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神様の端末としてのんびりまったり縁を結びます  作者: 愚true
第1章 覚醒の日
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(3)   覚醒

(だけど、彼女では無理だろうな)


そんな健気な護衛の騎士(ミルカ)の背を見つめながら、一方で大人であった記憶が入り交じった私の思考は、冷徹にそう今の状況を分析してしまいました。


いくら長閑な田舎領地だとはいえ、子どもたちの……言ってみれば世話係、保母役か小学校の引率教師程度の役割しか期待されてない任務に割り当てられているミルカは、そもそもそれほど剣の腕がたつほうではありません。

そりゃあ野犬などといったような野生動物の数匹程度なら、どうにか追い払うくらいの腕はあるかもしれませんが、鍛えられた身体つきで武器を持った複数の男たちを相手に、たった一人で子どもたちというハンデを背負った状況で戦って勝つことは難しいことでしょう。

それに騎士としての彼女に課せられた最大の義務は、この場では私を無事に守り逃がすということです。

ですが、そのためには最悪の手段として、他の子どもたちと彼女自身を生贄にすることを覚悟して行動することでしか達成することはできないでしょう。そして、そんな手段で達成することができるのだとしても、そんな方法は彼女に取ってほしくは無いし、私もさせたくありません。

かといって、自分も含め、全員で目の前にいる汚らしい人さらいたちに捕まるというのも受け入れられることではありません。

先ほどの人さらいどもの発言からも判るように、彼らに捕まれば子どもは違法奴隷として売り飛ばされることになるのでしょうし、少女として花盛りの年頃であるミルカや、私の背後にいる町の子どもたちのうち年長の少女たちなどは、さらに酷い目にも合うことが確実だと想像できてしまうのですから。


(となれば、やはり方法は一つしかない、ですね……どうやら、慎弥としての記憶と共に、女神アスファリアが施してくれると言っていた、加護とやらの効果もでてきているようですし)


覚悟が決まる。

(慎弥)としてやったことはないが、(ヴァルト)としてでなら鶏や豚では何度も経験済みの行為だ。

(慎弥)としては若干の拒否感情はあるが、(ヴァルト)としては、こういう場合はミルカや子どもたちを守るためにも、きちんとやるべきことだと知っていることです。

――そして、両者の統一人格となった今の私には、そういった行為に対する拒否感を抑えて実行することは十分に可能そうでした。

あとは、本当に能力的に可能か否か、ということですが……二つの記憶と意識が一つになり、加護のことを認識してからは身体が軽く、目の前で彼らの動きもあくびが出そうなほどに遅く感じていることから考えて、おそらく可能なことだと思えてきます。


(――気持ちも固まったことですし、それじゃ、やるべきことをさっさとやってしまいましょう)


そう決めて足を前に動かし始めます。


「借りるね、ミルカ」


そう言ってミルカの横を通り過ぎる際に、彼女の腰に差されていたものを、こっそりと抜き取らせていただきます。。


「あぁん、どうした餓鬼んちょ? 騎士様の後ろで怯えてなくて怖くないんでちゅ……」


あぁ、息まで臭い。

この大男は、歯もずっと磨いてなかったのでしょうか?


大男の前まで歩いていった私に対し、こちらを舐めきった大男はまったく警戒する様子などなく、無防備にも前傾姿勢になってガンをつけるような格好で威嚇しようとしてきたので、ミルカの横を通り抜ける際に拝借した、彼女の腰にあった短剣を持った腕を軽く横に振り抜く。結果、私の手に持つ馬鹿が言葉を言い終える前にその喉を切り裂いていった。


「なっ、ヴァルトさまっ!?…………ぇ?」

「…ぁ?……ひゅ……ゅ……」


そのまま斧男の真横を通り抜けて、斧男の背後でにやにやしてこちらのことを見ながら棒立ちになっている男たちのところへと向けて歩きだし始める。

斧男の真横を通過する時になって、ミルカが慌てた声を上げかけたようだったが、その声と同時に斧男が喉から血を噴出したのを見て固まった気配が感じ取れた。

その直後、斧男が地面に倒れこむ、どしんとした重い音が聞こえてくる。


「「「は?」」」


想定していない、というより状況が飲み込めていないからだろう。

その様子にそれまでにやにやとした笑みを浮かべてた斧男の仲間たちが一様に、ぽかんとした表情を浮かべて硬直している。

その男たちが発した間抜けな声が、静かな森の中にやけに大きく響き渡った。


「……ぁ? え??」

「へ?」

「……は?」


男たちが倒れ伏した斧男と彼らの所へと歩み寄っていく自分との間で視線を何度も行き来させているのが感じ取れる。

そして3人の男たちにあと2~3歩の距離まで歩み寄ったところで、やっと私が手に持っている、血がわずかについた短剣と、背後でびくんびくんと最後のけいれんをしている大男との関係が理解できたのか、3人の男たちは身体をぷるぷると震わせはじめた。


