信長現る
「おーい、時暮さんー!」
「なんだクルミ、こっちに来てたのか」
「はい。悲鳴が聞こえましたからね。大丈夫でした?」
クルミは若干息を切らしている。相当な距離を走ったのだろう。そして、さっきまでと違って、クルミはまたぎこちない敬語に戻している。
「紹介するよ。こいつは俺の旅仲間のクルミ。そんでこっちが、さっき襲われていたお線さん」
「よろしくお願いします」
「ん、よろしくね」
さて、二人の挨拶も済んだことだし
「じゃ、行こうぜ」
「どこにですか?」
「助けてもらったお礼に私の家に寄っていくんです」
「そ、まあついて行きますよ」
それから数分間歩いていると、ちょっと離れたところから馬の蹄のような音が聞こえてきた。周りの人々は全員土下座をしている。
「新さま、早く頭を下げてください……!」
「え、なんで?」
「信長様が来るんですよ……!」
おお、そりゃ好都合。しっかり話し合えるチャンスだな。
「そこの女」
「は、はいっ!」
「この米はお主が作ったのか?」
「さ、左様でございます」
「ふむ……なかなかの出来栄えじゃ。これからも精進せよ」
そのような会話が聞こえてきた。男の声の方が信長か。結構なイケボだったな。というか、遠目に見えてるんだけど、信長の頭……
「禿げてないじゃん!?」
「ど、どうしたんですか!? 新さま?」
「急に大きい声出さないでくださいよ、禿げてないって何がですか?」
「信長の頭だよ! だって信長の肖像画ってあれじゃん! トレンディな天使さんじゃん!」
「トレンディな天使さんってなんですか……でも、禿げてないのにはボクも驚きました……」
——この時代の上の方の位の人は大抵トレンディな天使かと思ってたんだけどな……これは新しい発見だ。さて、どう話を切り出そうか。にしても信長って結構なイケメンだな。俺の遠目から見たら女子に見えなくもない見た目とは違いが大きすぎる。でも、ちょんまげはちゃんとあるんだね。
「そこの二人! 何故頭を下げぬか! 無礼者とみなし首を切り落とされたいのか!」
新がそんな馬鹿げたことを考えて突っ立っていると、猿っぽい見た目をした人に怒鳴られた。
おっと、お線さんが言っていたのはそういうことだったのか。
「すみません、先程この辺りに来た旅のものであって、この辺りの風習はよくわからないのです。今回は見過ごしていただけないでしょうか?」
これで通用するなら苦労はないよね。
「そんなことさせるか!」
「まあ待て、話を聞こうではないか。お主らは旅のものと申すか、ならばどこから来たものか申してみよ」
なるほど、そう来たか。俺が住んでるのは埼玉だけど、未来だからな……えーと、埼玉って今の時代だとなんて言われてるんだっけ。確か、武蔵だっけ……
コンマ数秒でそこまで考え、即座に信長の問いに答える。
「未来の武蔵国から参りました」
「武蔵はわかるが未来とはどういうことだ。未来ということは先の世がわかるのだな?」
「俺はこの時代から450年程先の日本から来ました。あなたの未来も日本の未来もわかります」
「ほう、ならばワシが天下統一できるのか教えてもらおうか。嘘をつくようものならばお主らが自らの時間に帰れないと思え」
どうしようか。織田信長は天下統一はできない。それを言ったら信長には許されても周りの家来に何をされるかわからない。そもそも、未来なんて変わってしまうこともあるんだ。
「このままの時間軸で進めばの話だけど、信長様は天下を取ることはできません」
「何を申す! 信長様が天下を取れぬなど、無礼極まりないぞ!」
あーあー、いちいち吠えるなうるせえな。そっちが聞いてきたから答えてやったのによ。クルミも何か言い返してやれ……
「うーうー……」
クルミの方を見てみると、何故か新の背後にすっかり隠れて、小刻みに震えながら唸っていた。
「なんで俺の後ろに隠れて震えながら唸ってるんだよ……」
「だ、だって〜……殺されちゃうんですよ?こうなっても仕方ないじゃないですか……」
——時空ボスを一人で倒した人が何言っちゃってるんですか!? その辺を彷徨いてる雑魚にもギリギリのところな俺がこんなに落ち着いてるのにさ!
「ちょっと落ち着け。この感じだったら上手いことやり過ごせそうだ。運が良ければ城に入れてもらえるかもしれないぞ」
「ほ、ホント? ……新、それって私を落ち着かせるためについてる嘘じゃないよね……?」
「ホントだ。俺のこれまでのRPG経験をなめるなよ」
そう、これまでこの手のRPGゲームではこの感じだと「ほう、では何のために来たのか聞くために城へ来るが良い」ってなるはずだ。──という新の望みの一つであった。
「二人で何をコソコソしておる。ワシが天下を取れぬと申すのだな? 理由を聞きたいとこじゃが、それはやめておくとしよう。ワシはワシの力で時代を変えてやるわ、わはははは!」
高笑いしながらすごい宣言されましたね。
「それに、ワシはお主らに興味を持ったぞ、いかにしてここへ降り立ったか、その目的は何か聞いてみたいものじゃ! ハゲネズミ、こいつらを我が城へ連れていくが良い」
ハゲネズミ呼ばわりされた人は、「はっ」っとか言いながら俺たちを連れていこうとした。というか、本当に城に入れてもらえるのか……適当に言ったのに現実になるとは……そういやお線さんのこと忘れてた。一緒に連れて行っても大丈夫かな?
信長にお線を連れて行っていいか確認する為にハゲネズミが進む中、少し足を止める。
「ああ、すみません。この娘も連れて行っていいですか?」
「お主らがこの娘を連れていかなければ来ないと言うならば構わぬぞ」
そこまでじゃないけど、ほっといたら可哀想だしな。
「ありがとうございます。よし、クルミ、お線さん、清洲城まで行くぞ」
二人はほぼ同時に頷いた。そして、再びハゲネズミの先導で清洲城へと向かうことになった。……はずだが
「あ! 豆腐急いで置いてきます! すぐに追いつくので先にお城に行っててください!」
というわけで、一度お線と別れた。