冒険の始まり
──2023年、12月14日。有名なVRMMOライトノベルほど、VR技術が進んでおらず、デスゲーム事件などは起きていない。
俺の名前は時暮新、17歳高校二年。長く伸ばしすぎて、鼻先まであり、中二(病)時代の名残で、右側に少し曲がっている前髪が特徴だ。──ちなみに、中二(病)時代は、長さは同じだが、右目は完全に隠していた。今は隠れないようにしてはいる。
そして、今日も学業を終えドアノブを握ったところだった。
「ただいま……」
そう言いながらドアを開けた。いつものように妹の「おかえり」を待ってみたが、いつまでたっても返ってこない。
「なんだ、遊びに行ってるのか?珍し……い……?」
よくよく見ると、部屋がものすごく荒らされている。壁には所々に赤い斑点が……
「これって血? いや、ありえないよな、まさか……」
リビングを見回すと、そこには、妹が無惨に殺されていた。
「おい、つぐむ、大丈夫か?おい、返事しろよ!」
いくら呼びかけても妹からの返事が来ない。そっと腕に触れて脈を確かめてみると──止まっていた。
「嘘だろ……なんで、こんなことに? ……!?」
後ろから殺気めいたものを感じた。反射的に後ろを振り向くと、そこには、ゲームでよく出るウルフみたいなのがいた。
「お前がつぐむを殺したのか……」
返事はない、当然か……殺してやる……!
そう思ったのが伝わったのか、ウルフは新に向かって飛びかかっていった。
「うおああああああああああ!」
視界が歪む。頬を一筋の水が流れ落ちる。それは、目から発生したものだった。新は訳もわからず、とにかく鞄を振り回した。
ウルフはいとも簡単に避け、もう一度飛び上がり引っ掻きの体制に入った。
俺は反射的に鞄を持った右腕を盾の代わりにした。
「!?」
急に右腕に激痛が走った。ウルフの引っ掻きが当たったらしい。制服に赤いシミが広がっていく。
「くそ……こんなところで……」
……終わってしまうのか?
ウルフが再び襲いかかってきた。今度は噛みつきの体制だ。
「はは、さようなら俺の人生。さようなら、みんな……」
ウルフって、日本にまだいるんだ……生物学者はきっと驚くだろうな……
瞬時、目の前が赤く……否、黒く染まった。
「セア!」
そんな掛け声とともにウルフからギャウン!という鳴き声と真っ赤な鮮血が飛び散った。よく見るとウルフに向けて金属の煌めきが迸っていた。そこで新は気を失った。