表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/67

(1)   プロローグ:死んじゃいました。


――御堂 慎弥(みどう しんや)、高校教師。享年38歳。死因、刺傷による出血死。

それが俺の死ぬ前の、最後の記憶だ。


まぁ、死んでしまったことには後悔はない。いや、読んでた連載マンガの続きとか、録画したまま貯めこんでて視れてない積みアニメの中身がどーなってたのかとか、気になることはいくつかあるが……一番問題なパソコンのHDDのことに関しては、こういう場合のために一定期間起動しなければ自動的に初期化するプログラム組んで設定してあるからだいじょうぶだ。


(それに……とっさにかばった結果、アホな野郎のナイフに急所を刺されて失血死することになっちまったとはいえ、かばってなけりゃアイツが刺されてたんだしなぁ……)


そう自分が意識を失う寸前までずっと、涙目で慎弥の名前を呼んで身体を揺すってきていた教え子のことを思い出す。


高校教師だった彼は、自分の教え子の女子生徒からストーカー被害の相談を受けて彼女の家の傍まで送り届けていったところ、その問題のストーカー男が現れて慎弥のことを女生徒の恋人と勝手に勘違いして逆上された上、その男が取り出したナイフから少女を庇おうとして胸を刺されてしまった。

刺された直後に相手の男の顔面を全力でぶん殴ったところ、当たり所がよかったらしく、そのストーカー男が気絶し、直後に通りがかった人が慌てた様子で警察と救急に電話してくれてたので、おそらく教え子の方はだいじょうぶだろう。あとはあの子のトラウマにさえなってなければいいが、とは思うものの、さすがにそこまでは責任持てん。


――それにしてもここはどこだろうか。

あぁ、死んだな、と冷静に感じながら意識を失った直後、気がつけば前後左右上下、それら全周に満天の星々の煌きがある空間に自分は佇んでいた。

あの意識を失った瞬間に自分が死んだということは、死ぬこと自体は初めての経験のはずなのに感覚としてしっかりと理解することができている。

それこそ深呼吸をしたら口に空気が吸い込まれていくことを感じるくらいはっきりとした感覚でだ。

だから、実は自分は死んでいなくて、今見てるこれは夢か幻だ、などということはありえないということも理解っている。


「さて困った。こんな謎空間がもしかしてあの世なのだろうか?」


「いえ、違いますよ。

 ここは世界と世界の狭間の空間です」


「あぁ、そうなんです、か……?」


返事が来るとは思ってもいなかった独り言の疑問に、背後から解答が返ってきた。

あまりにも自然な声での返答だっただけに、一瞬の遅れてだれかが背後に居るということに気づき、ゆっくりと振り返る。


「はじめまして、えーっと……御堂 慎弥さん。お亡くなりになられた直後ですが、落ち着いていらっしゃるようで何よりです」


振り返った自分が目にしたのは、外見年齢中学生くらいの、銀の髪と金の瞳が特に印象的な、慎弥の半分くらいの背丈しかない小柄な美少女だった。

服装はギリシャ神話の女神が着ていそうな薄手の生地でできた白いミニドレスに、生地の向こう側が半透明状に透けて見える、これまた光を反射して虹色に輝く薄手の生地でできたケープを首元に巻いた姿で、足元は金地の蔓草模様がワンポイントになっているお洒落なブーツに白のニーハイソックスを合わせた服装であった。

そんな少女は慎弥に向かってにこりと微笑むと、白い紙片を裾から取り出し、


「あ、自己紹介しておきますね。私の名前はアスファリアです。

 慎弥さんがお亡くなりになるまで存在していた地球世界とは別のいろんな世界で創世の女神という仕事をさせていただいている者です」


――あ、これ名刺です。と言いながら、そのまま丁寧な作法で名刺を渡してきた。

あまりにも自然と出して来られたので思わず受け取り、その名刺へと視線を向けると、「多重世界創世神 あすふぁりあ」という文字が、丸文字っぽい可愛いフォントで記載され、空いているスペースにはデフォルメされた花やいぬの絵が添えられていた。


「はぁ、これはこれはご丁寧に……って、ええっと……ここがあの世でないのでしたら、俺はいったい何故こんなところにいるんでしょうか?」


受け取った名刺から顔を上げて創世神と名乗る少女、アスファリアにそう尋ねると、彼女は急にもじもじとした様子で両手の人差し指をすり合わせはじめた。


「ええっとですね、実は……さっき言ったように、私は創世神としていろんな世界を作る仕事をしていたりするんですが……その中の一つで、ルミテリスと名付けて作った世界がありまして。で、ですね、その世界を作った直後に地球世界の創世神さんからヘルプで呼ばれてしまい、幾神かの神々に後を任せて席を外して戻ってみたところ、なぜか管理を任せてた神々と連絡が取れなくなっているわ、世界の様子を視てみようにも妙な境界結界が発生してて干渉しづらい状態なってたりしまして……」


