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神様の端末としてのんびりまったり縁を結びます  作者: 愚true
第1章 覚醒の日
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(10)  銀狼族


「残りの1名なのですが、どこから攫ってきたのかはわかりませんが、銀狼系の獣人種の少女でした」


 その騎士団長アーノルドが発した言葉に、その場にいた大人たちは瞬時に顔を強張らせた。

 最初に復帰したエイオスが、アーノルドに向けて確認を取る。


「それは……本当なのかね?」


「はい、この目で確認いたしました。

 年の頃は、見たところヴァルト坊と同じくらいの少女です。

 ほかの4人とは別の、特に厳重な檻に入れられて監禁されていたようです」


 この地の領主としての顔になったエイオスからの、強い質問にアーノルドはしっかりと応じる。

 その様子から見間違いでも誤報告でもなく、事実であるということを受け入れたエイオスは思わず頭を抱えた様子だった。


「まいったね……獣人種は基本的に仲間意識が強い。

 特に狼系の特徴を持つ部族は、その傾向がほかの部族より強いと聞くよ」


 そのエイオスの言葉に、父の補佐として政務や子爵領の外部との外交に関して、この中で一番関わっているグレウスが戸惑いの声で応じる。


「とはいえ、この子爵領どころか近辺の領においても、銀狼族の部族居留地があるとは聞いたことがありません。

 おそらくはどこか遠い他国で連れ去り、この地まで連れてきていたのだと思われます」


 グレウスの言葉にあるように、子爵領の近隣の地域や国家に、銀狼族の部族居留地があるなどといった話は、ヴァルトも聞いたことがない。

 獣人の部族居留地はたしかにいくつか子爵領内や近隣に存在してはいるものの、それらは全て別種の獣人たちの居留地ばかりであった。


「だろうね……ちなみに念のために聞いておくけど、その銀狼族の少女は生まれ故郷について何か言っていたかね?」


「いえ、残念ながらそのことについて、本人からは聞き取ることはできませんでした。

 我々が味方である、ということについては、どうやらひとまず理解してくれたようではあるのですが、部族の居留地について語ることで他の同族に危害が加わることを恐れているのか、そもそも最初から知らないのか、生まれ故郷についてはいくら聞いても答えてはくれておりません」


「そうか……捕らえた者たちの方はどうだったんだい?」


「それが、捕らえた者たちのうち、御者は死んだ連中が連れてきたと言い張っており、どこから攫ってきたのかまでは自分たちは知らない、と答えております。護衛の連中は、俺たちは道中で最近雇われたばかりだ、荷がそういうものだとは知らなかった、などと言っており、現在は屯所にて締め上げているところであります」


 そのアーノルドの報告を聞いて、エイオスとグレウスが共に額に右手を置き、頭痛をこらえる様子をみせる。

 一方、ヴァルトは獣人について先日の講義で習ったことを思い出していた。


 その講義の内容によると、一説では獣人種は古代大戦期に魔術師によりヒト種と獣の因子を掛け合わして作られた種族だとか、そうではなくヒト族もまた獣人の一種であるとの学説があったりと、ヒトに最も近い種族であるが、決定的なヒトと獣人の違いとして、彼ら獣人族にはヒトの要素に加え、獣の耳や尻尾、角や牙など、獣の肉体的特徴があるとの話だけは共通しているとのことである。

 そして特徴的なことに、たいていは同種の特徴を持つ獣人同士で部族単位で暮らし、他種族や他の部族と交わることは少ない居留地を持つのだそうだ。そのため、部族で固まることからきているのか、たいていの獣人たちは仲間意識がとても強く、一人の子を攫って殺された報復に街一つを滅ぼしたことも過去にはあったそうだ。けれどその反面、一度仲間として受け入れられた場合は、他種族であったとしても親身になって接してくれるのだという。

また、部族単位で生活していることから、集団としてのつながりが小さな部族が多く、そのため昔から違法奴隷として狙われることも多い種族でもあるとのことだった。


 なお、この世界では前世でいうところのヒト以外にも、エルフやドワーフ、獣人や魚人、竜人、そして(オーガ)など、人型であり多少でも意思疎通ができる種族のことを総じて人間である、として考えられている。

