当て馬なんかになりません!
ご無沙汰しています。
初めましての方は初めまして!
『当て馬として頑張ります!』と『当て馬?なにそれ?そんな事より頑張ります』と言う作品の番外編みたいな作品です。
そちらも読んでいただけるとより楽しめるかも知れません!
単体でも大丈夫な予定です!
読んでいただけると幸せです!
私が勤める会社はカスだ。
頭の悪い上司、やる気の無い後輩、自慢話しかしない先輩。
昨日出した企画は通ったが、私はプロジェクトから外された。
普通、企画発案者がプロジェクトの中心とは言わなくてもプロジェクトメンバーに入るだろ?
しかも、上司が私に言った一言は………
「今回の取引先は大手企業だから女なんかに任せられるわけ無いだろ?」
ぶん殴ってやろうかこの糞野郎。
私は殺意を圧し殺し、笑顔だけを向けてその場を後にした。
私、城井月花が何故こんな糞会社に居るのか?っと聞かれれば一度一般社員を経験したかったからだ。
私の家は上場企業をいくつも抱える某有名企業だ。
父親はそれを取りまとめ、弟がそれを支えるようになるだろう。
弟はまだ高校生だが、いくつかの会社の売り上げ向上に一役かっている。
私も自分で作ったブランドの店を二つほど持っているが、友人に任せっきりになっている。
そんな自分の店まで持っているのにもかかわらず、私はこの糞会社に就職している。
この糞会社に入ってすぐに思った。
従業員には死ぬほど優しくしよう!
って。
自分が虐げられて、私はこんな会社だけにはしないと強く思った。
そんな私の今の癒しは会社から3百メートルほど離れた路地裏にある喫茶店「ノアール」。
知る人ぞ知る名店で私はここで珈琲を飲むのが唯一の癒しになり始めていた。
だからこそ今日も、短い昼休みに昼御飯を諦めて珈琲を飲みに来た。
会社のストレスを発散させるために来たのに今日は何故か混んでいて席に座れそうに無くて舌打ちしたい気持ちをグッと押さえた。
「あの人美人じゃないですか?」
「本当だ!ね、社長!」
その時そんな声が聞こえた。
私の方を見て話す男の人達に、私のことを言ってるなら相席させてくれるかな~っと思った。
その中で私に背を向けて座っていた、社長と呼ばれていた人が私の方を振り返った。
あ、あの人だ。
私と目の合ったその人は驚いた顔をして呟いた。
「月花ちゃん?」
私はその人のもとへ行くと言った。
「ご無沙汰しています、匠さん。」
「月花ちゃん、いつ見ても美人さんだね‼」
「匠さんも代わりなくイケメンですね。」
彼、藤沢匠さんは実家の企業よりもデカイ企業の跡取りで私は何度か顔を合わせる人で私の初恋の人だった。
匠さんの姪の神津麗ちゃんが私の弟と年が近かったため年の近い子供の集まりのお目付け役によく抜擢されていた私は匠さんと話す時間が多くて大人な雰囲気の匠さんに惚れてしまうのは仕方がない事だったと思う。
そんな匠さんに会うことは、ここ最近は無くて久し振りに会った彼はやっぱり格好良くて初恋の甘酸っぱい感情がじわじわと私の中に広がっていくのが解った。
「月花ちゃん、ここに座りなよ!月花ちゃんはこの辺に会社あったんだっけ?」
私は匠さんの横に座ると言った。
「城井の企業はありません。ここから3百メートル先にある広告会社に勤めているんです。」
「!?勤めているの?」
「一般企業がどんなものなのか知りたくて、家の名前を使わずに就職してみたんです。」
私は名刺を出すと匠さんに渡した。
匠さんはその名刺を見ると言った。
「月花ちゃんから見てこの会社は?」
「糞です!………すみません、口が悪いですね。最悪の会社です。女と言うだけで仕事がこんなにもやりにくいと始めて知りました。」
「………これから君の会社に行くんだけど………結構良い企画出してたよ?」
「………大手企業ですものね。」
上司の言っていた大手企業は、そう言えば匠さんの傘下の会社だった。
「?月花ちゃん?」
「私は無力だと痛感しました。」
「へ?」
「こっちの話です。企画は面白いはずです。自信があるので話を聞いてから契約してほしいです。」
「それは勿論。」
私は珈琲を諦めて店を出ようと決めた。
「あの、私はそろそろ………」
「え?まだ何も頼んでないよね?うちのやつらも月花ちゃんが美人でお近づきになりたいみたいだし奢るからもう少し話しよう。」
匠さんの笑顔についつい店を出るのを諦めたのは言うまでもない。
匠さんの話は楽しくて時間がたつのがあっという間だった。
匠さんの会社の人達は私が城井の人間だと知ると恐縮してしまった。
