プロローグ
三人で集まるのはこれが四年ぶりだった。
帰宅ラッシュの満員電車をやっとの思いで降りると、葉菜子は鏡を取り出した。
普段なら鏡など見ることはない。
鏡の中の自分と目が合うと同時に、自分が酷く浮かれている気がして思わず鏡を閉じる。
何かいけないことをしている気がして慌てて鏡をバッグにしまうと、
葉菜子はひとり、ホームに向かって歩き始めた。
四年ぶり。
実に四年ぶりなのだ。
夏休みや春休み、前柳が東京に遊びに来た時、または自分以外のあのふたりで。
それぞれが各々のタイミングで顔を合わせてはいた。
けれど年月が経つうちに予定が合うことは少なくなり、ましてやそれが三人となるとほぼ不可能だった。
三人とも、どこかで無理矢理予定を合わせれば集まることが出来ただろう。
しかし誰ひとりとしてそうしようとはしなかった。
してはいけないような空気がそこにあった。
まだ三人で集まるときではないと、誰かにそう言われているようだった。
予定の時間よりも三十分もはやく待ち合わせ場所に着いたのに、そこには既に前柳の姿があった。
声を掛けるよりも先に前柳が顔を上げる。
「気合い入りすぎだろ。」
「そっちこそ。いつからいたの?」
「十五分にはここに立ってた。」
「気合い入りすぎでしょ。」
どちらからともなく並んで歩きだす。
いつも「久しぶり」なんて挨拶はしなかった。
変わらない空気感に、葉菜子は知らず知らずのうちに強張っていた肩を下ろす。
デートですかー?うちなんかいかがですかー?と声を掛けてくるキャッチに、
あーそういうんじゃないんですよーと律儀にも答えながら前柳が腕時計を見つめる。
「那津は?」
「先にお店向かってるって。」
「てっきりお前ら一緒に来るもんだと思ってた。」
「それを言うならヤナギはなっちゃんの所に泊ってるもんだと思ってた。」
「それは無いな。アイツ潔癖だし。」
「なにそれ、なっちゃんの家行ったことないの?」
「アイツが他人を家に上げると思うか?」
「無いな。」
「だろ。」
三人のうちの二人でいると、必ず居ない一人の話になった。
それ以外に自分のことや相手のことを聞いてはいけないような気がした。
きっとこれは、私が居ないときの那津と前柳も同じなのだろう。
三人をつなぐものは、あの三年間で止まっている。
何の変哲もない高校生活。
けれど、いつも私たちは三人でひとつだった。
今も変わらない想いを三人とも抱いている。
この四年間、誰ひとりとしてそれを伝えることはなかった。
「また三人で。その時話そう。」
あの時言った自分の言葉が、まるで呪いのように自分たちを縛っていると葉菜子は思った。
今日、それが終わる。
あの時の話をしたわけではない。
けれど忘れている訳でもない。
隣を歩く前柳の顔を見上げる。
どこか緊張した顔は儀式に向かう教徒の顔のようでもあった。
ひとつ静かに息を吐き出すと、葉菜子はあの三年間を思い浮かべた。
あの頃の想いは、今でも私達を縛り付けている。