タイムマシン
目を覚ますと、そこには黒髪黒目の青色の動きやすそうな服を着て、右腰辺りに剣を刺している少女がいた。俺よりちょっと年下ぐらいだろうか。まあ、動きやすそうと言ってもすごく短いミニスカートではあるが。
「痛!」
右腕が凄く痛む。そこから未だに熱を感じる。──そっか、あれ、夢じゃなかったのか。
「動いたら痛いのは当然ですよ。浅めの傷で良かったですよ」
透き通った声がした。この子の声ということは確実だな。でも、どこか敬語がぎこちないような……
「助けてくれたのは君か、ありがと。して、君は誰なんだい?」
「どういたしまして。ボクはそうですね……クルミとでも呼んでくれればいいですよ」
クルミはそっと微笑んだ。ボクっ娘か、初めて見るな。
「偽名?」
「違いますよ。本名です」
目が泳いでいる、黒ですねこれは。
「ま、どっちでもいいけどさ。治療も君がしてくれたの?」
「はい。簡単な応急処置ですが、多分大丈夫だと思いますよ。あなたに死なれたらボクも困りますから」
初対面なのにどこに困ることがあるんだ?今のクルミの言葉に、新はそんな疑問を持った。
「ねぇ、ボクが200年後から来たって言ったら信じますか?」
「からかってんのかっつって殴る」
「……相当な暴力派なんですか? 怖いですよ」
「別に問題ないだろ?」
「おおありですよ!」
そんなことはどうでもいいんだ。200年後ってどういう事なのか聞いてみるべきだな。
「んで、そんなこと聞くって事は本当に200年後から来たんだよな?」
「信じてくれるんですか!?」
「証拠があれば信じてやってもいい」
200年後を垣間見るチャンス!
「これでどうです?ヒアユーアー」
「腕時計? これのどこが200年後なんだ?普通のデジタル式電波時計じゃねーか。電波来てねーし」
「電波は来てなくて当然ですよ。200年後のものなんですから。でも、そんなこと言っていられるのも今のうちですよ? ここをこーすると……」
——なんだ? 画面をタッチした?
チリーンという音を立てて、ゲームでよくあるステータスウインドウ的なのが出てきた。200年後ではステータスウインドウは一般的らしい。
「何それすごい。俺にもくれないか?」
「いいですが、税込500円ですよ?」
やっすいな! 今より安いとかどれだけお買い得なんだ200年後は!?
「っと、換算忘れてました。200年後で500万円のことですね」
「高いなおい! 200年後の日本どうなってんだよ! 経済不安定にも程があるだろ!」
「それがですね……200年もあるとその間に戦争とか貿易摩擦とかが起きちゃうじゃないですか。それが原因ですごい経済不安定なんですよ。これを買うにも一苦労……」
なるほどなー……じゃあ買うのはやめた方がいいかな……
「まあ、そんな物を見せられたら少なくとも現代人ではないと納得するしかないかな。この時代にそんなものがあったら驚きだしな。それからさ、どうやってタイムスリップしてきたんだ? そこはとにかく重要だと思うんだ」
俺もちょっと興味があるからな。とにかく聞いて構造調べて俺が作ってやる……そんなことは無理か。俺にそんな技術があるとも思えないし……
新のふざけた一人思考ツッコミにはクルミは気付かず、そのまま話を進める。
「えーと、ちょっとまってくださいね。今タイムマシン取り出しますから」
すごい、青色のたぬき……もとい、ネコ型ロボットかな。タイムマシンってどんなんだろうか。
クルミは、ウインドウを操作しだした。二、三度タップしたところで、クルミのすぐ脇にバイク大の大きさはありそうな光が出来る。その光は少しずつ薄れていき、最終的にそこに残ったのは、大きさの例として挙げた、バイクそのものだった。色は多少変なところはあるが──全体的に黒いのだが、所々赤や黄色や青や、その他諸々いろんな色がある。そして、ハンドル部には謎の穴と、レバーが付いている──、まあ、ちょっとヘンテコなバイクと言っておこう。
クルミは取り出したバイク型タイムマシンを操作し始めた。
「そんな風に取り出すんだな。ってことは、着替えとかも可能なのか?」
「はい、できますよ。見せてあげましょうか?」
「いいのか? じゃあ頼む」
そう言うと、タイムマシンの操作を中断してウインドウを操作し始めた。すると、クルミの体が光に纏われて──おい、これって一瞬服が消滅しちゃうやつじゃないのか!?
新は慌てて目を手で塞いだ。──これ、やばいこと頼んじまったかな……
「何してるんですか?」
「いや、お前が服脱いだんじゃないかと思って……」
「何言ってるんですか? 普通に服を戦闘用から私服に替えただけですよ。ちゃんと着てますから安心してください」
どんな表情で言っているのだろうか、もし、ここで嘘をついているのなら陵辱してやろう。
「本当に着てるんだな? 見てから着てなくてキャーヘンターイ! 的な展開起こんないよな!?」
「大丈夫ですよ。詮索しすぎです」
よし、なら見てしまおう。
「じゃあ、見るぞ」
「どーぞ」
新はそっと手を目から離していく。そしてそこには、さっきまで青色の動きやすそうだった服装が、ピンクの可愛らしいセーターにグレーのタイツ、そして、黒の膝くらいまでのスカートを履いているクルミの姿があった。
「お前、そんな服着るんだな。意外だよ」
「可愛らしい服着たらダメなんですか? ボクだって一端の女の子なんですよ」
「というか、急に前振りもなく着替えるなよ。露出狂の変態ロリっ子かと思ったぞ」
「あなたが着替えろと言ったんじゃないですか。こっちにばかり悪く言われても困ります」
——あれ? そうだっけ? こりゃあ、俺の記憶力やばいんじゃないか? いや、昔から記憶力は良くなかったけど……
新が何故ロリっ子と言ったか。それは簡単である。クルミの胸は、実にA、頑張ってBくらいであり、身長も175センチある新からすれば、150センチくらいのクルミは、ただのロリっ子である。実年齢はわかってはいないが。
「というか、か弱い女の子に向かってそんなことを言うんですか……というかロリじゃないですからね!? ボクこれでも14ですよ!?」
「か弱い女の子がどこにいるかはともかく、お前って14だったんだな。まあそのくらいだろうとは思ってたけどよ。つか、14って十分ロリ枠だろ」
「か弱い女の子ってこの場合ボク以外に誰がいるんだよ……」とかぼやきながら再びクルミはタイムマシンの操作を始めた。結構手際がいいな。
「はい、ちょっと危ないから一歩下がっててくださいね」
「あいよ」
何が起きるのだろうか。内心ものすごく楽しみだ。
ガシャガシャンという音を立ててタイムマシンが変形した。──すごい、そんなことできるんだ。でもどっちみちバイクのままなんだな。
「これが二人乗り用、でさっきのが一人用ですね。最大15人まで乗れるように出来ていますから。これで行き先を設定すれば、あとはワープホールを渡ってタイムスリップ完了です」
「へぇ……あ、そういや、一番大事なこと聞いてなかった。ここに来て俺に話しかけたってことは俺は何か使命みたいなのがあるんじゃないのか? あるんだったら俺なりに頑張るけどよ……」
そう、タイムスリップや異世界となると、必ずこういう場面に遭ったキャラクターはフラグが立ってなんらかの使命があるはずだ。
「まあ、あるといえばありますよ。あなたに完遂できるか、受けたいと思うかは別ですけど……」
「それじゃあ、まあ一応聞いておくよ」