「そろそろお昼休みも終わるので戻りますね。」
「こんど温泉旅行行く時は月花ちゃんも呼ぶから一緒に行こう!」
「麗ちゃんとも最近会ってないので私が居たら邪魔じゃないですか?」
「みんな月花ちゃんにお世話になってたやつらだから、むしろ喜ぶよ。俺も嬉しい。気を使っちゃうって言うなら俺と二人きりでも良いよ。」
「また~色んな女の人に同じことを言ってるんでしょ!」
「まさか、月花ちゃんだけだよ‼」
「騙されません。また機会があったらお話ししましょうね。皆さんもお邪魔してしまってすみません。それと、私は会社では匠さんにかかわる事は無いと思うので話しかけたりとかは止めて下さいね。では、また。」
私はそう言って喫茶店を後にした。
嫌な事も匠さんとの世間話で癒されて、どうでも良くなってしまったのは私が単純だからだろう。
その後、社に匠さんが来ると匠さんは私を探したりはしなかった。
うちの会社の女子社員は目の色を変えて匠さんを見ていて怖かったが、匠さんはそんな視線にはなれっこみたいで気にも止めていなかった。
遠目からでも匠さんを眺められて私は幸せだったのはやっぱり私が単純だからだろう。
あの日から、匠さんは私が渡した名刺から私の携帯によく電話をくれるようになった。
昔みたいに、私の癒しの時間。
私の弟の婚約者の日和とは仲良くしているらしい話も聞いた。
勿論日和と二人きりで会っている訳では無くて姪の麗ちゃんや親戚の柚樹君達に付き合わされているのは明白だった。
日和と二人きりで会っていたら、何もなくても弟は許さないと思う。
弟は日和の事になると少々怖い。
ストーカーとは言わないが………それに近い気もする。
「城井、俺の彼女にしてやろうか?」
自意識過剰な先輩にそう言われたのはその頃だった。
「………大丈夫です。必要ないです。」
「そんな事言ったってお前25歳だろ?彼氏ぐらい必要だろ?俺が少しぐらい付き合ってやるよ。」
この勘違い男ぶん殴って良いだろうか?
私は必死に殴りたいのを我慢してお断りした。
それから数日後、その先輩が専務の娘を孕ませて結婚が決まったと聞いて本気でカスだと思った。
「君にはこの時間をもってこの会社を辞めてもらう。」
意味の解らない事を言われた。
社長に呼ばれて社長室に行ったら、専務と社長が待っていて専務にそう言われたのだ。
「………何故でしょうか?」
「君がうちの婿どのをたぶらかして居たらしいじゃないか!そんな女を雇っておけるわけが無いだろ!だから女は………」
糞会社だとは思っていたがここまでとは思わなかった。
反論する気にもならなかった。
辞めよう。
もう疲れた。
そうだ、海外旅行に行こう。
私がボーッとそんな事を考えていた。
「さっさと私物をまとめて出て行きたまえ。」
私は一言も喋らず社長室を後にした。
自分のデスクにある私物なんて少ししかないが少し大きめな段ボールを渡され、その中に私物を入れていった。
「城井先輩移動っすか?先輩居ないと、仕事できる気しないんすけど?」
やる気の無い後輩に私は笑顔を向けた。
「移動じゃなくてクビになった。」
「………はあ?意味解んねえっすよ!城井先輩ほど仕事出来る人居ないじゃ無いっすか!クビとかあり得ないっしょ!」
後輩の叫びに他の私を知る社員達が一斉に私を見た。
後輩が私をそんな風に見ていたなんて知らなくて何だかくすぐったかったが笑顔で彼の頭を撫でて言った。
「私が居なくなっても頑張れ。」
「………俺、城井先輩が好きッス俺と付き合って下さい。」
「うん、無理。もっと良い男になってから出直して!」
私があっさり後輩からの告白をかわすと後輩に泣かれてしまった。
「月花ちゃんが男泣かしてる。」
そこに響いたのは匠さんの声だった。
「私が泣かした訳じゃなく、勝手に泣いたんです。人聞き悪いです。匠さんは………私に何か用ですか?」
「………この会社の社員登録から月花ちゃんの名前が消えたって日和ちゃんが教えてくれてね。何かあったのかな?って気になって………本業に戻るの?それとも新たに起業するの?まさか、結婚じゃないよね?」
匠さんは私の目の前に来るとニコニコと笑って見せたが目が笑っていなかった。
「どうせ結婚では無いです。………専務の娘婿に色目使ったとか意味解んないこと言われてクビです。とりあえずこの先はモルジブにでも行ってストレスどうにかしてから考えます。」
「………その前に本業の方なんだけど、うちの傘下に入らないか?君の立ち上げたブランドの知名度もうなぎ登りみたいだし、うちに欲しいと考えているんだ。」