けれどその一方でゴブリン種やオーク種のように、同じ人型であっても意思疎通が基本行えず、出会えば殺しあうしかない獣のような他種族については、人間とは認められてはいない。


「……わかった。ではその身元不明の2名については、本人が拒否しないようであればうちで保護することにしよう。

 特に銀狼族の娘については丁寧に対処するように。

 それと、拿捕した者たちについては、徹底的に絞り上げて情報を引き出せ。

 関係者はだれなのか、他に仲間はいないのか、組織はどうなのか、どこに監禁していた者たちを売りつけようとしていたのか……どんな手段を取ってもかまわん、調べられることは全て囀ってもらうことにしよう」


「わかりました。では、そのように手配いたします」


 領主としての顔でヴァルトの父であるエイオスがそう命じると、その命令を受けたアーノルドが了承の意と共に一礼し、足早に部屋を出ていった。おそらくはすぐに受けた命令を実行するために部下に指示を出しにいったのだろう。


「まいったね……賊どもはとんだ置き土産を遺していってくれたもんだ。

 まぁ、唯一の安心所はウチの領地内で銀狼族の少女の連れ去りをしたわけじゃない、ということくらいかな」


 革張りの木製椅子の背もたれに身体を預け、ギッと音を立てさせながらエイオスがそう呟くと、補佐役でもあるグレウスがその呟きに向けて問いを投げかける。


「しかし、父さん、どうするんですか?

 銀狼族ともなれば獣人種の中でも割と希少な方だと思われます。

 下手に放り出せばまた狙われることになるだけですし、かといってウチで育てることにするというのであれば、そのうち、そのことを知った他の貴族などから身柄の引き渡しを要求されたり、あらぬ噂を流されたりしかねませんよ?

 違法奴隷としてではなくても、稀少であるというだけで自分の手元に欲しがる愚か者は、貴族の中にもたしかにいるのですから」


「うむ……だが、一度保護すると決めた以上は、無責任に放り出すわけにはいかん。

 そこは貴族としての義務や誇りに関わるところだからな、銀狼族とか関係なく行うことだ。

 ……件の少女のことについては、本人が拒否しない限りはウチで侍女として預かる、ということにする。

 その上で一定の年齢になるまでは騎士団の訓練にも参加させ、己の身を守れる強さを身につけてもらう。

 そうして将来的には本人に、どのように己の身を振るのかを選択させてあげればいい。

 もっとも、本人が保護を受け入れないというのであれば、その時はその時として考えれば良いだけのことだしな」


そう言ってエイオスがニヤリと笑う。


「それに他の貴族からの要求や根拠の無い噂なら、突っぱねるか無視するかすれば済む話だ。

 根拠の無い噂の内容が酷ければ、きちんと報復してやればいいだけのことだ、気にする必要はない」


「……まぁ、そう父さんが決めたのなら、それはそれで構いませんが」


「あとはそうだな……。

 よし、ヴァルト。なんでもおまえと年が近いとのことだから、おまえがなるべく親身になってその娘のことを助けてあげなさい。

 どうせしばらくの間は、警戒を兼ねておまえや街の子ども達には、都市の外へは出かけないようにと伝えるつもりだったからね。

 しばらくはその子の面倒を見てあげて、支えになってあげると同時に、この地での暮らし方をその少女たちに教えてあげて過ごせば良い」


 エイオスの突然の思い付きのようなその指示に、ヴァルトは思わず「突然、何を言ってるんですか?」と言いたくなってしまったが、にこにこ顔の父を見て、その言葉を口にするのはあきらめた。

 エイオスがその顔をしている時は、だれが何を言っても方針を変えない決定事項の通達である、ということを経験上、知っていたからだ。


「わかりました……それじゃ、とりあえず僕はその娘に一度会いに行ってみます」


 ヴァルトはそう言って、父や兄たちに向けて頭を軽く下げるとその場を立ち去った。特に静止の声は無かったので、これでこの場でのヴァルトの役割はこれで終わりだったのだろう。



エイオス「というか、ケモ耳っ娘とかエルフっ娘の保護は至上義務だ、JK」(。+・`ω・´)キリッ・゜:*.


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