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導入

初投稿です。

始まりは小さなことだったんだろう。

世界があっけなく壊れた今になってはもうわからないけど、多分きっと。


18世紀半ばに産業革命が起きて、それからどんどん工業化は進み人類は進化していった。

今では宇宙旅行は人々にとって何の特別もない普遍的なものとなったし、月に移住している人も多い。

ちょっと前までは月まで行くのにもやっとだったって授業で習ったけど、笑っちゃうよね。

僕は地球で生まれて育ってきたからわからないけど、(向こう)での暮らしも地球(ここ)とそんなに変わらないらしい。


そうして人類はさらなる進化を遂げ、これからもそんな進化は続いて行くと思っていた。

もちろん、僕も。


僕が覚えているなかでの恐らくの始まりは本当に何ともないただのニュースだった。

学校に行く前に朝食のジャムを塗ったパンを食べながら何となく見てたニュース。

報道内容は家庭用の小さなお手伝いロボが故障して爆発したというもの。

幸いそのときは死者は出なかったみたいだけど、大きく取り上げられてた。

それも当然で、そういったロボットが故障したとしても動かなくなるのが普通。いいとこ熱を持って危険になるくらいで爆発なんて今のご時世ではありえないからだ。

そのときの僕には危機感なんてものはなかった。よくある痛ましい事故の一つで、一週間後には忘れてる。対岸の火事だ。

ニュースの内容が変わって興味が薄れた僕は、パンを頬張りながら家のアンドロイドをなんとなく眺めていた。

ここからきっともうすでに終わりは始まっていたんだと思う。僕らの気付かないところで。


それから、ニュースではロボットやアンドロイド関連の物騒な話題が頻繁に放送された。

当時はただの故障だって報道をされてて、僕も深く考えずにそのまま受け止めていたけど、今になってみるとあれは嘘だったんじゃないかな。

一つ一つはそんなに大したことじゃなかったけど、頻繁に続くとなると話しは違う。

陰謀論やら終末論とかの胡散臭い内容の情報がそこかしらから聞こえた。

人々は漠然とした不安を抱えていたんだと思う。もっとも、僕がそう感じたからなんだけどね。

実際、友人たちの間でもその話で持ちきりだったし、お前の家は故障しないといいなって茶化してたりもした。

そうでもしてないと不安だったから。


人々の認識が変わったのはある事件がきっかけだった。

あの始まりから数ヶ月後くらいだったかな。なんでもないただのバラエティ番組の生放送でアンドロイドが人を殺したんだ。

人類は進化してもエンタメとかコメディとかのそういった娯楽は変わらず残り続けた。

僕は学生らしくテレビを見るのが好きだったし、その日も端末で数ある番組の中からその生放送を見ていた。

雰囲気がおかしくなったのは番組が始まってからしばらくした後だ。

画面外が急に騒がしくなって、出演者の様子もおかしい。それから、すぐに乱入者が現れてその場で人を虐殺する様子がカメラを通して映し出された。

アンドロイドの中には人間とほぼ変わらない見た目のやつもいるし、まあ下世話な用途のやつもいるけど、だいたいはアンドロイドだと分かる機械的な見た目をしてる。

その乱入者は一目でアンドロイドだとわかった。わかってしまった。

その虐殺は5分くらい続いていて、画面が真っ赤に染まるのを僕はただ唖然と眺め続けた。

虐殺が終わって、そのアンドロイドがどこかに消え去ってからも、画面は無惨を晒し続け、配信は時間いっぱい続いた。

今にして思うと、あの配信が続いたのは"なんらか"の干渉があったんだと思う。その"なんらか"がなんなのかは僕にはわからないけど。


この虐殺をきっかけに人々の認識は不安から恐怖に変わったんだ。


それでも社会ってのは不思議なもので、僕は変わらずに学校に通ったし、父さんや母さんも変わらずに会社に行って働いた。

僕の家にいたアンドロイドはあの事件があった日に両親の手によってすぐさま電源を落とされ、倉庫にしまいこまれた。

それは当然のことだと思うし、僕も少なからず恐怖してた。ニュースではアンドロイドやロボットの電源を、念のため落とすようにと報道された。でもなんの罪も犯してないアンドロイド(あいつ)が杜撰な扱いをされてなんだか少し悲しくなった。

まあ結果的に僕がまだ生きてることを考えると、この判断は間違いじゃなかったんだろうけど。

あんな事件があっても社会は変わらなかった。だけど人々は間違いなく変わっていった。

人々はアンドロイドを忌避するようになった。一部では排斥運動まで行ったらしい。

今まではアンドロイドやロボットを用いた犯罪は絶対に行われなかった。専門的なことはわからないけど、そういった犯罪行為に対するセーフティが組み込まれてて、例えそれを外したところで機能停止になる仕組み。

だから人々はアンドロイドに責を求めた。

冷静に考えるとアンドロイドが暴走して人類に反逆しましたってより、なんらかの手段で悪意を持った人がセーフティを無効化しましたって方が理に適ってると思うけど、人に近い見た目をしたアンドロイドが虐殺する様を見てみんな冷静にはいられなかった。溜まった不安が一気に爆発したんだ。


明確な終わりの始まりはどっかの国にスペースコロニーが落ちてきたことだ。

生放送されるその映像を呆然と見るしかなかった。僕みたいな一般市民が事態の重大さを正しく知るころにはすでに取り返しのつかないことになっていた。

それからはあっという間だった。

外は殺人アンドロイドが我が物顔であたりをうろつき、無人機は見境なく建物を破壊していった。

あたり一面は赤く染まり、空からは流れ星のように綺麗な人工衛星が降ってくる。

奴らは抹殺とだけ繰り返し言葉を放った。

両親は死んだし、友人も死んだ。恋人はいなかったけど、好きだった人も死んだ。

地獄だった。

僕がなんとか生き残れたのはただ運が良かっただけだろう。

生き残るのが幸か不幸かは別として。

事態が困窮し混沌の最中、どうにか家の地下室にこもることができて、部屋の隅でずっと震えて過ごした。幸いにも非常食は豊富にあったから食べるのに苦労はしなかったけど、食欲なんか到底なかった。

抹殺は一月ほどで終息した。外からひっきりなしに聞こえた銃声や破壊音が止んだのがそれくらい。音が止んでから一週間が経ってようやく外に出てみるとあたり一面は酷い有様だった。戦争の後だってこんな徹底的な破壊はされないだろう。

あれだけいたアンドロイドは全てが停止していて、機械達は正常な活動をしている。まるで世界に僕だけしかいないように感じた。ひとまず延々と狂った機械から隠れ続けなくてもよくなったということだけが僕に残された希望だった。

どうして抹殺が終わったのかはわからない。もしかしたら勇気ある誰かが親玉を止めたのかもしれないし、実際のところまだ終わってないのかもしれない。でも少なくともアンドロイドは活動を停止して、異常な機械に街を破壊されることはなくなった。

長々語ってきたけどさ、結局、たったの一月で人類は再起不能なほど殺され……あっけなく世界は壊れた。

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