「匠さん。お断りよ!私が作ったブランドは私の物よ!貴方のオモチャなんかにさせない。あれは私だけの物よ。」
匠さんはフフフっと笑うと言った。
「そうだね。俺も実際に欲しいのはオモチャじゃない。」
「?」
「月花ちゃん、うちで働かないか?うちに来てくれるなら用意出来る仕事は二つ!俺の秘書と俺のお嫁さん!どちらか1つでも良いし両方でも良い。どうかな?」
匠さんは私の肩を掴んだ。
匠さんの言った言葉がジワジワと私の中に染み込んでいく。
私はただただ驚いてしまって声が出なかった。
それは私を手元に置いておきたいと言うことだろう。
「私がそばに居たら匠さんの周りの女の人は嫌がるんじゃ………」
「何で月花ちゃんは俺が女たくさんはべらせてると思ってるの?俺は始めて月花ちゃんに会った時から月花ちゃん一筋なんだけどな~‼」
「………………ロリコン?」
「月花ちゃん…」
「だって、匠さんと始めてあった時って私たぶん中学生。」
「………俺が成人した年だから月花ちゃんは15歳か?でも、月花ちゃん当時から大人びてたからな~。」
匠さんはさらにクスクス笑うと言った。
「月花ちゃん、俺は君を諦める訳にはいかないんだよ!俺は君が好きで君の家があの城井なんだから。うちの妖怪ジジイは君がお気に入りだ。女の好みまで似てるなんて嫌になるけど、ジジイが動いたら俺は君を手に入れられなくなる。だからこそ、このチャンスを逃す訳にはいかない。それに欲しいと思った女を手に入れられないようじゃ神津の当主になんてなれないだろ?」
ああ、逃がす気なんて無いと言われている。
「………とりあえず、モルジブ行ってから考えても良いですか?」
「どれぐらいで帰ってくるのかな?」
「………3ヶ月は向こうに居てミラノの店の様子見てからパリの本店で新しいデザイナーの採用オーディションして………」
「年内帰ってこないつもりか………」
バレてる。
「モルジブは一緒に行こう。3ヶ月一緒に居れば俺の嫁に来る気になるでしょ?」
「………意味が解りません!匠さん仕事どうするの?」
「大丈夫!会議もネットで出来るしうちの社員優秀だから3ヶ月ならどうにでもなる。柚樹脅して代わりさせっから、月花ちゃんは俺を好きになってくれれば良い。」
どうしよう?
逃げられる気がしない。
私は頭が混乱していた。
「え~と考える時間が欲しいです。」
「君に考える時間をやったら逃げる方法を考えるだろ?そんな事考えさせるぐらいなら側に居た方が可能性があるってもんだ。」
ど、どうすれば良い?
その時目の前に現れたのは専務だった。
「城井!君はもうここの社員じゃないだろ!早く出ていけ‼」
助かった‼
私はたいした物の入っていない段ボールを抱えてその場を後にしようとした。
「ここの専務さんは凄いことを言う。月花ちゃんに出ていけ………」
「た、匠さん?」
「ここの一番のお得意さんのジエイクコーポレーションの社長は月花ちゃんの信者なのに。」
「………匠さん、ジエイクの社長は私がここで働いているなんて知らないから。」
「ああ、だろうね!知ってたら月花ちゃんに出ていけなんて自殺行為言えるわけがない。それだけじゃない、雪兎君がここに居たらこの会社は3日ともたないだろうしね。将虎さんがここに居たら24時間以内に会社は乗っ取られているね。」
「あ、あの~父を買いかぶりすぎでは無いですか?」
「俺は将虎さんに3つほど会社取り上げられてる。あの人は簡単にやるよ。」
「な、何で父が匠さんの会社を?」
「ああ、月花ちゃんを嫁に欲しいって言ったからさ!」
「嘘……」
「嘘じゃない。それぐらい俺は月花ちゃんに惚れてる。」
私が絶句すると匠さんは企んだような笑顔を作った。
「神津の名にかけて逃がす気なんて無いから、一緒にモルジブに行こう。」
無理だ。
神津に逆らえるわけがない。
私の中で何かが終わった気がした。
「………解りました。一緒にモルジブに行きます。」
「俺の事も好きになってね。」
私は抱えた段ボールを見つめて言った。
「………大丈夫です。私、匠さん好きなんで。」
「へ?」
「私の初恋の人は匠さんです。雪兎に匠さんの写メ横流ししてもらうほど匠さんの事好きなんで。」
「………」
何も言ってこない匠さんをチラッと見ると私は驚いた。
匠さんは左手で口元を隠していた。
顔は耳まで真っ赤だ。
「た、匠さん?」
「いや、長期戦になると思ってたから………」
匠さんは両手で顔を隠してしまった。
か、可愛い!
