確かに言ったけど
「生まれ変わったら、その時は貴方のお側にずっと。」
不治の病だから、一緒にいられない。
綺麗な私だけを心に残して、と告げて。
目元に薄っすらと涙を浮かべて。
今までギュッと握っていた、相手の胸元のシャツを名残惜しそうに余韻を持ってから、離して。
声に出さずに、口の形だけで「好きでした」と伝えて。
そう言って、目の前から立ち去った。
今思い出しても、我ながら見事な退場シーンだったと自画自賛。
そうして男と別れを演じた事ありました。
ええ、全て前世の私がやってたことですが。
でもねぇ、私だってやりたくてやってた訳じゃないんだけどな。
あの頃の私はお金が必要だったんだもの。
前世の私は孤児院で育ったってだけで、ロクな職業にありつけなくて。
顔はいいんだから、やっぱり娼館行きかなぁとちょっとやさぐれてた頃。
その時ちょっとした事から知り合ったお貴族様。
イタズラ心も働いて、彼にちょっと甘い夢を見せてあげて、お貴族様なりの苦悩とやらを聞いてあげたら。
ホイホイと美味しい食べ物やら、贈り物やらを貢いでくれた。
それに味を占めて、調子に乗って媚うってたらあっという間に小金持ち。
でも、私にだって、良心があるから。
彼に婚約者が居ることだって知ってたし。
だから、本気になる前に。
婚約破棄なんてしようと思う前に。
綺麗に目の前から消えたのに。
若い頃の綺麗な思い出になるように。
ちょっとだけ、思わせぶりな言葉を残して立ち去ったのに。
まさか、本気で、生まれ変わりを探し出されるなんて、思わなかったなぁ…。
私は今、なんか薄暗い地下室のやたらキラキラ光っている魔法陣の中で、尻餅をついていた。
目の前には1人の男。
こちらも無駄にキラキラしている。
そして、彼の顔を見た瞬間になだれ込んだ前世の記憶。
あれ?これマズくない?
私、とっても、マズくない??
サーっと血の気が引いて。
尻餅をついた格好で、ズリズリと後ろに下がったけど。
あっと言う間に抱きしめられた。
「マリア!やっと会えた。僕のマリア!!君に会いたくて、召喚の魔法陣を完成させたんだよ!」
「わ、わぁ、お久しぶりです。エミリオ様。まさか生まれ変わってお会い出来るとは…。まさか、魔法陣を完成させるとは思ってませんでした…。」
「召喚に必要な君の髪は、僕が前世から大切にこの手に持っていたんだよ。」
「わ、わぁ、わぁ…情熱的なのは変わらないですね。ど、どうやって私の髪まで引き継げたのでしょうか…あ、いいえ、教えて頂かなくても大丈夫です!」
「もう、君を逃がさない。これからの君の人生、未来全て僕のものだ。大丈夫、この国は僕のもの。先月やっと乗っ取ったんだ。」
「わ、うわぁ、前世ではいらないって言ってた国家権力持っちゃったのですね…。そして、先月乗っ取ったとか…あぁ、クーデター起こした英雄とか噂になってましたね。それ、エミリオ様だったのですか、そうですか…。」
次々とハグとキスを交互に贈られながら、前世の情報と今世の彼の情報を合わせていたら、ふと、エミリオ様が何かに気づいたようだ。
「あれ?マリア…君、小さ…い?」
そう、やっと気付いてくれたらしいけど、私今、6歳です!!
ぴちぴちの一桁です!!
そして、彼はどう見ても20歳超えてる。
下手すれば娘枠です。お父さんと呼んでも変じゃないお年頃です。
これで手を出されたら犯罪ですよ。
この差は多分、私が前世で長生き出来たからかなぁ?
平均寿命軽く超えてたんだよね、前世の私。
見た目は儚い系だったけど、憎まれっ子世に憚ってました。
そんな事はさておき、これはチャンスです。
前世の事は謝って、今世でこの年の差だと、約束守れないとわかっていただくしかありません。
「はい、私今、6歳です。」
「…なっ、6歳?」
「えぇ、ですから、前世の約束を守りたくても、この体では…。そして、前世では、申し訳ありませんでした。エミリオ様には、思わせぶりな…っふぎゃ!」
言い訳を綴ろうとしたら、再び抱きしめられたというか、ムギュッと締め上げられた。
「大丈夫、君の身体が僕を受け入れられる用意が整うまで、待てるから。たったの数年でしょ?大丈夫、今までどれだけ待ったと思っているの?先に逝った君をすぐに追いかけたかったけど、自殺したら生まれ変われないって君が言ってたし。だから、僕は…。」
「…エミリオ様…。」
あぁ、不治の病って嘘、信じてたんですね…。
すみません、めっちゃ私、健康体でした。
長生きしました。
良かった、エミリオ様自殺しなくて良かった。
だから、受け入れる用意とか、聞かなかった事にしていいですか?
「…でも、小さいマリアを一から僕色に染め上げられると思えば…それはそれで、美味しい…。」
エミリオ様の切ない告白と不穏な言葉と色々なものが混ざっている視線を感じ、これマジでヤバいと本能が告げている。
またジリジリと後ろに下がろうとしたら鋭い視線で射抜かれた。
「マリア、約束守って。ずっと側にいて。もう、僕の前から消えないで。」
優しく頬に手を添えられて。
目尻に軽くキスを落とされてから。
何か小声で唱えた途端、私の手首とエミリオ様の手首が細いチェーンで繋がれた。
「これで、もうずっと僕と一緒だよ。」
とてもいい笑顔でエミリオ様は言い放った。
確かに、前世の私は言ったけど。
側に居たいって言ったけど!!
…これは、違うんじゃないかな?
こういう意味じゃなかったと思うな。
細い金のチェーンを見つめながら、前世の自分を呪った。
彼のこと、決して嫌いじゃなかった。
私なんかに貢いでバカな男だなって思ってたけど。
ただ話を聞いて、ありきたりな優しい言葉をかけてただけなのに。
こんな女に騙されるなんて、なんて可哀想な男なんだろう。
安い言葉を間に受けて。
待って、望んで、最後はなんか病んじゃって。
…バカらしくて、愛しすぎて、泣きそうになる。
でも、まあ、これはやりすぎだと思うので、しばらくは、懐いてあげない。
だって、私まだ6歳だしね。