(あぁ、バカは状況理解も遅いんだよなぁ)


あと1歩のところまで近づいたところで、男たちが顔を真っ赤に染め上げ、小剣や手斧など、それぞれの武器を震える手に持ち、大きく振りかぶる。


「「「こ、このクソ……ガキゃぁぁぁ!!!」」」


3人が3人とも怒りに震える腕で手にした凶器を、私の頭に向かって叩きつけるように振り下ろしてくる。

だが、そんな大振りな攻撃が落ちてくるまでのんびりと待っていてあげる必要も、当たるようにゆっくりと動いてやる義務も私には無い。

まるで水の中で彼らが動いているかのようにゆっくりとした動きに見える視界の中、彼らが振り上げた腕を落とし始めた瞬間に、私は左端に居る男と真ん中に居る男の間へ跳び込むように勢いよく踏み込んだ。

そして踏み込むと同時に、手に持った短剣で左端に立っていた男の左の脇腹を撫で切り、そのまま跳びこんだ際の勢いを殺さないように身体を反転させて、身をかがめさせながら弧を描くように短剣を一閃させる。

それにより、こちらの一撃は狙っていた通り真ん中の男の右ひざの裏側を裂くように斬り裂き、一方、真ん中の男が慌てて振り返りながら放った逆袈裟切りの剣は私の頭の上の空間を無意味に通り過ぎ去っていった。


「いぎゃあ!?」


脇腹を斬った男は斬られた痛みに耐えられなかったのか、持っていた手斧を取り落とし、叫び声を挙げながら両手で脇腹の傷口を抑えてその場で転げだし始めた。


「ぎゃっ?! うわっ!」「なっ、おいっ!?」


右ひざ裏の外側副靱帯を斬られた真ん中に居た男は、斬られても剣を取り落としはしなかったものの、逆にそのせいで斬られたことで踏ん張りが効かなくなっていたところに剣の勢いがついてしまい、身体のバランスを崩して足を滑らせ、右端に立っていた男を巻き込んで地面へと倒れこんだ。


「どけ!邪魔っ……」


巻き添えになって倒れ込むことになった男が、乱暴に剣を持っていない方の腕をつかって真ん中にいた男を押し退ける。そして、たまったもんじゃない!と怒りの声を挙げながら立ち上がろうとしたが、彼はその言葉を言い終えることはできなかった。

何故なら、彼がその言葉を言い終える前に、私がその男の顔めがけて投げたミルカの短剣が、彼の眉間の間に深く突き刺さり、ぴくぴくと痙攣するだけの物言わぬ肉塊と化したからだ。


あとは簡単だった。

まずは投げた短剣の代わりに転げまわっている男が取り落とした手斧を持ち上げる。

わき腹を抑え涙目になってひぃひぃ言っていた男が、彼の前に立った私の脚に気付いてやっと顔を上げたのは、私がその頭めがけて手斧を振り下ろす瞬間だった。


優勢だった状況があっという間に一変し、ひとりぼっちになった男はパニックに陥ったのだろう。

地面に腰をつけたまま後ずさり、剣先を私のほうへと向けて「来るな!来るなぁ!!」と叫び、がむしゃらに剣先を振るってくる。

なので、望み通り視線だけを向けて近寄らないでいてあげると、鼻水を垂らし涙目になって怯えた顔をこちらに見せながら、どうにか手近にあった樹を支えにして立ち上がり、腱を斬られた右足を引きずりながら、背を向けてその場から逃げ出そうとし始めた。


そんな最後に残った男の始末まで私がする必要はないし、それでは後で護衛であるはずの彼女の立場が悪くなることだろう。

そう考えた私は、彼女の名前を口にする。


「――ミルカ」


必死に逃げようとしている男から視線を外さず、呆気に取られた様子でその状況を目にして身体を強張らせていた彼女は、名前を呼ばれたことでビクン、と大きな反応を返してきた。


「は………あっ!」


名前を呼ばれたことに一瞬、間の抜けた声をだしかけたミルカだったが、さすがに武芸をあまり期待されていないとはいえ騎士として訓練を受けてきた身ではある。

即座に状況を理解すると、逃げる賊へ向けて駆け出した。


「生かすな」


彼女が私の横を通り抜ける際に、念のためにと告げておく。

走る彼女の身体がその瞬間、一瞬ビクっと震えたのはきっと、彼女としては捕縛するだけのつもりだったのだろう。

けれど、あえてそう告げられたことで彼女も理解し覚悟を決めたのだろう。必死に逃げていた男が近寄る足音に気づいて振り返った時に見たのは、大上段から勢いよく振り下ろされる彼女の騎士剣の刃であったのだから。




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