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神様の端末としてのんびりまったり縁を結びます  作者: 愚true
第1章 覚醒の日
15/67

(14)  分析



「……あなたは、奴隷商に捕まっていたからって、私をバカにでもしにきたの?」


ティアナからは、回答次第では許さない、という気迫と意思が、その射貫くような瞳と声の両方から伝えられてくる。

だが、その瞳に見つめられながらヴァルトが思っていたのは、


(あぁ、ホントに綺麗な目だな。それに、とても良い声をしている)


と、いうことでしかなかった。

そして、実際のところ、こうして感情を引き出せたのであれば、すでにヴァルトとしては当初の目論見を達成することはできていた。


(基本的な性格は慎重な理性型、ただし誇りを大事にするタイプ、と。

 そして行動を起こす時は躊躇しないが、先の展開を考えて用意しておくだけの知恵も働く、か。

 ……さて、あとはこの状況をこれ以上の騒ぎに発展させずに落ち着かせることだけだな)


 そもそもの話、ヴァルトはティアナと話をするに当たって、彼女に対しては最初から怒らせるか笑わせるか照れさせるか、のどれかにを行おうと考えていたのである。

 なのでこの状況は彼が誘導したようなものだった。

 それらを行おうとした理由は、ティアナの返答や反応から、彼女の人間性を分析するためである。

 さらに、それは単に彼女の性格を分析するためだけのものではない。世の中、良いにしろ悪いにしろ何らかの感情を揺れさせられるような、何か一つでも印象が強い相手のことは人間関係的に記憶から忘れにくくなるものだからであった。


 ――ヴァルトが父からの命に従わざるを得ないのであれば、これからしばらくの間は、ティアナというこの銀狼族の少女は、彼と行動を共にすることになる相手なのだ。

 ならば良きにしろ悪きにしろ、最初に喜怒哀楽の四大感情のうちのどれかを刺激した人間関係を作っておいた方が、後で関係を制御しやすくなる。

 逆に特別、何ひとつとして関心や刺激を感情的に与えてこない相手のことは印象が薄くなり、その距離感を埋めるために苦労を重ねる必要ができてくる。

 ファースト・コンタクトでの感情刺激が、人間関係を上手くつくっていくには必要なのだ。


 最も、さすがにヴァルトには哀しみの感情を刺激するつもりは無かった。辛い状態であったと推測される捕囚の状態から解放されたばかりの少女や、ヴァルトの背後から二人が話している様子を窺っている子どもたちに対し、そういった感情を刺激してやる必要はないだろう、と考えていたからだ。



(とはいえ、嫌悪や苦手意識にまで互いの感情が発展してしまっては失敗だからなぁ。調整を上手く取る必要があるんだよな)


要点を冷静に分析する。

――彼女が何について怒っているのか。

その点を履き違えた解答を行ってしまってはいけないのだ。


「いいや、別に馬鹿にするつもりも嘲るつもりもないよ。

 キミの眼や髪もたしかに綺麗だけど、そんな見てくれのことよりも……僕がキミのことを綺麗だと思ったのは、どんな状況下にあっても誇りを失わないでいるその姿勢についてだよ」


視線を彼女の瞳から逸らさず、逆にむしろ捕らえて離さないくらいのつもりの意思を込め、しっかりと見つめ返しながらヴァルトはそう彼の考えを伝えた。

てっきり言われるとしても外見のことなのだろう、程度に考えていた様子のティアナは、彼女の問いかけに対しヴァルトが返した答の内容に驚いたようで、その綺麗な瞳を大きく見開いた。


「それにキミはとても理性的で慎重深く、何よりも誇り高いのだろう。

 それが料理に手をつけていない理由なんだと思うんだけど、間違えているかな?」


驚いた様子の彼女が何か言葉を発する前に、逆にヴァルトのほうからさらに質問を投げかけてみる。


「……どうしてそう思うの?」


一度は昂らせた感情を抑えた様子を見せるように深呼吸したティアナが、ゆっくりとした口調でそう尋ね返してきた。

なので、ヴァルトは自分の考えを口にしてみることにした。


「……キミはたしかに捕囚の身であった。その状況下から、ここの騎士たちにより運よく解放され、保護されている。

 だが、キミはその状況を受け入れはしているものの、ただ恵まれることを良しとはしていない。

 施しを与えられ、それを甘んじて受け入れる。それをキミの心が、気構えが、誇りが良しとしていない。

 だから、出されている料理を口にできないでいた」


「違うかい?」とヴァルトはさらに問いかける。

その問いに対し、ティアナは無言でジッとヴァルトのことを見つめ返してくるだけであった。

そんなティアナに、ヴァルトはもう一つ指摘を行う。


「さらに言うと、キミのことを理性的で慎重深い人だと確信したのは、その手の中のナイフと、そこに残っている料理からだよ」


 そう言ってティアナの捕まえていない方の手と、テーブルの上に残ったままの料理が乗っている皿へと視線を動かす。


 ティアナがテーブル越しに掴みかかろうとして立ち上がった際、彼女は伸ばした腕とは逆の手で、サッと素早くテーブルの上にあった食器のナイフを掴んで服の中に隠し入れていた。

 そして、そのことをごまかすために他のフォークなどの食器は床へと払い落とすようにしたことを、あのゆっくりと流れる時間の中での観察において、ヴァルトは見逃してはいなかった。

 おそらくは状況次第ではその隠し持ったナイフを使って自分を捕らえるのに使用したり、この場から脱出することなども考えての行動であったのだろう。

 さらに、そんなふうに戦闘準備をするために食器を隠し持つ様子を見せておきながらも、一方でこの後、和解した場合のことも考えてなのか、料理自体は床へ落とさないようにと彼女は気を配っていたことについても、ヴァルトはしっかりと気がついていた。


 そんなふうに気づかれていることを、ヴァルトの視線と声からティアナも気がついたのだろう。

 なにより、彼女自身が捕まえるつもりで出した腕を逆に掴み取られていることで観念がついたのかもしれない。


「はぁ……そこまで見抜かれてるのなら、これ以上は無駄な行為ね」


降参、といった様子でティアナが身体の力を緩める。

そんな彼女の姿を見て、ヴァルトはにっこりと微笑むと彼女の腕を掴んでいた手の力を緩めて解放するのであった。

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