と、顔を真っ赤に染めながら、いきなりの早口で一気に彼女の事情を話し出し始めた。

そして途中で息を吸うためにか、一区切りをおいたところで彼女は左手を頬にあてて小さなため息を吐き出し、


「……慌てて調べてみると前千年紀くらい前まではきちんと百年ごとの定期報告書も上がってはいたのです。

 ですが、ここ数百年分は定期報告書も上げられてきていない状態だったりしまして……とはいえ、このまま放置しておくと次の創世神会議で他の世界の創世神からツッコまれて『管理不行き届き?』とか嫌味言われそうで……」


と、そこまで言ったところで、急にアハハハハハ……と、どこか遠い目をしてやさぐれたような声で笑いだした。


(あ、この姿、記憶ある。腐った性格してた上司からネチネチと嫌がらせ受けて精神を病みかけてた同僚がしてた目だ)


慎弥はその姿に、以前、教職に就く前にしていたプログラマーの現場での同僚の姿を思い出してしまった。


「えっと……なんかよくわかりませんが、女神さまもご苦労されてるんですね……」


「はい!それはもう!!

 最近はやたらと世界創造の依頼が舞い込んできますし、かといってちょっと気を緩めると最初に言ってきた注文に細かな追加仕様をちょびちょびと付け足そうとしてきて、そのくせ支払いは拒もうとする輩も多いですし……事後管理は別払いか別権限担当の神に任せろって言ってあるのにーーーーー!」


慎弥が思わず同情的な言葉を投げかけると、解ってくれますか!とばかりに、うっきゃー!と怒りの声を挙げる女神さま(美少女)の反応があった。

だがすみません。慎弥にはその姿は、まるで顧客から無茶な要望を後付けでされるシステムエンジニアみたいにしか見えなかった。


「――あ、すみません。ついつい興奮しちゃいました……こほん。

 えっと、ということでですね、そういったこちらの事情から、私と魂魄の波長が合う人を探してルミテリス世界に送りこもうとしていたのですが、ちょうど慎弥さん、貴方の魂が数多の生物の中でも特に高い割合で私と合致することが判明いたしまして。

 そこで死後の魂魄の洗浄前段階だった貴方の魂をこの場所へと召喚させていただいたわけなのです」


 いろいろ叫んで発散したらしく、照れ隠しをした後で姿勢や服装を正し直したアスファリアが、慎弥に向かって何故彼がこの場所に居るのか、ということについての説明をしてくれる。

 そこで細かく話を聞いてみると、普通なら死んだ後、死者の魂はすぐに魂魄の洗浄に回されて生前の記憶を消去され、その後、生前の行動に応じた特典や負債を与えられた上で他の魂と融合させたり分裂させたりして、新しい命として生まれ変わらせるのが一般的な処置であるとのことだった。

 けれどアスファリアとしては、状況がわからなくなってしまっているルミテリスという異世界を調べるために、彼女と奇跡的確率で魂魄の波長がほぼ一致状態で合致するという慎弥を、自分の代行者兼情報収集の端末としてルミテリス世界へと送り出したいらしく、そのために慎弥の魂については特別に記憶の洗浄や融合・分裂をさせないまま転生させたいので、その旨を説明するために魂魄の状態で呼び出したとのことだった。


 もちろん、何も説明せずに勝手に転生させることもできるのだが、前世の人格を残したまま転生させた場合、新たな肉体の中で魂が定着した時に前世の記憶と新たな肉体の中で発生した人格が衝突し合い、気が触れてしまう可能性のほうが高いといった問題が生まれるのだという。


「ん? ってことは自分がそのままの意識で新しい生を得られるってわけじゃないんですか??」


 慎弥がそう問いかけると、アスファリアは確かに頷いた。詳しい説明によると転生することで慎弥としての記憶は引き継がれるが、新たな肉体の中でその魂が肉体に定着するまでには少なくとも数年はかかってしまうということや、その魂の定着により新しい肉体に慎弥としての記憶や人格が蘇るまでの間には、その転生先の人生で構築される新たな人格が生まれているはずで、慎弥としての記憶や意識を取り戻すというよりは、その新たな人格と今の慎弥としての人格が統合された形になってしまうのだということであった。


「それは、言ってみれば別の人間に自分が憑依しちゃうとかそういう感じになるんでしょうか?」


「いえ、憑依とは違います。人が色々な仮面(ペルソナ)を付けて様々な役柄や立場を演じていても、その人の本質や意識が変わらなかったり、様々な物語を読んだり観たりして物語の登場人物の思いと共感したり投影したりしても、その人の本質の部分が変化したりしないですよね。それと同じように、"慎弥さん"という人格と"新たな人生の中で生まれる人格"は別の物であると感じることにはなると思いますが、それを感じる本質的な魂魄は慎弥さんと新しい人格のものでは同一ですので、本質部分は両人格ともに変わることはありません」


