントは千年に一度だもの。深き森の民を集めて取り掛かるわよ」


 試練の民に比べて、深き森の民は行動的なのかも知れない。

 こうして、いよいよ計画は動き出した。


「ナオ、我々も忙しくなるぞ。手乗り図書館で、状況の進捗を記録していかねばな。ああ、ますます書類仕事をしている場合ではなくなってしまった。参った参った」


「先輩、たまにはカレラさんたちを手伝ってもいいと思います!」


 ということで、我々も執務室に戻るのだ。

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