初タイムトラベル
「それで、時空を越えて世界を救うんだろ? 最初はどこなんだよ」
「えーと、今調べてみますから」
「調べるってどうするんだ? やっぱりそのウインドウウォッチで調べるのか?」
「はい。ここの時計のアイコンをタップして、そこから時空の層っていう項目を選ぶと、こんな感じの層が出てくるですよ。これは1億年ごとですね。一回タップすると1000万年ごと、次が100万年という風に0がひとつずつ消えていくんですよ。それで、この中にある赤と青の点がありますよね?この赤の点がボク達が今いる時空で、この青い点が時空ボスのいる時空ですよ」
「そうなのか……それで、時空ボスってのはどこにいるんだ?」
時空の層は、建物を縦に切ったかのように数百層が重なっている。キラキラ光って綺麗だ。──にしても、この様子だとそう遠くない時空に時空ボスはいるみたいだな。えーと、今は百年毎だっけか。んで、赤い点のある層から五つくらい上だから……
「えーとね、1560、70くらいの年代にいるみたいです。丁度織田信長が力を持つくらいの時代ですね」
「戦国時代ってことか! それは楽しみだな」
俺は小学生の頃に戦国時代を中心に伝記をよく読んでいた。そのためか歴史人物には大いに興味がある。そして最初が一番好きな戦国時代とは、運が最底辺と言っても過言ではない俺にとってはラッキーなのかもしれない。ちなみに、一番好きな武将は真田幸村だ。
「へぇ、時暮さんって、戦国時代好きなんですね。けど、時代が時代だから、結構厳しいかもしれませんよ?」
「問題ない!」
そう、俺はついさっき剣士になったんだ。それにゲームで培った知識があるし、運動も一応できなくはない。ついでに勉強はできるから、戦法を考えて戦うのも悪くないな。
「さて、それじゃあ時空を越えて世界を救いに行きますか!」
「あ、待って。念の為ボクと一戦交えておきましょうよ。なんせあなたはついさっき剣士になったばっかりですから」
「俺に勝てるとでも思ってんのか? その自信、へし折ってやるぜ!」
♢
……あっさり負けてしまった。これは何かの間違いだ、間違いであってくれ!
「ちょっと弾いただけで体制崩してコケちゃうなんて……これじゃあ心配にも程がありますよ……でも、もう時間が無いから行きますよ」
「え、時間制限とかあるの?」
「はい。さっき過去の時間軸を変えられたところですから、今はいくつものパラレルワールドができてるんです。でも、時間が経つとそれが一つになっちゃって現状を変えることが困難になっちゃうんですよ。だから、一秒でも早く戻さないとみんな死んじゃったまま蘇らなくなるんです」
嘘、まじかよ……この能力で時空ボス倒せとか無理だろ……
新は、いきなり剣士人生をくじかれたような挫折感を味わっていた。
「どのくらい時間ある? できれば特訓してほしい」
「ちょっとその時間はないですね。まあ、戦国時代に行ってそこにいるモンスターと戦って経験を積むしかないですよ」
「そんなー……」
仕方ないか。とにかく今は過去に行ってなんとかするしかないよな。
なんとか新は決意を固め、過去に行くことを決めた。
「よーし、それじゃあ行きますよー」
そう言ってバイク型タイムマシンに跨るクルミ。俺はどこに乗ればいいのかな。
「何してるんですか? 早く乗ったらどうです?」
「どこに乗れってんだ?」
「ボクの後ろに乗ってボクに掴まっていればいいよですよ」
「できるかんなこと! 女子がに掴まれって!? お前はどうも思わないのか!?」
「そうは言ってもそれしかないんですから。それに、女子を殴るのは問題ないって言ってた人が今更何言ってるんですか?」
「いやだって……女子を殴るのと女子に掴まるとじゃやっぱり状況が状況じゃないか。ここは俺が操縦するよ。これでも運転操作系のゲームもしたことあるんだからな」
確かにプレイはしたことはある。あるにはあるんだけど……免許もなく、しかもいきなり二人乗り。でもやるしかないよな。
「わかりました。ほら、早く操縦入ってください。操作方法教えますから」
「そうだ、運転操作の仕方の前にさ、他のことについても色々聞かせてくれよ。特にこの腕時計とかを中心にさ」
「あー、うんわかりました。いいですよ。えーと、この腕時計のことですよね?」
「ああ、この中にあるステータスっていうのが気になるんだよ」
人間にステータスをつけれるのか? もしかして飾りとかじゃないよな? スキルスロットまであるし……さすがにこれは飾りだよな?
「えーと、ステータスはその日の自分の筋力や体力、体の状態を数値化したりアイコンとして表示されますよ」
「なるほど。それからこのスキルスロットはなんなんだ?」
「それはね……単に飾り付けで付けてるだけって聞かされていますよ」
「つまりは飾りってことだよな。にしては、随分とリアルに再現されてるな。えーと、ん? このスキルって魔法か?」
「ん? バースト・フレイム? なんか普通な魔法ですね……でも、習得はできるだろうけど使用は無理じゃないでしょうか。異世界の特殊な能力がないと魔法は使えないって聞きますし。例外はあるみたいですけど」
例外なんてあるのか。それは気になるな。
「その例外っていうのはどういうやつがなれるんだ?」
「えーとですね、基本的にものすごく強い人とか、なんかものすごく秀でた能力を持つ人ができるみたい……」
なんだ?語尾がちょっと怪しい……ような?
「お前、何か省いてるだろ?」
「そ、そんなことないですよ! ちゃんと全部話してますって!」
そうには見えない。けど、あまり追い詰めるのもよくないか。この辺りでやめておこう。にしても、もしこのスキルが使えるならばこの先の戦闘では役に立ちそうだな。
新はウインドウウォッチのストレージをしまい、次にタイムマシンについての話に入った。
「それで、このタイムマシンについてはどうするんだ?」
「えーと……このボタンを押す。そうしたら、ここにこの腕時計に象られた穴が出てくるから、そこに時間の層で時空を設定した腕時計をはめ込む。あとは、ボクと君が乗って、ここのレバーを上にあげる」
「こうか?」
操作を一通り終わらせてレバーを上に上げてみる。すると、透明な膜みたいなものがタイムマシンの周りに張られた。
「うお、なんじゃこりゃ。この膜すり抜けられないのか?」
「当然ですよ。これは安全のために付けられた機能なんですから。1世代くらい前のタイムマシン完成当初はですね、この膜がなくて、搭乗者が何人もワープホールの中に振り落とされて、時空の狭間に残されたり、目指していたところと違う時空に迷い込んだりしたんですよ」
そんなことがあったのか。この膜は張って正解だな。
「そんじゃ、一通りの作業も教えてもらうことも覚えたから、あとは戦闘慣れして、とっとと時空ボスを討伐してみんなとワイワイ暮らしてハッピーエンドだ!」
「そう簡単に行くでしょうか……」
「そういうこと言うなよ、折角無理やり上げたテンションが落ちるじゃねーか……」
「ああ、ごめんなさい。無理やりだったんですね」
苦笑いをしてなんとか誤魔化そうとしている。ちょっと言ってやりたいとこだが、時間が無いからやめておこう。
新は気合いを入れ直すために、一度両手で両頬を叩く。急な音にクルミが軽くビクッとなっていたが、気に止めない。ハンドルに触れると、数秒後にエンジンがかかった。どういう仕組みかは分からない。
「それじゃ、戦国時代の時空を戻しに」
「「タイムスリップ!!」」
タイムマシンを発進させる。その瞬間、眩い光が差した。反射的に目を瞑ってしまった。