「やだ、可愛い!」
「………可愛い嬉しくないから。」
「ちょっと、携帯!」
「マジで止めて‼」
私は大人な余裕を微塵も感じなくなった匠さんが可愛くて悔しいほど愛しいと思ってしまったのだった。
このあと、匠さんとモルジブに行く事になった。
飛行機の中匠さんの手をさりげなく掴んでみたら顔を背けられた。
でも、耳がまた赤く色づいていたから照れているだけみたいで私はにぎにぎと手を繋ぎ続けた。
「可愛い。」
「からかうなよ。」
匠さんは恨めしそうにそう呟いたけど手を離しはしなかった。
私は嬉しくてついつい笑ってしまった。
遊びすぎてしまった事を私は気がついていなかった。
モルジブについてホテルの部屋に着いて唖然とした。
部屋が1つ………いや、スイートだからいくつも部屋はある。
スイートルーム1つって言えば良いのだろうか?
私が困惑している間に私の後ろのドアがしまった。
突っ込んだほうが良い!
私が口を開く前に私は匠さんにお姫様抱っこされていた。
「煽ったのは月花ちゃんだよ。」
「へ?」
「大丈夫、優しくするから。」
私の次の言葉は匠さんの唇に飲み込まれてしまった。
私が腕の中でもがくと、匠さんは私を抱えたままベットまで走った。
「ま、待って‼」
「無理だよ。どんだけ我慢したと思ってんの?」
「も、モルジブだよ!海だよ!遊ぶのが先でしょ!」
「遊んだら疲れちゃうだろ?疲れるならベットの上で十分。」
「お、可笑しい可笑しい!海!」
「無理。黙って。」
「う、海。っ………」
匠さんの荒々しいキスに全てをのみ込まれそうだと思った。
「っあ………ふぁっ……あっ………」
自分で出したことのない声に慌てて口を押さえると、匠さんに首をかしげられた。
「………」
「始めて?」
「………」
私は匠さんを睨む事しか出来なかった。
「………言わないと手加減しないけど?」
「!………だ、だって、匠さん以上に好きになれる人なんて居なかったから………」
私が慌ててそう言うと匠さんは驚いた顔をした。
「し、処女じゃ………面倒?」
匠さんは大きなため息をついた。
「月花ちゃん………ごめん。」
匠さんは私を強く抱き締めて耳元で呟いた。
「そんな可愛い事言われたら手加減できない。」
「?」
次に見た匠さんの顔は本当に色っぽくて私はもう逃げられないと悟った。
あの後の匠さんは………うん。
言い表せないぐらい色っぽくて、エロかった。
「お、お風呂は一人で入る!」
「動けないでしょ?大丈夫、隅々まで洗ってあげるから!」
「嫌!手つきがエロい!」
匠さんは手をワナワナさせながらそう言った。
「え?月花ちゃんもメチャクチャエロい顔してる。」
「し、してない‼」
「………スッゲー色っぽい顔してる。」
匠さんはニコッと笑うと私にキスをした。
しかも、そのまま私をお姫様抱っこするとバスルームに向かって歩き出した。
「た、匠さん?」
「月花ちゃん、俺かなりエロいから覚悟して!」
「む、無理~‼」
私は必死に叫んだが、匠さんを喜ばせるだけだった。
ずっと片思いしていた人だけど、私はすでになんとも言えない後悔に襲われていた。
「月花ちゃん愛してる。」
それなのに、匠さんの一言で後悔なんて吹き飛んで幸せに包まれてしまうのは私が匠さんを愛してると言う証拠なのだろう。
それから一週間後に、雪兎が現れた。
「やあ、雪兎君!」
「とりあえず、これを。」
雪兎が手渡したのは婚姻届の入った封筒だった。
「よく持ってきてくれたな!」
「………このまま挙式でもしたらどうですか?逃がす気無いんでしょ。」
雪兎の心底どうでもよさそうな声に匠さんはニヤッと笑った。
「逃がさないよ勿論!雪兎君だって、日和ちゃんは絶対に逃がさないだろ?」
「………当たり前です。」
不穏な空気の中、二人は共鳴するようにハハハハーっと笑っていて怖かった。
こうして私と匠さんは結婚することにトントン拍子になっていて、私は人生とは目まぐるしく変わるものなのだと実感していた。
勤めていた会社はお父様があっさり乗っ取っていて笑えた。
匠さんは本当に私を大事にしてくれて幸せだと実感して思うんだ。
この幸せを守るためなら何だってする。
誰にも譲ってなんてやるもんか!
この幸せは私だけの物だ!
end
ここまで読んでいただいてありがとうございます!
幸せです!
ありがとうございました‼