 アスファリアの説明だと新たな人生の存在を乗っ取るとかいったものではないということで、慎弥は少しホッとした思いだった。


「どうか魂魄の波長が私と合う慎弥さんには、私の代行者という形でルミテリス世界に転生していただくことになるのですが、その上でできればあちら側の世界の様々な場所を訪れてみてほしいのです。その上であちらの現状がどうなっているのかとか、可能であれば音信不通状態となっているルミテリス世界の管理神たちについて調べてもらえないでしょうか」


「重々に勝手な申し出ではあるということは理解しているのですが……」と続けながらアスファリアが頼み込んでくるのを、慎弥は困ったようにしばらく眺めていたが、最終的にハァ、と大きくため息を吐いた上で、


「わかりました。まぁどのみち転生しなきゃいけないっていうことなら、受け入れますよ。ただ、いろんな場所を巡るってのとかはまだしも、神様のこととかっていうのはいったいどうやって調べたらいいんですか?」


と言って受け入れることを表明した。すると、頭を下げていたアスファリアが、ぱぁっ!と明るい顔をして顔を上げる。


「あ、現地の神々のことについては、なるべく多くの現地の存在と縁を紡いでくれさえすれば、基本的にはそれだけでだいじょうぶです。

 さまざまなモノや場所と転生後の慎弥さんが縁を結んでくれれば、あとは自動的にこちらのほうでその紡がれた縁のつながりを辿ったり調べたりすることで管理神についての情報がないかどうかをある程度調べることができますので!」


「なるほど……じゃあ、実質的には転生後には好きに行動したりしてればいいだけということでしょうか」


慎弥がアスファリアにそう尋ねると、彼女は大きく頷いて肯定する。


「はい!

 同意して転生していただけた場合、条件を1つだけ除けば、あとは特段拘束したりするつもりはありません。

 その条件というのも『いろんな場所にいって、様々なものたちとの縁を作ること』ただそれだけです」


「なら、ちょっとこちらからもお願いがあるんですが……」


 そうして、そこから後は慎弥とアスファリアの間では、トントン拍子に話が進んでいく。

 アスファリアの説明によると転生先であるルミテリス世界のコンセプトは剣と魔法のファンタジー世界であり、報告が挙がってきていた頃まではその内容に沿った形で世界が進んでいたらしい。とは言うものの、いまはどうなっているかわからない、ということだった。

 ならば彼女から現地で生きるのに苦労しないよう、多少の肉体強化や言語理解などの様々な加護の提供を多少受けられるようにしてもらうことや、旅に必要なものを自由に持ち運べるようにと亜空間に繋がる特殊なアイテムボックスの提供や、生まれる環境への割り振りボーナスなどが欲しい、と慎弥としてはお願いしてみたところ、アスファリアからはあっさりと同意が得られ、慎弥にそれらの特典が与えられることになった。


「加護とかの内容の詳しいことは、転生された後でもわかるようにアイテムボックスの中にメモ書きをいれておきますね。

 アイテムボックスは使用したいと思えば発動するようにしておきますし、使い方は先ほどお教えした通りにやればだいじょうぶです。

 ――それでは、どうか幸せな生を長く過ごされますように」


そう言ったアスファリアの声を最後に、強い眠気に襲われて慎弥の意識は深く沈んでいった。

次に目覚めるのはきっと、新たな肉体で記憶を取り戻した時になるのだろう。





                   *  *  *





「……さて、それじゃあちらの世界へ魂を送り込む前に、ちょっと慎弥さんへの改造処置をしちゃいましょう。

 えーと、まずは好印象を持たれやすいように外見補正を強めにかけて……長く端末として活動してもらえるように肉体強度は最大にして、と。……それから……」


――慎弥が眠りに落ちた後、アスファリアがそうぶつぶつとつぶやきながら、慎弥のことを約束通り様々に"強化改造"していく。

ただ一つ、実はここに慎弥とアスファリアとの間での認識の落とし穴があったことに二人とも気づいてはいなかった。


 普通の"人"として生きてきた慎弥にとっての「多少の強化」と、"創世神"として長く様々な世界を作り出し、それに伴って多種多様な種族や存在を作り出してきたアスファリアが認識している「多少の強化」では、そもそもの判断基準が大幅に違っていたのだ。

 だが、この場には意識を持っているのはアスファリアしか居らず、そのことを指摘する者はだれもいない。そのため、結果として慎弥へとアスファリアが行う加護による強化は、多少どころでは済まないものへと発展していくことになるのだが、そのことに慎弥が気づくのは転生した後のことであった。





初めての小説執筆、なろう投稿になります。

拙いところがあるかもしれませんが、読んでいただけると幸いです。

また、感想・レビュー等いただけるとうれしく思います。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